逢魔が時探偵団
漆黒に流れる彼は誰時。橙と赤、黄金と藍、紫と水が入り混じる。そのようなあわいに、或いは塗り潰された刻限に、異能は脈々と爛れ流れる。曾は神の気紛れかはたまた精霊の為せる業か。煌々と輝く魂の怒りに触れるなかれ。されば業火となりて焼き滅ぼされんほどに。
宵の頃、卓が九曜邸を訪ねて来た。千鶴からの致命傷を治癒されてよりこちら、入り浸っている。お蔭で鏡花の部屋の座卓は大きな物に取り替えられ、今では宗太郎と卓、鏡花の三人が揃って食べられるようになっている。
「卓。お前、毎度毎度、夕飯時を狙って来るなよ。さもしいな」
「定例報告も兼ねてんだ。おとよさんの飯もあるしな」
果たしてどちらが本音か判ったものではない、と宗太郎は思う。そうかと思えば卓がきっと宗太郎を睨みつける。
「お前が俺に副隊長二人分、押しつけやがったせいでこっちは東奔西走だっつーの。おとよさんの飯くらいの褒美は取らせろ」
朱塗り格子の牢の中、三人いても狭いと感じないのは、牢内が広々としているからである。黒い座卓の上にはセロリの梅酢和え、麻婆春雨、豆腐と舞茸の味噌汁が載って、ほかほかと湯気を上げている。千鶴の件があってから、三人はこのように夕食を共にすると同時に、情報交換、今後の方針などを話し合っていた。
「巫女殿の託宣が途絶えたそうだ」
もぐもぐと口を動かしながら言った卓の発言に、宗太郎の箸がふと、止まる。
「原因は」
同じく頬袋を作りながら鏡花が尋ねるが、卓は肩を竦めた。
「不明。いずれ千鶴の仕業じゃないかと上層部は見ている」
「お前も上層部だろうが」
「あー。まあなあ」
鏡花が味噌汁に口をつける。この少女は非常に意地汚いところがあるが、食べる所作は大変に綺麗だから得をしている。
「『婦女子連続胸穴事件』はまだ続いている。皮肉なことに、それがれいちゃんの生存、透かし身の鏡の無事を物語っている」
麻婆春雨を大きく箸で挟みながら、卓も頷く。
「だからさ、上も苛立ってるよ。押小路長官なんかお冠だぜ」
「玉の行方は?」
「杳として知れず」
セロリをバリボリ食べながら卓が答える。
「千鶴の一党は、人外、神域で犯行をするかもしれんな」
「なぜそう思う、鏡花」
「玉を狙っているのだろう。玉はそもそも、さる大社の御神宝だったと聴く。考えてもみろ。奴らのこれまでの犯行場所を。俗世から離れたところばかりだったではないか。してみると、伊織殿の託宣がなくとも、見張る目測はつこうというものだ」
「……父さんに話しておく必要があるな」
元より禎允から、この食事会で話し合ったことは逐一、耳に入れるように言い聞かされている。
「今日は珍しく飲むんだな。卓」
「ああ、一応非番だから。おとよさんが純米吟醸、出してくれた。うくく」
異能力者は、基本的に飲酒しない。万一、力の制御が出来なくなった時のことを恐れてである。尤も、第一の甲あたりともなると、制御の術も心得、たまの飲酒はする。異能力者の飲酒者は、余程、酒に溺れているか、相応の実力の持ち主の、どちらかであった。宗太郎や卓、禎允は無論、後者である。
麻婆春雨は肉汁を春雨が吸い込み噛むほどに味わいが出る。セロリの梅酢和えは、中華でべとついた口をさっぱりしてくれる。そこに茸の味噌汁だから、全くおとよの作る食事は抜かりがない。
「千鶴ってさ、やっぱ鏡花ちゃんに惚れてんの?」
宗太郎の眉間に皺が寄り、鏡花は無表情だ。
「愛しているそうだ」
ピュー、と卓が口笛を吹く。
「情熱的。鏡花ちゃんは?」
「論外だな。無辜の民を、れいちゃんを殺そうとする奴に私が気を惹かれようか」
「だとさ。良かったな、宗太郎」
「何がだ」
「またまた」
あらかた食事が済んだところで、三人は身支度を整えた。捕物である。ここ数日、彼らはこのようにして夜を過ごしている。
「今日は五合寺のほうだな」
「鏡花。そろそろ夜も冷えてきた。道行を着てゆくんだぞ」
「うん」
甲斐甲斐しい宗太郎を、卓がにやにや見ている。
「何だ莫迦見るなボケ」
「もー、そーちゃんったら照れ屋さんなんだからあ~」
表情を引き締めた三人は、美食の匂い漂う牢を出た。
次回、卓が大活躍。お楽しみに。
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