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美食牢  作者: 九藤 朋
美食牢 
16/58

蒼穹の玉、紅蓮の玉

 九曜禎允は基本、自宅待機を旨とするが、若者たちへの異能指導にも余念がない。鬼禎允とも噂される。また、彼は第一の甲部隊隊長であり、招集があれば駆けつける。第一の甲の名称は異能に焦がれる者たちの憧れであり、公職に就く異能者の中でもトップクラスのエリートだ。そんな集団の長として、耳目に入ることは多々ある。

 久し振りに県庁に、会議の為、呼ばれたと思えば懐かしい話を聴いた。出された緑茶の、湯呑みの紅葉の柄を持つ手がピクリと動く。

「『百花の乱』の前後、紛失した『蒼穹(そうきゅう)(ぎょく)』の回収を命じる。同じく、行方の知れぬ『紅蓮(ぐれん)(ぎょく)』も、同様に捜索せよ」

 県庁のトップクラスの面々が集まる中、異能課の長官である(おし)小路(こうじ)()(はる)が高らかに命じた。

 『蒼穹の玉』――――それは異能を滅する力を持つとされる宝玉。

 『紅蓮の玉』――――それは異能を極める力を持つとされる宝玉。

 それら二つの至宝が、厳重な管理下に置かれながらある日、忽然と姿を消した。押小路がじろりと禎允を見る。

「九曜殿宅には、『百花の乱』の折り、渦中で落命した白衣太鳳の娘御がいると聴いています。何か知っていることはありませんか」

「さて……。乱の時、あれはまだ十五でしたし。それよりも解せませんな。三年前に遡り、今になってそのようなことをお命じになるのはなぜなのか」

 押小路が、丸眼鏡を人差し指で押し上げた。

「巫女の託宣がありました」

「……それは」

 この場合の巫女は、神社でアルバイトなどをする巫女ではない。県庁直属、予言の異能に特化した巫女のことだ。

「巫女のお告げはこうです。『蒼穹の玉』、『紅蓮の玉』、双方共に揺らぐ姿が視える。遠からず、姿を現すであろう。しかしその時、血が流れる。以上だ。だから、『百花の乱』のような流血を防ぐ為にも、双玉の捜索に専念せよ」

 居並ぶ男女が目礼した。禎允もだ。彼は何を思うか知れぬ瞳で、「『蒼穹の玉』、『紅蓮の玉』か……」と、小さく呟いた。


秋刀魚(さんま)の季節だな……」

 赤い明かりが照らす朱塗り格子の牢内で、鏡花は秋刀魚の塩焼きをつついていた。さんまにはかぼすをきゅっと絞ってかけてある。擦り下ろした大根に、醤油をかけて、秋刀魚の身をそれにつけながら食べる。旬の味覚である。いつの間にか秋の虫が鳴くようになった。今年は(ひぐらし)を聴かなかった気がするな、と鏡花は思いながらぱくぱく秋刀魚を食べて行く。ご飯が進む、進む。しかし、今宵に限ってお代わり当番の宗太郎がいない。いつも、お目付け役よろしく居座っているのに珍しいことだ。かぼちゃとさやいんげん、しめじの炊き合わせもふっくら豊かな味わいだ。茄子と蒟蒻(こんにゃく)の田楽がまた、舌を歓喜で痺れさせる。大根と薄揚げの味噌汁も、丁度良い味噌加減だ。流石はおとよである。

「…………一人は味気ないな」

 何とはなしに、そんな台詞が口をついて出た。


 その頃、宗太郎は禎允の執務室にいた。今日、県庁で行われた会議の概要を聴いた。それは良い。それは良いが、その後がまずかった。

「『蒼穹の玉』と、『紅蓮の玉』が……!?」

 禎允は重々しく頷く。

「よってお前は、一層、鏡花ちゃんの傍であの子を守れ」

「大目黒は、では無差別テロというのは」

「奴が多くの人命を奪ったことには変わらぬ」

「なぜ父さんがそこまで内実を知っているのです」

「……」

「母さんですね」

 県庁直属の巫女は、その昔、禎允の妻だった。

「……貴方はまだ母さんと通じて……」

禎允は月光の射し込む窓を見上げた。

「なあ、宗太郎。人を容易く嫌うな。人は誰しも、人に生かされているのだから」

 宗太郎はかぶりを振ると、荒々しく部屋を出て行った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 蒼穹の玉。紅蓮の玉。至宝を廻る事件も起きて。宗太郎の出自に触れる点も興味深いですが。一人飯の鏡花の描写もまたよいですな。いつも通りのご馳走。そんな食の場面もいつもとは異なる日。実に巧みに描…
[良い点] とりあえず、16までの感想を。 食の描写の見事さ、繊細さには、官能性まで感じるほどです。 その提供者であるおとよさんの描写がまたいい。他のweb小説ではあまり見ない造形のキャラクターで、…
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