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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第一章 攻略対象一人目 正しい第一王子の取り扱い方。
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クリスフォード王子 ①

クリスフォード王子視点の話が3話続きます。


俺はこの国の正妃の実子として生を受けた。

俺には弟妹がいる。皆、側妃達の子だ。

母上の子は俺だけだ。だから正妃の子として王太子となり次期国王になるもの‥‥なれると思っていた。


俺の背後には俺より優秀な弟がいる。俺の後ろから迫ってくるのだ。

そう、振りむけば奴がいる。

俺と同い年の弟。第二王子おとうとだ。


同い年の弟‥‥。

幼少時代はよく一緒に遊んだ。やんちゃもした。あの頃は純粋に楽しんでいられたのだ。

いつからか俺達は供に居られなくなったのだ。

周りが引き留める。母上が嫌がる。仲良くなることを許してはくれないのだ。

俺の楽しかった時間は呆気なく終わった。



6歳の誕生日を迎える頃、母上が伴侶の話を持ち出した。

その頃の俺では理解できない話を母上がされたのだ。

母上主催のお茶会だ。

そこには綺麗に着飾った俺と年の近い女の子たちが集められた。

女の子たちは、公・侯・伯の出だった。それ以下の身分はいなかったか。


俺とレティエルはこの時初めて顔を合わせた。

母上は最初からレティエルに決めていたようだ。俺が選んだのではない。


‥…大喜びはしたが。


あの頃のレティエルは可愛かった。

初対面であまりの可愛らしさに俺はちょっと逆上せあがって‥‥ちょっとドキドキし過ぎて酷く緊張した。

返しの挨拶も上手くできなかったのだ。ちょっと落ち込んだぞ‥…。

ダントツの美少女だぞ! 緊張しない輩などいるのか!

レティエルは初めてのお茶会にも関わらず完璧淑女の挨拶をした‥…。

同じ年とは思えないほどしっかりしていた。それは気に食わんぞ!

数日後、俺とレティエルの婚姻が決まった。

愛らしいレティエルとの婚姻は嬉しかった。

彼女からはいつも甘くて良い匂いがした。明るくて色々なことを知っている彼女と話すのは楽しかった。

俺の世界は鮮やかな色合いで見るもの聞くもの全てが素晴らしかった。楽しかったのだ。



俺はレティエルにカッコ良いところを見せたくて剣術に励んだ。

騎士のように剣を振るえばきっとレティエルは俺に好意を寄せるだろう。

俺のカッコ良い姿を見たレティエルはどんな反応をするのかと思うと胸が弾み頑張れたのだ。


王子教育と剣の稽古で多忙だった。レティエルと会えない日が増えた。とても悲しかった。

だが挫けず兎に角頑張った! 母上や侍従たちにもよく褒められたものだ!

嬉しかった! 俺の努力を皆に認めてもらったと思えたからだ。



あれはいつの頃か。俺はレティエルに剣術を見せるのだ!と意気込んで彼女を王宮に呼び寄せた。

レティエルに見られると変に緊張してしまうのだが、日頃の鍛錬の成果を出す時だと胸を張った。

俺は子供ながらにも実力があると思っていた。母上や周りの者達が手放しで褒めてくれたからだ。

だから俺は弟である第二王子おとうとに挑んだのだ。模擬戦だ。勝つのが当たり前だと思っていた。


第二王子おとうとは強かった。俺では勝負にもならなかった。

レティエルは落ち込む俺を慰めてくれたがきっと内心呆れていたのだと思う。失望させたのだろう。

俺は‥…そう思うとレティエルの顔を見るのが辛くなった。


第二王子おとうとは俺と変わらぬ体躯なのに剣術は俺より上手く師範の評価も良かった。

勉学もそうだ。あいつは物分かりが良い。覚えも良かった。物事の理解力が俺とは違った。俺がなかなか理解できないことをあいつは一度聞いてすぐに理解した。嫌な奴だ!

日を経る毎に優劣が誰の目にも見て取れたのだろう。次第に俺よりもあいつを褒める声が多くなった。

不出来な第一王子おれ。‥‥陰でそう揶揄されていた。


母上は俺が第二王子おとうとより劣ることなどない。教える者達が悪いのだと良く仰られていた。

母上がそう仰るのだから俺はそうなんだと信じた。

俺は努力している。思うほどの結果が得られないのは教師や師範の教え方が悪いのだと詰った。



成長していくと、第二王子おとうとだけではなくレティエルの優秀さも際立っていた。

あの家の者は兄妹共々ずば抜けていたな。

彼女の優れた才能は多方面に発揮され、領地の繁栄に貢献していると聞いた。

俺と同じ年なのに。

第二王子おとうとは父上からよく褒められていると耳にした。

俺は‥…俺は。

レティエルも俺を不出来な王子と嘲笑うのか?

あれほど鮮やかで素晴らしかった俺の世界が色あせくすみだした。もう何も楽しくはない。


俺は何のために辛い勉強や鍛錬をしているのだろう。

何のためなのか誰の為なのか。意義が見いだせない。

ああ‥‥‥そうだ。

母上が望まれるのだ。

俺が次の国王になるのだからこれぐらいできて当たり前だと仰る。

そう。俺は次の国王だ。それ以外は許されないのだ。

母上も周囲の者も許してはくれない。

なれなかったらまた失望させてしまうのか? 

失望させた俺は‥‥見捨てられるのか?


ああ俺は‥…不出来な王子だ。

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