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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
20/58

記者クラブ

先日の更新では文章がおかしなことになっており、読者の皆様には読み辛かったと思われます。ここ数日、ワードの調子が悪く、そのせいとも考えられるのですが、申し訳ありませんでした。



挿絵(By みてみん)



 広さだけはある殺風景な室内は、冷房が痛いほどに効いていた。

 県庁記者クラブでは実に種々雑多な情報が飛び交う。中でも彼らの話題を占めているのは、〝胸部空洞の怪〟についてである。

「ああ、あれ、でも今回の発表で名前を改めるとか」

「へえ、何て?」

「それを聴く為に俺らが来てるんでしょうが」

「県庁で発表か……。と、すると、異能課絡みかな?」

「十中八九そうだろう。胸に穴ぽっかりなんざ、異能の仕業に他ならねえや」

「奴さんの目当ては何なんだろうねえ」

「さて。何にしろ、胸糞の悪い事件だよ。お、始まるぞ」

 記者会見の席に着いたのは、異能課長官・押小路美晴、並びに県警本部長・(さだ)(かわ)(ひろし)だった。

「ええ、今回の事件、皆さん色々お耳に入っているでしょうが、〝胸部空洞の怪〟では余りに粗末ということで、県警の合同調査とあいなったことにもより、『婦女子連続胸穴事件』といたします」

「合同と言うと、異能第一の甲たちも加わって?」

「はい、そうなります」

「押小路長官」

「はい」

「先頃、霊力のある玉の類を胎内に奉じる呪術師が、惨殺されたと聴きました。とても惨い殺し方だったと。『婦女子連続胸穴事件』がそれから加速度的に件数を増したとも」

「……それはこちらがまだ未確認の案件ですね。留意しておきます。有り難う」

「貞川本部長」

「はい」

 声を上げたのは、絡み癖で有名な記者だった。

「本来であれば警察のみで捜査するところ。異能課の力を借りるのは、内心、面白くないのでは」

「全く問題ありません。異能課の〝力を借りる〟のではなく、共に協力する訳ですから」

 さらりとかわした貞川は、高原に吹く風のような笑みを披露した。記者としてはそれこそ面白くない反応だった。

「……捜査には特殊異能部隊隊長・九曜禎允氏も参加されるのでしょうか」

「無論。鬼禎允が出ると出ないとでは士気に大いに影響します」

「禎允氏が自宅に幽閉している白衣鏡花が、事件に関与したとのことですが」

「はい。ですがその件につきましては、現状、まだここでご報告するようなことはありません」

 食い下がった記者だったが、このへんで諦めの溜息を吐いた。それからいくつか質疑応答が交わされ、記者会見はお開きになった。

 

 記者クラブを一歩出れば、まだ蝉の声が聴こえる残暑である。尤も、県庁内には冷暖房が完備されている為、暑さに汗を流すことはない。押小路は神経質な足取りで、その隣で貞川は悠然と歩いている。

「……要らないことばかり首を突っ込んで」

「まあまあ。彼らの本分ですよ」

「私はこれから九曜以下、第一の甲を収集して事態の解決に当たらせます」

「はい。情報は共有しましょう。警察にも異能を使える者はいます。捜査の足手まといにならないよう、気を付けますよ」

「お願いします。では、私はこれで」

 カツ、カツ、と革靴の足音も高く押小路は会議室に向かった。


 県庁内は観葉植物が無暗に溢れている。まるで健全な施設ですよ、と全力でアピールせんばかりだ。足音を吸収するような絨毯。木調の壁板。宗太郎と卓が呼ばれたのは、そんな安閑とした屋内に親しませる為ではなかった。県庁の体育館に、単衣と袴の人間たちが並んでいる。皆、第一の甲である。押小路の指示で、禎允が集めた。

「諸君に集まってもらったのは他でもない。近年、巷を騒がしている凶悪事件についてだ。本日、これに『婦女子連続胸穴事件』と名がつけられた。県警との合同捜査となる。犯人は異能者と考えるべきだろう。諸君の出番だ。第一の甲として、各自、捜査に当たれ。以上だ。諸君の行く末に栄えあれ!」

 単衣と袴の集団がザッと跪いた。

「隊長」

「ん?」

「『蒼穹の玉』、『紅蓮の玉』の捜索との優先順位は如何様に」

「同時並行だ。気張れよ。あ、特に九曜宗太郎と渡瀬川卓を臨時に副隊長に任じるからよろ」

「それは、ご子息ゆえにですか?」

「うんにゃ。愚息の力を冷静に見積った上での決定だ。不満はあるかな?」

「……いえ」


 そういった慌ただしい世相から離れて、今日も美食を楽しむのが鏡花である。

 夏野菜と豚肉の明太子スパゲッティと、コンソメポタージュ。夏野菜はまだまだ旺盛で、オクラ、ニラ、葱、紫蘇がパスタに緑の色彩となって絡まり、明太とオリーブオイルの風味が全体を覆う。豚肉は夏バテに効くビタミンB2の宝庫だ。やや季節が外れているものの、鏡花たっての希望でおとよに作ってもらったのだ。

「ん、むぐむぐごくん。か~~~~。美味しい!」

「良いよな、お前は平和そうで」

 朱塗りの格子牢の中、相も変わらず美麗な空間で美食をとことん味わう鏡花を、宗太郎は羨ましく思う。だけではない。『婦女子連続胸穴事件』は、恐らく鏡花にも関わりがある。だから宗太郎は、鏡花を守る為にも、捜査に尽力し、犯人を捕えなくてはならない。その先には恐らく、大目黒親子がいる。真剣な表情で黙り込む宗太郎に、お代わりと言い出し辛く、鏡花はしばらく宗太郎を眺めていた。大人になったな、と思う。子供の頃は、やんちゃな子犬のようだった。いつの間にか輪郭もしっかりして、手も大きくなった。そこまで見ていると、今度は自分が宗太郎に見られていることに気づいた。

「あ、お代わり!」

「良いよ」

「うん。頼む」

「代わりに何くれる?」

「え?」


 ふわり、と。頬に宗太郎の唇が当たった。

 そこには思いの外熱いものが宿り、頬から顎の線へ、首へと伝い落ちてゆく。

 鏡花は動けなかった。道に惑った子供のように、動くことが出来なかった……。

 我に帰ると宗太郎をしばき倒していた。


 

 


お気に召しましたら『コトノハ薬局』にもお寄りください。美食、ございます。

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