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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
37/58

パーティー会場は飲み屋に変じ

 宗太郎は、飛来した鏡花たちを見て目を瞠った。

「退くよ、宗太郎。今は少し分が悪い。隊長宅まで飛ぶ」

 ダークスーツの尊が、指示を出す。言葉を呑み込み、理解した。彼をして〝分が悪い〟とまで言わしめる。千鶴一党は、侮れない敵であると改めて痛感する。宗太郎は余計なことは言わずに頷き、宙に舞い、彼らに合流した。眼下には街の明かりが広がり、視界に不自由はない。九曜邸に着くと、宗太郎が結界を開錠した。一同、鏡花の牢へと集う。

「風呂を沸かしてくれ」

 鏡花が家政婦に頼み、男たちも牢内のあちこちにどっかりと座り込む。卓が左腕を見て舌打ちする。

「一張羅が台無しだぜ。鏡花ちゃん、螺鈿総譜で縫物も出来ない?」

「ミシンじゃないんだぞ。螺鈿総譜を何だと思っている」

「あー、パーティー会場での写真も撮っておいてねって明子に言われたのに、撮り損ねたああ」

 物静かな宗太郎以外は好き好きに勝手を言っている。やがて風呂が沸き、鏡花は洗面所へと消えた。それを見届け、窮屈なネクタイを緩めながら宗太郎が尊に問いかける。

「何で退いたんですか、鴉ヶ谷先輩」

「ちょっと厄介な異能力者がいてね。黒斗初道……だっけ。見た目は只の巨漢なんだけど、対する相手の異能を削ぐ異能が厄介。僕も油断してそれでやられた」

「鴉ヶ谷先輩が……」

「もう戻ったけどね」

 既にけろりとして笑っている。

「今後の対策としては?」

「そうだねえ。〝貰っちゃおう〟か。出来ることならねえ。只、そう簡単には行かなさそうだ。僕には千鶴君より初道君のほうが厄介な相手に思えるよ」

「尊に難しいのなら、私が仕合おうか?」

 風呂から上がった鏡花が、良い匂いをさせながら浴衣を着て立っている。ドレスはハンガーに下げている。ふんわりした芳香を漂わせる美少女の湯上り姿は、男であれば誰でも相好を崩すものだ。それは愛妻家である尊も例外ではない。にこにこしている彼を見て、宗太郎がす、す、す、と鏡花の前に自分の身を置いて彼女の姿を隠した。尊が唇を尖らせる。

「いーじゃん、減るもんじゃなし」

「減りますよ」

「減るもんじゃなし」

「便乗すんな、卓!」

 鏡花はドレスをそれなりに丁寧に扱ったが、男性陣は上着をてんでばらばらなところに脱ぎ散らかしている。それを見た鏡花は、少し眉をひそめた。如何に美形であろうと、挙措ががさつでは男もすたろうというものだ。溜息を吐いて、彼らの散らかしたジャケットを丁寧に折り畳んで置いてやった。その作業を終えたところ、耳に入った声が彼女の癇に障った。

「お腹空いたなあ」

「尊。殴って良いか」

「え? 何で?」

 鏡花の気遣いを微塵も感じていない尊の呑気な発言に、鏡花は拳を固くした。丁度いい頃合いで、おとよから夜食の差し入れが来る。今日はパーティーで、夕食はそれなりに食べて来るという微妙な言い方をしてあったのだが、家政婦頭のプロは只者ではない。そこそこに空腹も感じているだろうと、明太茶漬け、醤油焼きおにぎりいくら乗せ、出汁の効いた卵うどんなどが座卓に並ぶ。居並ぶ面々の腹が、歓喜の声を上げた。

「なあ、宗太郎。明日、剣道場に来られるか」

「行けると思うが。何だ、唐突に」

 焼きおにぎりを頬張りながら、尋ねた卓に宗太郎が怪訝な顔をする。

「ちょっと灸をすえてやりたい奴がいる」

「お前なら楽勝だろうが」

「俺が本気出したら殺しちまう。本気を出さなきゃ俺が危ない。そんな相手だ」

「面倒なのとかかずらったな。お前は顔に似合わず情が深いから」

「顔に似合わずとはどういう意味だ、てめえ」

 卓の意図を汲んだ鏡花と尊は茶漬けなどを食べながら、会話の成り行きを見守っている。うどんをずずず、と啜りながら、宗太郎は尊に目を向けた。

「先輩、相手してやったらどうですか?」

「僕? もぐもぐ」

 茶漬けを頬張りながら、尊は、んー、と視線を斜め上に遣り、考える風だった。オールマイティーに突出した天才鴉は、剣術においても尋常な腕前ではない。

「明日は無理だよ。明子と過ごすって決めてるから。水族館デート」

「昨日の今日でよく休みが取れましたね」

「逆、逆。昨日の今日だから、隊長が労いの意味でお休みの許可くれたの」

 本来であれば、その実力から、鴉ヶ谷尊は週休なしで忙殺されてもおかしくはない立場にあるのだ。また禎允も、本人の評価を高く見積もるゆえに、容赦なく仕事を割り振る。遠征任務などがその好例である。身重の妻のいる部下に命じる仕事ではない。

「禎允殿も少しは後ろめたく思っているのだろう。あれで気遣いの人だ。尊の力に甘えている自覚があり、ゆえにこそ、尊を重んじてもいるのだろう」

「あ、鏡花ちゃん。ドレス姿、写メ撮ったから」

「…………何で?」

「隊長命令」

 自撮りは忘れてもそこは忘れなかったらしい。

 重々しい口調で禎允を評価した鏡花だったが、尊の言葉でその空気はぶち壊しになった。

「あのロリコンが!!」

「うお、びっくりした。何でお前が怒るんだよ、宗太郎。すいませーん、家政婦さん。焼き醤油おにぎり後二つ追加で!」

 仁王立ちした宗太郎の横で卓がびくっと身じろぎし、しかしどうでも良いこととばかりに、ちゃっかりおにぎりの追加を頼んだ。

「日本酒が欲しい献立だねえ」

「それ! 俺も思いました」

「尊。卓。私の牢は居酒屋ではないぞ」

 じろりと鏡花が二人を睨む。

「あ、鏡花ちゃん、やっぱりまだこないだの根に持ってる!」

 尊が面白がる口調で指摘すると、鏡花の頬が、ぷう、と膨らんだ。

「別にそんな訳ではないぞ。私はそれほど狭量ではない。待っていろ。後、二年もすれば私も酒を飲むからな」

「やっぱり根に持ってるじゃないか。鏡花はきっと酒豪だろうが、酔いどれのお前の世話をするのは億劫だなあ」

「何でお前が億劫がるのよ、宗太郎」

「あ、卓、お前ピアスしてるのな」

「お前、飲む前から酔ってんの? 今更?」

「綺麗な翡翠のピアスだな」

 鏡花が毒のない、微笑を浮かべて言う。卓も笑顔で頷いた。二十歳にしては、やや幼い笑顔だ。

「俺の成人祝いに、姉貴たちがプレゼントしてくれたんだよ。翡翠は中国では高貴な石とされてるから、そんな石に相応しい男になれって」

「ふうん。良い話だねえ。でも、何で左耳だけ?」

「俺の身体に必要以上の穴は空けたくないからって」

「なら何でピアス選択?」

「戦闘中でも外れないように。ピアスホールは奇数のほうが縁起良いらしいんですよ」

「卓、お姉さん二人だっけ」

「ですね。三人姉弟です」

「愛されてるねえ。卓に似てるなら、美人だろう」

「……あー。どうですかねえ。二人とも、気はきっついですよ」

 実はその姉二人が大の鴉ヶ谷尊ファンであり、始終、彼とお茶する機会をセッティングしろと、卓に要求していることは言わないでおいた。面倒だからだ。そうこうする内に、熱燗が牢内に運び込まれ、男たちはしめしめと、慰労会と称した飲み会に突入した。鏡花が面白くないと不機嫌になったことは言うまでもない。だから今日、千鶴と彼女が話した会話の内容に心を傾けている三人の気遣いに、鏡花は気づいていない。

 何を話したのかと、口に出して訊くのは容易い。しかし、それをすれば繊細な貴石を損ねかねないような、そんな危惧を三人共に共通して抱いていた。今後のことを考えれば、甘いのかもしれない。だが、百花の乱は、鏡花にとって致命的とも言える事件だった。彼女の人生が一変した。おいそれと触れることは躊躇われる。戦略的な事柄においてはシビアな尊でさえ、それは同様だった。鏡花は愚かな少女ではない。必要なことであれば、感傷に関わりなくいずれ語ってくれるだろうという期待もあった。だから。問い質したい。問い質せない。そんな心の揺れを持て余し、尊たちは酒に身を委ねた。



宗太郎「卓。驚かずに聴けよ。何でもあの、九藤が泣いたとか」

卓「あーん?ガセだろ。そら鬼禎允の涙よりレアだぜ」

宗太郎「……毎日予約投稿、最終回までし終わって、改めてストーリーを見直し」

卓「うん」

宗太郎「終盤、俺たちがあまりに哀れで哀れで哀れで、涙を禁じ得なかった、と」

卓「おい待て、これ、ハッピーエンドじゃないの?」

宗太郎「当初はその積りだったらしいが、書いていく内にあれよあれよと筆が滑って……」

卓「滑るなよ」

宗太郎「ハッピーどころか良くてビターかメリバ、むしろバッドエンドに近く……『なっちゃったかも。てへ☆』」

卓「何、最後の。イラっとする」

宗太郎「鴉ヶ谷先輩のノリで、少しでも読者の不興から免れようという九藤のあがき」

卓「逆効果じゃん。緊縛したろか」

宗太郎「まあ、死人の数名は覚悟しろ。既にフラグ立ってる奴らもばしばしいるからな」

卓「マジ?」

宗太郎「マジ」

卓「誰。俺はないよな?キャラ的にないよな?な?」

宗太郎「ネタバレを強要するな。九藤にそれこそ俺が消される」

卓「宗太郎……お前、良い奴だったのに……」

宗太郎「誰が俺だと言った。準主役だぞ」

卓「鬼九藤が主役級をバンバン殺しまくることを俺は知っている。鴉ヶ谷先輩、良い人だったのに……」

宗太郎「うん、まあ、最強美形キャラっていかにもだし、ぽっくり逝きそうな人ではあるが。お前、そうやって消去法で探って行くのやめろ。いやらしいぞ。鏡花に嫌われるぞ」

卓「それは嫌だけど、え、鏡花ちゃんってことはないよね?さすがにね?」

宗太郎「…………」

卓「黙るなよ!ガチだったらお前が一番、怒るとこだぞ!!」

宗太郎「アンシンシロ。キョウカニハラデンソウフトイウデンカノホウトウモ」

卓「いきなりロボになるな。でも、そうだよ、螺鈿総譜は、死にかけですら快復させる癒し系のチート能力!あれがあるじゃん。したら少なくとも、味方に人死にはないだろ」

宗太郎「一体いつから螺鈿総譜が万能だと錯覚していた?」

卓「好きね。そのネタ」

宗太郎「九藤の好みだ。螺鈿総譜を過信するな、ということだ。本当に死んだら、いくらあいつだってどうにもできないしな」

卓「死なねえように気をつけよう……。享年二十歳にはなりたくない。せめて好きな子と恋愛してから死にたい」

宗太郎「一応、公務員である第一の甲たる男の願いとしてはふんわり乙女チック……」

卓「うるせえ。お前はどうなんだよ」

宗太郎「俺? 俺は……鏡花と…………ソウイウシーンガチョットアルカラ」(もじもじ////)

ガタ! 卓「おいおい、『美食牢』、ムーンライトになるのかよ。あと気色わりいから赤面すんな」

宗太郎「イヤイヤ、スグルクン。キワドイトコロデトマルカラ。ソコハダイジョウブナノヨ。タダ、オレトシテハ、マルゴトイチワ、ソノ、ソウイウカンジニシテモラエタダケデモ、シンデクイハナイカナ、トカ(*´▽`*)」

卓「文字がちっちゃくて読みづれえーーーー!!!!」

宗太郎「老眼鏡いるか?」

卓「いらねーよ、『美食牢』おふざけ後書き始まって以来、初のかおもじを無駄に使いやがって!」

宗太郎「まあつまり、だから、俺としてはいつ死んでも悔いはないというかだな」

卓「あーうるせえうるせえ!まだはっきり告ったわけでもねえくせにっ」




千鶴「俺はちゃんと愛してると言った」

卓「なあ、遅れてくんの、お前のデフォ?恥ずかしがりやさんか?」




尊「うわあ~~~~ん死にたくないよ~~~~二十代後半、超絶美形最強キャラで死ぬって、某五条氏っぽくてかっこいいけど、明子と生まれて来る子供と長生きしたいよおおおお」

宗太郎「……すみません」

尊「謝罪はいらない!『大丈夫ですよ、先輩』という慰めが欲しい!プリーズ、死亡フラグの否定!!」

宗太郎「すみません、自分、不器用なもので」

尊「うわあああああああん(´Д⊂ヽ!!」※異能課の鴉、天才異能力者、異能課のエース、27歳、もうすぐ父親



宗太郎「九藤によると。『なお、それでも僅かな希望は残したと愚考いたす所存でおり、』」

卓「政治家かよ」










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[良い点] えええー…誰も死なないでぇ(ノД`)←後書きに反応。
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