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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
21/58

時の異能

 夜市に次の被害者が出るかもしれないとの託宣を受け、渡瀬川卓は夜間見回りに来ていた。繚乱の玉石の上を、懐手をしてぶらぶら歩く。いかにも捜査でございといった様子は見せない。店からの誘いの声を適当にいなしながら、ぶらぶら歩く。買い食いもする。烏賊焼きにかぶりつきながら、これじゃ鏡花ちゃんのこととやかく言えないなと笑う。

 笑った時、卓が市の領域内に張っていた結界が作動した。烏賊を丸呑みして、瞬時に駆ける。空を行ったほうが早い。

「飛翔・(ふう)(じん)

 ざああ、と卓の身体が宙に向かう。上空から目星をつける。あそこだ。楠の密集したあたり。着地して、卓は一足遅かったと知る。着物を肩まではだけて、胸元にぽっかり穴の開いた女が横たわっている。卓の目が憐憫を瞬間、宿し、この乱行を成した相手を、それとは逆に極寒の瞳で睨み据えた。黒服に身を包んだ男は四人。

「良い女は早死にしちゃいけねえんだよ。お前ら、何の目的でこれをやった?」

 問答無用で男たちは襲い掛かって来る。卓も、答えが簡単に返るとは思っていない。

「緊縛」

 銀糸が男たちを締め上げる。一人が緊縛を抜け、卓に向かう。

「おっと」

 卓は特別に許可の下りた日本刀を帯刀していた。白刃を抜き、男に斬りつける。風の匂いの濃い晩だった。空に星はまばらで、細い月が出ている。風の匂いには、血の臭いも混じっていた。男もまた懐刀を以て卓に応戦する。澄んだ金属音が鳴り響く。そして得物は間合いが長いほうが有利なのがセオリーだった。

「籠遊び」

 銀糸が丸くなり、毒を発生する。男がぐらり、と傾いで倒れた。緊縛に掛かっていた男たちもどうと倒れる。致死量ではない。卓は、日本刀を納めると、男たちをまとめて縄で縛った。懐の携帯を取り出す。

「おやっさん? ……ああ、はいはい、九曜隊長。とりあえず三人ばかり捕まえましたよ。被害者は、間に合いませんでした。警察を呼んでください。夜市の、楠の森です。三人は、俺が連行します。はい。じゃあ」

 携帯を切って、三人の男を銀糸で縛り上げると、それを浮遊させ、卓は県庁に向かおうとした。

「手練れだね」

 不意に降って湧いたその声に、卓は咄嗟に反応し切れなかった。水色の炎が迸る。炎は氷と化して男たちを瞬く間に凍死させていた。

 白い、清潔なシャツに黒いスラックス。顔立ちは整い、双眸が緑だ。

 情報に照らし合わせると。

「大目黒千鶴か」

「そうだよ」

 対峙した瞬間に、卓は千鶴の力の強大さを見抜いていた。異能のスペックは五分か、あちらが少し上。

「鏡花が、気に入るかと思って、この異能しか見せなかった」

「あ?」

「でも、本当は、俺の異能はそんな綺麗なもんじゃない。君、第一の甲だろう。中でも相当強い」

 卓は相手の言葉を待たなかった。

「銀状讃歌!」

 足下から幾本もの槍が突き出る。しかしそれらの全て、ことごとくを千鶴は避けた。派手な動きではない。緩やかな、必要最低限の動きだ。卓が再び抜刀の構えを見せる。

「相当に強いけれど、俺には勝てない。今の俺に勝てるのは……。時刻み」

 ぱあん、と、血の花が咲いた。卓の全身からしぶいた血だ。堪らず、地面に倒れ伏す。

「……死なないんだね。結界の強度も相当だ。じゃあ、時回し」

 千鶴が言葉を放ったのと時を同じくして、卓の身体が跳ねた。先程、時刻みを受けた時まで時間が巻き戻っている。卓は二度、三度と致死の痛手を被った。


「じゃあ、そろそろお休みなさい。時落ち」


「ピザもたまには良いなあ」

 鏡花が、口からにょーんとチーズを伸ばしながらご満悦の表情をしている。モッツァレラチーズ、ドライトマト、ベーコンなどの載った一枚と、明太子、海苔、ソーセージの載った一枚が盆の上に並んでいる。鏡花はそれを食べつつ、コーラをぐびぐび飲む。

「宗太郎。お前、捜査には行かないで良いのか?」

「捜査かお前かと言えばお前を優先して守れという、父さんからのお達しだ」

「ほおー。私に警護は無用だがなあ」

「朝には俺も出る。鏡花。怪しい奴が来ても牢を開けては駄目だぞ」

 言っていることがいまいちおかしい。

「新聞代の集金」

「駄目だ」

「怪しい宗教の勧誘」

「追い返しなさい。そもそも、この牢にそんな手合いは来ない」

「それを言っちゃあおしまいよ」

「古い映画知ってるな」

「パソコンで最近、色々観てる」

「ああ」

「あ、アスパラガスも載っていたのか。よしよし、存分に可愛がってやろう。あ~ん」

 もぐもぐ、にこにこ、実に幸せそうにピザを食べている。

「ん?」

 宗太郎の携帯が震えた。電話に出て、表情が切り替わる。低い声で受け答えを終えると、通話を切った。

「どうした?」

「卓がやられた。重態だ」



明日から、旅行期間含めた23日まで、更新をお休みします。非常に不穏なところで止まって申し訳ありません。毎日更新で追いつかれていない方も多いと思いますので、どうぞその間に更新されていた分をお楽しみください。

『コトノハ薬局』もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大目黒千鶴。その強さとは?強さとは何か?この描写とても勉強になりますm(_ _)mいつもの鏡花と宗太郎の会話。一品…いや一人足りぬ。命かあったかと。安堵致しました。 [気になる点] 特にあ…
[一言] 遂に千鶴登場。隼太にも劣らぬカリスマと言う名の存在感と魔性……! それに恥じぬ強大な力……! 良き悪役です。
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