共闘
ジオルドはレティエルについての質問を続けていた。
興味本位であったが友人の娘の危機に無償で手を貸したいのは素直な気持ちだ。
「父が言うにはかなりの特殊魔力らしいの。護衛の為に父の私兵を寄越してくれたわ。ライラもそのうちの一人よ。ティに何かあれば彼女が身代わりになる指示が出ていたの。グレインはライラにティの癖を教えていたから、思えば影武者を視野に入れていたのかもね。彼女」
「成程、だからその二人が利用されたんだね」
ジオルドとカレンシアは何故あの二人だったのかと腑に落ちた。
だがアドルフは内情が漏れていたことに憤りを感じていた。ネズミの侵入が許容できるのは情報操作の駒としてだ。敵陣に嘘を掴ませるのに重宝していたのだ。だが今回は違う。エリックの仕業で娘の情報が流され攫われたのだ。
怒りが爆発しそうだ。彼は腹の中で憤怒をマグマの様に煮え滾らせ、地獄の炎で燃えカスとなったエリックを想像して溜飲を下げていた。
公爵夫婦もジオルドも解決すべき問題に繋がりを感じていた。
特にジオルドは長い間、打開策を模索していた身。折角の好機到来だ。アドルフ達には悪いが引き込む気満々で今を迎えていた。
夫婦の宝である愛娘にちょっかいをかけた狼藉どもを自分の敵と併せて粛清できれば御の字かと思うジオルドは暫しの共闘を持ちかけた。
「私も君達に協力しよう。僕はエリックの居場所を知っているんだ。ヴァンダイグフ伯爵家。ご老人が孫がやっと見つかったって喜んでいたよ。その当人は怪我と衰弱で療養中。本当かなぁ」
ニヤニヤ厭らしい笑みのジオルドだ。恐らく裏を取った上での発言だろう。
今迄の会話は一体何だったのだ。エリックを消せば済む話を散々謎解きをさせられたのだ。時間と労力を費やして迄のアレの話をしたのは何故か。只の嫌がらせか! 何とも苦々しく思うアドルフであった。
「肉親の情で唆されたか。ヴァンダイグフの爺さんとの繋がりは深そうだ‥‥」
思うことは多々あるが公爵はグッと堪えジオルドにそう言って会話を終わらせる。
「これで誰の差し金か理解したかなアドルフ」
ジオルドがニヤニヤしながらアドルフに謎解きを解いてやったと仄めかすように問うた。
ああ、この男は面倒臭い上にうざい奴だったと彼のやり口を思い出した。
開き直りも時には大事だとアドルフは自分に言い聞かせる。
アドルフは苦虫を潰したような顔でジオルドの悪趣味を疎ましく思い口を硬く結ぶ。答える気がないという意思表示だ。
「ああ、そうそうアドルフの息子君。どこにいるの?」
ジオルドは唐突に話を切り替える男だ。慣れていても苛つく。
今更何の話を持ち出すのだとアドルフは怪訝な顔で答える。
「‥…なんだ。聞いていないのか城の牢だ」
「ふっ、またまたそんな冗談、僕に通用すると思う?」
ジオルドの言葉の意味が何を指すのか。アドルフは彼の表情を窺う。
これ以上の会話は不要か。
「‥‥はぁ‥‥もういい。黙っていろ。お前は知らないままがいい」
アドルフは抜け目のないジオルドに釘を刺す。これ以上は踏み込むなと。
「わかったよ。しかし彼も大胆だね~。君に似たのかな?」
クックックッと愉快に笑うジオルドを睨みつけるアドルフも楽し気だ。気心知れ合う間柄の二人だ、語らずとも通じるのだ。暫しの和やかな空気が漂う。
ところで、とジオルドが切り出す。
「レティエルは本当に大丈夫なのかい? ネズミが潜り込んでいるんでしょ?」
空気がピシリと変わる。和やかな空気をぶった切ったジオルドが恨めしい。愛娘に会えず我慢の限界が近いアドルフには酷な話題だ。本当に質が悪い男である。
「‥‥大丈夫だ護衛が付いている。問題は無いと聞いている。腹立たしいが目途が立つまでこのままだ」
「そうかい。わかったよ」
わかっていない顔で返答するジオルドの真意が読めないと警戒するアドルフであった。
ジオルドは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「丁度、ここに精神系魔術と変装魔術の使い手がいるよね~。彼等の腕はこの屋敷に忍び込んだことで実証されたわけだ。それに魔力が視れる僕もいる。使わないのは失策だよ」
とんでもないことを言い出した。
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