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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
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大広間

 尊たちが九曜邸に居候することになったと聴いて、早速、卓もやって来た。仕事明けの日没である。日が段々と短くなる。おとよはいないが、鏡花の手料理が食べられると知り、取るものもとりあえず、馳せ参じたのだ。通された部屋はいつもの鏡花の牢ではなく、牢より広い大広間だった。座卓が並び、禎允、鏡花、尊、明子が食卓に着いている。そして。

「姉貴!? 何でいるんだよ!」

 卓の姉二人、(さき)(しの)が、至極、自然にいることに、卓は盛大な突っ込みを入れた。二人共、弟と異なり商社に勤めるOLで、退勤時間は卓より早いのが常だ。

「不肖の弟がいつもお世話になってるお礼に伺ったのよ」

 しれっと二人は言うが、卓は内心で嘘だっと叫んだ。大方、尊が九曜邸に身を寄せたと聴きつけ、押しかけたに違いない。それにしても、天下の特殊異能部隊隊長・九曜禎允の邸に乗り込むとは豪胆と言う他ない。尊と同じ座卓に着いて、愛想よく酒の酌などをしている姿に、卓は脱力しそうだった。

「……俺、帰る」

「卓、秋刀魚(さんま)のパスタと鯵のカルパッチョ、法蓮草入り出汁巻き卵に野菜スープがあるぞ。デザートはプリンだ」

「全部、鏡花ちゃんが作ったの?」

「明子さんと一緒にな。明子さんは、流石に主婦の先達。教わるところが多い」

「いただいていきまーす」

 態度をころりと変えて、卓はなるべく姉たちから遠い座卓に着いた。そこには鬼禎允が座している。姉たちの、イケメンへの妄執に弾かれたのかもしれない。禎允とて美中年なのだが、若いほうが好まれたのだろう。些か哀れである。宗太郎は、昔から咲たちのお気に入りだったから、近い座卓に着いている。彼自身は咲と篠をやや苦手としており、今は鏡花の手料理に集中していることが窺える。

 大広間の床の間には錦鯉が描かれた掛け軸があり、それを眺めて飲み食いしつつ、卓は芳文のことなどを思案していた。あれから宗太郎と尊に何度か稽古相手となってもらった。他の人間では話にならない。実力が拮抗する宗太郎とのほうが、良い鍛錬になるようだ。尊は練達者過ぎて逆に参考にならない。そんな彼らが剣道全国大会に出場しない理由は、宗太郎の場合は鏡花から目が離せないから、であり、尊の場合は明子から離れたくないから、である。双方、想う女性の傍にいたいという動機が似通っている。女に現を抜かして、とは卓は考えない。そういう選択肢もある。人生において何を尊ぶかは、人それぞれだ。そもそも尊は、それがなくても大会に出場する暇がない。異能課随一の実力者として、日々、禎允にこき使われている身の上である。

 宗太郎の剣は、本人の気質を反映して素直なものだ。しかし、素直であっても、やたら腕が良いとやりにくさは変わらない。卓は敏捷さを活かして敵を翻弄する剣術を使うが、宗太郎の場合は、より正統派である。尊はと言えば、やはり話にならない。剣術の鍛錬に勤しむほど、時間に恵まれてはいなかった筈だ。だと言うのに、卓を圧して余りある剣才。一体、いくつ天才の称号を掻っ攫えば良いのかと、卓はうんざりする。尊が色々と持ち過ぎなのも事実だった。そして時々、卓は不安になる。過ぎた天才は早世するのではないかと。今もそんな不安に襲われ、口元に運ぼうとしていた盃を止め、尊に声を掛けた。大広間なので、離れた座卓に着くと会話の成立も一苦労である。

「鴉ヶ谷先輩、死なないでくださいねー!」

「まあ、何を言ってるのよ卓。縁起でもない」

「お姉さん方、落ち着いて。あれで卓は僕を心配してくれているのですよ」

 尊がにこにこ笑いながら取り成すと、咲と篠は「そうですのねええええ」と、態度を変える。尊は人当たりが良いので、卓の姉たちにも絶賛、好意的に捉えられている。卓の唐突な発言の意味するところも、大体解っているので、目くじらを立てることもない。咲たちはそんな尊の度量の広さにも感嘆している。但し、彼の隣に鎮座する明子という妻の存在がいるので、おおっぴらにその好意を伝えられないのがもどかしいところだ。明子は咲たちの思惑を承知の上で、おっとり微笑んでいる。妻の余裕と言うより、愛する夫が人気者で嬉しいのだ。そんなところを見て取った卓は、明子も人が良いと思いながら、姉たちが粗相しないように祈った。

「それにしても鏡花。秋刀魚のパスタは初めて食べたが、美味しいものだな」

 尊たちの座卓に、我関せずと食事に集中していた宗太郎が、自分の手柄のように笑顔で鏡花に告げる。

「旬だからな。味付けのコツは明子さんから教わった」

 褒められて、鏡花も満更ではない様子だ。

「鯵のカルパッチョも酒に合う。オリーブオイルが鯵とも酒とも喧嘩しない」

「鯵は私が(さば)いた」

 ふふん、と鏡花は胸を反らしている。ああ、捌くとか得意そう、と卓はそれを聴いてこっそり思った。

「どうだ、鏡花ちゃん。牢以外での部屋での食事もたまには良いだろう」

 美女二人の手料理に舌鼓を打ちながら、禎允がにこやかに言う。

「うん。たまには良いけど、私はやっぱり牢屋(おへや)が一番好きだな。宗太郎もいてくれるしな」

 大広間が一瞬、静まり返る。行動の早い篠が素早く弟の座る場所に移動し、その耳にぼそぼそ光速で喋りかける。

「ねえ、卓。何あれ。やっぱり鏡花ちゃんと宗太郎君って、そうなの? あんた、うかうかしてると宗太郎君に鏡花ちゃんを取られちゃうわよ!」

 卓も小声でぼそぼそ返す。

「俺はバックダッシュだから良いの。鏡花ちゃん……。あれで俺に惚れてるんだぜ。一夜を共にした仲だしな! 嘘じゃないぜ!」

 ほぼ嘘である。

 卓が千鶴による時の異能に倒れ、一晩中、鏡花の看病を受けた夜のことを歪曲(わいきょく)して告げている。

「何それ、聴いてないわよ、そんなの」

「言ってねーし」

「まあ、あんた、頭はともかく、顔は良いし稼いでるし腕っぷしも強いから、おねーちゃん、結婚に関しては心配してないけど。もし鏡花ちゃんにやることやったんなら、ちゃんと男として責任は取りなさいよね!」

「はーい」

 光速での会話が終わると、篠はまた素早く尊のいる座卓に戻って行く。姉も剣道の素質があり、身ごなしは素早い。何もその素早さをこんなところで発揮しないでも良いだろうにと、野菜スープを飲みながら卓は思った。



「賑やかそうだね」

 九曜邸の上空。悠然と宙に浮きながら、千鶴が評する。空はとうに日が落ち、闇夜の刻限だ。今日は月が明るく、千鶴は気持ちよさそうに月光浴を楽しんでいた。

「どうだい、初道? あの結界、君なら破れるかい?」

 背後に浮く初道を振り返る。

「……無理です。強化最大限。恐らく九曜禎允が張ったものでしょう。あれを破るのは、なまなかなことではないかと」

「ふうん。それは困った。折角、鴉を除いておこうと思ったのに。あれだけのレベルの異能者に寄り集まられては、手出しが出来ないよ。専守防衛か。鴉はあれで熱血なところがあるから、妻にちょっかいを出せばこちらに向けて飛び出してくると思ったんだけどな。それで初道をぶつければ、上手く消えてくれるかと期待したんだが。さて。身重の妻を狙いたいところだが、ガードが堅いな。個人に施す結界の最上級を纏っている。……結界術も天才か。鴉め。芳文。君の好敵手はどうだい?」

 こちらは千鶴の前方にいた芳文が答えた。

「次は俺がやるよ」

「頼もしいね。剣聖の秘蔵っ子。けれどくれぐれも油断しないように。渡瀬川卓は剣豪と称して十二分な腕前の持ち主だ」

 それからしばらく、月光を浴びて千鶴は沈黙した。

「待っておいで、鏡花。いずれ君を迎えに行く。その時には、その美麗な牢から出してあげるよ」



宗太郎「おい、卓」

卓「うん?」

宗太郎「何だ、鏡花と一夜を共にしたって」

卓「嘘は言ってねえ」

宗太郎「そうだな言い方の問題だよなよし決闘だ!!」

卓「おもしれえ。受けて立ってやるぜ。お前とはいっぺん、真剣勝負をしてみたかったんだ」

尊「ええ~(*´Д`)。やめてよ君たち~。第一の甲同士の決闘の手続きってすごく面倒なんだよお」

卓「そうなんですか?」

尊「うん。決闘の申請書提出にはまず、戸籍謄本、マイナンバーカード、あ、免許証でも良いよ。あと~、住民票、保険証、保険証は同居人がいればその全員分のコピーも必要。それに、第一の甲の身分証も。君たち、持ってるでしょ。あれ。それからそれから、履歴書と、決闘を申請する理由、ここ大事ね。なまなかな理由じゃ弾かれるから。署名捺印、あーと、いれば自分の後任に推す第一の甲候補の指名とか。母子手帳とへその緒も必須だった筈。そこは君たちのお母さんに確認してもらってね。で、申請してからが、やっと本番」



卓「あ、もしもしお袋? 俺の母子手帳とへその緒ってちゃんと保管してある?」

卓の母『いきなり何? 確か、箪笥に奥直ししてる筈だけど、へその緒は、篠と咲のと混ざって区別つかないわよ』

卓「マジかよ。もっときちんととっといてくれよ!」

卓の母『どうしてそんなに真剣なの?へその緒に?あんた、そんなセンチメンタルな子じゃないでしょう。変な子ねえ……』


宗太郎「押小路長官ですか。至急、巫女に確認したいことがあるのですが」

押小路『何ですか。巫女との接触は身内であれ基本、厳禁ですよ』

宗太郎「俺の母子手帳とへその緒の場所を訊きたいんです」

押小路『忙しいのでこれで切ります』



宗太郎「いっそ嫌がらせのように面倒だ……。まず母子手帳とへその緒と決闘の因果関係が理解できない。それ、第一の甲同士の決闘を未然に阻止しようと、わざと作られてません?」

尊「そらそうだよ。第一の甲は国家の盾であり、剣。一名の損失だって痛い。上が歓迎する訳ないじゃん。そして、申請が下りるまでに、下りるとしたらだけど、約一年。まず君たちは決闘の動機が不純だから通らないだろうね。ちなみに審査官には僕や隊長も加わります。わかるかな。君たちの決闘の成立の見通しは絶望的ってこと。だから決闘なんてバカな真似は諦めなさい。決闘の申し込みに、白い手袋投げつけるだけですんでた欧米の昔とは時代が違うんだよ」

宗太郎「動機が不純……? 失礼だな、純愛だよ」

尊「うん。どっかで聴いた台詞。名台詞だとは思うけど、今の君には使ってほしくないです」

卓「先輩は決闘の経験とかないんですか?」

尊「だからあ、めんどいって言ってんじゃん。特殊異能課の次長クラスが決闘だなんて、表向きのシステムには記載されてても、実際には絶対に許されないから」

卓「でも明子さん、モテるでしょう。ぶっちゃけ、痴情のもつれとかなかったんですか」

尊「卓くん。僕は、群がる虫は瞬殺する主義です。決闘だなんて、まだるっこしい」

宗太郎「え……?先輩、影で消して……?」

尊「はい、お開きお開き。そんな昔のことなんて、一々、憶えてないよ~(*^-^*)☆」


卓・宗太郎((殺ったんだ……))



卓「おい、生きてるか九藤。延々、俺たちで遊びやがってお前、快復したの?」

九藤「未だ病床なう。もうすぐ死ぬ。後書きにも全力を尽くす己のサービス精神が憎い……っ」

卓「自業自得ってやつだぞ、それ」

九藤「最近のジャンプでは新連載の『カグラバチ』がお気に入り……。『呪術』の鹿紫雲くんは、ムーミン谷から来たのかなって思ってる…………」

卓「へー。知らん。いい年して好きだな。最期の言葉はそれでいいか?」

九藤「まだ。明日は後書きありません」

卓「力尽きたか」

九藤「違う。宗太郎に、良い雰囲気の本編を後書きでぶち壊しにするなと、脅さ、お願いされた、から」

卓「あー。最期の言葉はそれでいいか?」

九藤「うん」










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[良い点] なんで、へその緒がいるんですー(´д`)?←後書きについ反応しちゃう。
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