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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
36/58

昔話

 鏡花は一号棟の屋上に向かう階段で千鶴と遭遇した。外に接する壁には色とりどりのステンドグラスが施されており、階段上に落ちた色彩が宗教画のような様相を呈していた。そんな中、色づく光を背負って立つ千鶴は聖人めいている。千鶴は千鶴で、いつもとは異なる装いの鏡花に見惚れていた。ふわりと肩にかけたストールが羽衣めいて、天女のようだ。

「鏡花。とても綺麗だ。化粧もしてるんだね。君には必要ないけど、いつもより大人びて見えるよ」

「お前の為に着飾った訳じゃない」

「では誰の為? あの、宗太郎の為かな?」

「お前には関わりのないことだ」

 にべもない。

 千鶴は微苦笑した。

「鏡花。座らないか。少しばかり俺への殺意を忘れて、話をしよう。君にとっても益になることだ」

 そう言って鏡花の立つ階段まで下りて来た千鶴は、そこに無造作に座った。鏡花はしばし黙ったが、千鶴の隣に腰を下ろす。ラヴェンダーパープルの輝きが隣に接近し、千鶴はそれを眩しく思った。

「百花の乱。君の母上には気の毒なことをした」

「白々しい。お前と千里が仕組んだことだろう。五十人の異能者を煽動し、暴力沙汰を起こさせた。無関係の人間が、どれだけ巻き込まれ死んだことか」

「……ああ。君はまだ知らないんだね。情報はそこまで封鎖されていたのか」

「どういうことだ」

「桁が違う」

「何?」

「煽動された異能者は、五十人じゃない。ざっと見積って、凡そ五百人。君の母上・白衣太鳳は、彼らを一手に引き受け、或いは屠り、戦闘不能にし、そして数には勝てずに果てたんだよ」

「……表向きは無差別なテロ。その実は母様一人を標的にしていたのか。母様が、周囲の人間を守りながら戦うであろうことをも予測して。卑劣だな。蒼穹の玉を母様が持つと、なぜ知った」

「千里が聴き出した。信用を盾にね。結局、友情などという儚いものが仇となり、母上は亡くなったけれど。百花の乱の頃から、父は俺の傀儡だった。蒼穹の玉も、即刻取り上げたさ」

「千里の思惑を除き、母様は予見していたのか。巫女の異能は持ち合わせていなかった筈だ」

「けれど飛び抜けて聡明だった。蒼穹の玉と紅蓮の玉が狙われていることにいち早く気づき、手を打った。それは君も、よく知っているだろう?」

 緑の瞳がちらりと鏡花に向く。鏡花は黙っている。

「千里が狙ったのは蒼穹の玉。お前が狙ったのは紅蓮の玉。そういうことだな」

「うん。でも今、僕は紅蓮の玉を得ることは出来ない。透かし身の鏡を見た時は愕然とした」

 きっ、と鏡花が千鶴を睨む。

「お前はそんなに甘い奴じゃない」

「そう。だから、別に手に入れる道を模索しているところさ。あの呪術師の爺さんさえ口を割ってくれれば簡単だったものを」

「母様にとどめを刺したのは誰だ」

「それを知ってどうする。仇討ちかい?」

「答えろ」

 千鶴が溜息を吐いた。

「父さんだよ。いくら君でも、故人を討てはしないだろう」

 しばらく静寂が訪れた。聴くべきことは聴いたと鏡花は思い、立ち上がる。

 その時、卓の吹く鴉笛の音が聴こえた。


 今、鏡花の目の前には負傷した卓と、千鶴の仲間である芳文がいる。卓は根が優しい。年少の芳文を気遣い、油断したのだろう。でなければ、彼ほどの遣い手が、まだ若い異能力者に手傷を負わせられる筈がなかった。

「螺鈿総譜」

 黒、青、とりどりの煌めきが卓を覆い、傷を癒す。卓はそれを確認すると同時に高く跳躍して、千鶴と芳文から鏡花を庇う位置に立った。

「鏡花ちゃん、怪我は?」

「ない」

 即答する鏡花に、卓は安堵した。自分の油断で負傷し、その上、鏡花まで傷つけられたとあっては、第一の甲としても、〝渡瀬川卓〟としても名折れに相違なかった。二人を見ていた千鶴が、ふ、と視線を動かす。

「来たか。鴉」

 六番頭歓楽街での時と同じ、滑り込むような要領で、尊が現着した。

「やあ、こんばんは。良い夜だね」

 尊は変わらぬ朗らかさでにっこり笑った。


 鴉笛の音が次々に響く。気掛かりなのは、その中に鏡花の鴉笛も混じっていることだった。対峙した相手が千鶴でなければ良いが。そんな思考を瞬時に巡らせながら、宗太郎は神楽耶を注視していた。見れば見るほどに美しい女だ。だが、〝少しも心が浮き立たない〟。それは鏡花の存在ゆえだけではなく、神楽耶に生身の人らしい輝きが見出せないからだった。ゆらゆらと、赤いドレスを揺らしながら神楽耶は宗太郎に近づく。赤い唇が動く。

「ここでやるのはどう考えても無粋でしょ。裏庭に行きましょ。小さなお花くらいしか、観客はいないけど」

 宗太郎は神楽耶の提案に乗ることにした。無粋云々以前に、ここで神楽耶と仕合えば、パーティーの参加者に被害が及ぶ。女の誘いに乗った男のように、神楽耶の斜め後ろをゆったり歩いて行く。うなじが抜けるように白いが、それにも心乱されるものはない。自分はもっと真に美しい存在を知っている。芸術振興会館の裏手は、表とは打って変わって侘しいような慎ましい光景が広がっていた。いくつか花壇があり、神楽耶の言った通り、大輪ではなく小さな花が列をなしている。中には、掘り起こしている途中の地面もある。まばらに、桜の樹が数本、生えていた。

 神楽耶の歌が響く。始まった。

「群青扇風。それは俺には効かないと解っている筈だ」

 異能の歌を散らす。神楽耶は、解っていると言うように頷いた。長い金髪が肩から滑り落ちる。

 それからは、殺到。宗太郎との格闘戦になった。宗太郎は刀を抜かない。抜けば〝溶ける〟。それが解っているからだ。神楽耶の戦い方は体術の見本のようだった。拳も蹴りも、身体の至ところ全てを武器として余すところなく操っている。紛うかたなき熟練者。しかし、宗太郎も第一の甲。異能においても体術、剣術においても突出した技を持つ。神楽耶に後れを取らず、戦闘術を駆使する。紺のスーツと赤いドレスが、目まぐるしく交錯する。命がけの舞踊だ。

 時間が惜しい。早く鏡花の元へ駆け付けたい。

 神楽耶が宗太郎の喉笛に拳を突き出した。命中すれば死は免れない。使いどころは選びたかった。しかし贅沢は言っていられない。

(とき)疾風(はやて)

 神楽耶の顔に怪訝な色が浮かんだ。こうした表情のほうが好ましい。神楽耶が倒れる。見た目からは何も変化はない。けれど、彼女の身体の内側では、時間軸が凄まじい速さで行ったり来たりを繰り返していた。宗太郎が、尊の教えをもとに編み出した時の異能である。神楽耶はもう戦闘不能だ。

「……緊縛が欲しいな」

 卓の銀糸であれば、神楽耶を拘束しておくことも可能だ。ないものねだりと知りつつ呟き、後はもう、芸術振興会館の中に向かって駆け出した。最後に聴こえた尊の鴉笛は三号棟からだった。卓の笛も、鏡花の笛も同じくだ。敵勢力が集まっていると見て間違いない。急がなければ。


「会いたくなかったけどまた会ったね。大目黒千鶴君」

「同感だよ。異能課の鴉。でも今日は、君たちのほうから俺に会いに来たんだろう?」

「うん。上官命令」

「九曜禎允か。君も化け物だが、その化け物の首魁が、未だ動かず座したまま、部下を動かすだけに留まってくれているのは助かる」

 尊がにこっと笑って右掌を前に押し出した。パアン、と何かが弾けるような鋭い音がする。

「後ろに隠れているのだあれ? 見えないけど透明人間かな? 目視出来ない相手に先制攻撃するだなんて、品性に欠ける。星一つだね」

 千鶴が口を手で塞ぎ笑いを漏らす。

「全く……。勘が良いのも鴉だからなのかい? 〝彼〟の存在に鏡花も渡瀬川も気づかなかったと言うのに。出ておいで、黒斗(こくと)初道(はつみち)。異能課のエースと俺の姫君にご挨拶するんだ」

 千鶴の言葉と同時に、千鶴の背後から、凡そ二メートルはあろうかという巨体の、肌の黒い男が出現した。その上背は天井に届こうかという様子である。場に合わせたのか、彼も特注であろうスーツを着て、そしてそのスーツの上からでも筋骨隆々であることが見て取れる。

「彼の名前は黒斗初道。自身を透明化させることが異能」

「それだけ?」

「後は純粋に彼の持つ圧倒的なパワーが武器だよ。初道」

 名を呼ばれると同時に、初道は過たず尊を狙い、拳を繰り出した。避けることが困難なスピードに、尊はその膂力を受けることを選択する。彼は後方に吹き飛んだ。唇が切れている。それでも初道の異能クラスのパワーを受けてそれで済むのは脅威だ。尊の異能の中には、肉体強化も含まれている。しかし、これは。

「嘘ついちゃいけないな、千鶴君」

「ほう?」

「相手を弱体化させる異能を上乗せしてるじゃないか。お蔭で僕もちょっと今、パワーダウン」

 卓も鏡花も、信じられないことを聴いたと思った。相手は鴉ヶ谷尊だ。異能課のエース。異能の天才。彼をしてパワーダウンと言わせられるとは。

「初道君だっけ。君の異能、貰っても良いんだけど、現状、僕にその余裕はない。と、すればだ。鏡花ちゃん」

「何だ」

 尊がにこりと笑う。

「戦略的撤退だ。宗太郎を拾って、退散するよ。おめかしした手間が惜しいけどね。今の僕には、君たち全員を守ってあげられる保証がない」

「そう簡単に行かせるとでも?」

 余裕を見せる千鶴に、尊はこくりと頷く。

「そうなるさ。鏡花ちゃん。頼めるね?」

「ああ。時津風(ときつかぜ)!」

 それは不思議な異能だった。千鶴たちの時だけが、ゆっくりと緩慢に動いている。対して、鏡花たちの動きは素早い。時の異能の一種であると、千鶴はすぐに気づいた。しかも、自分に並ぶほどに、極めて高度な。やはり鏡花も、時の異能を習得している。流石だな、と千鶴は独り言ちる。その間に、鏡花たちの姿は千鶴の前から消えた。



~ストーリー展開に不満はありますか?~


卓「俺だけ怪我が多くね?」

宗太郎「鏡花とのそういうシーンが欲しい」

卓「お前、R18だと作品そのものがやべえぞ」

宗太郎「もういっそ、ムーンライトで書け、九藤」

卓「否定するかと思いきやぶち抜きやがった」

尊「ああ~、僕はねえ、明子と一緒にのんびり旅行にでも行きたいなあ。この件が片付いたら、ご褒美にまとめて長期休暇もらえないかなあ」

鏡花「私は美食が食べられればそれでいい。お腹空いた」




千鶴「鏡花とのそういうシーンが欲しい」

卓「いたのかよ!てか、お前もか!!」


尊「ねえ、宗太郎」

宗太郎「はい。……まだいたんですね、先輩。収録終わったから飛んで帰ったかと」

尊「何言ってんの、まだカメラ回ってるよ」

宗太郎「え」

尊「僕さ、今回、実に久方ぶりに人から殴られたんだけど」

宗太郎「良かったですね、貴重な経験しましたね」

尊「あのシーンで、『殴ったね!隊長にも殴られたことないのに!!』って怒ったほうが良かった?」

宗太郎「言わないほうが良かったです。てか、まだ収録中なんですよね?やめましょうよ、そういうの」

尊「じゃあさじゃあさ、僕と某五条氏だったら、どっちのほうが強いと思う?」

宗太郎「知りませんよ。……先輩なんじゃないですか(面倒になっている)。だから、やめましょうよ、そういうの!!」

尊「ちなみに、僕は明子とはR18体験済みだからね!どうだい、羨ましいかい?」

宗太郎「何を当たり前のことをドヤッてるんですか。してなかったら何で明子さん今、妊婦さんなんですか。処女受胎ですか。先輩、神ですか」

尊「は!……そうか。僕は神だったのか……言われてみればそうだったような気がする」

宗太郎「いやおい、ツッコミに納得するな、もう嫌だ、この鴉!!てか、カメラを止めろ!!!!!」

尊「『カメラを止めるな』☆」

宗太郎「やかましいっ!!!!!!」










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