ジオルド公爵の能力
早速レティエル様に化けた私が帝国出身の特殊魔法保持者だと身バレした。
私の変装魔術を見破ったお方が陛下の弟であるジオルド公爵だった。
「特殊な能力だね。面白い」と笑って見破った種明かしを教えてくれた。
「僕はねぇ。魔力が視えるの。ふふふ面白いでしょ? 君の魔力が君と君以外の魔力と重なって視えてね。子を宿していなさそうだし。それに僕の知っている子の魔力もあったからねぇ。騙されるわけないでしょう。僕も舐められたもんだよぉ」
ふざけた調子で仰る。
だけど、レティエル様の魔力を知っていたとは。バレるはずだ‥‥。
魔力が視えるってことに更に驚いて。ビックリした顔を笑われた。
「僕はねぇ。所謂、先祖返りなんだ。知ってる? たまにいるんだよぉ。昔はこの国にも魔力持ちはいたからね。僕は何代か前のご先祖様の血が強く出たんだよねぇ。これ、秘密ね。君はイイ子だから秘密は守れるでしょ」
勿論、誰にも言う気は無い。初対面の柔和な人の良い人物像はここにきて霧消した。醸し出される怜悧な空気に射殺されそう。この人物の秘密など誰かに漏らせば私が殺られる。今は生き残る道を捜すのだ。
「しかし変な話だよぉ。僕の記憶ではカレンシア夫人の縁ある帝国貴族の娘だったんだ。購入したの。ふむ。やっぱり変だね。僕、大金支払ったんだよぉ」
私は自分が『売られた』と初めて知った。その事実にただ震えるしかなかった。
裏切ったのは誰!! 叫びたい声を堪えて悔しさに唇を噛んだ。
目の前の男に歯向かう気はない。力量の差を感じて反発心など既に摘まれた。
私は信じた人たちに裏切られた‥…悔しくて悔しくて唇をぎゅっと噛むしか出来なかった。
何故なのグレイン、エリック!
私を売ったの?
私は二人に会って確かめたかった。本当に私を売ったのか。
だけど私の胸の内を知ってか知らないのか公爵は世間話をするような語り口で魔力持ちの女性が殺され捨てられていたと仰った。
そして、「殺すなんて勿体無いよ」「闇オークションなら高値で取引」とお道化た調子だ。
公爵は序だから教えてあげると「魔力持ちは高値で取引される貴重な資源」「特に帝国人は値が上がる。特殊魔力持ちなら更に値が吊り上げる」と楽し気に仰る。「人として扱われない」と暗に語る。
「カレンシアの娘。今まで父親は上手く隠していたのにねぇ。数か月前にその手の組織に情報が流れたんだよ。一度は誤魔化せたのにねぇ。それに今回は手違いでもあったのかな?」公爵の含み事を匂わせる怪しい笑みは私を捕らえた。
私、騙されていたのか!
公爵の言わんとすることに気が付いた。
「彼女の値段は高額だと聞く」
公爵の冷たく殺気を帯びた視線が胸に突き刺さる。
私の返答如何で息の根を止められる。この人は見掛け通りの人ではない。
命の価値に重きをおかない人だろう。気に入らなければそれまでなんだ。
打ちひしがれる私に、得体のしれない公爵は「そろそろ本題に入ろうか」と真剣な眼差しで私を見つめる。
「さて、もう答えられるかな。もう一度聞くよ? 君の本名は?」
「えっ? 私の本名? 私の名…名前?‥‥」
どうしてか思い出せない。頭の中、靄が立ち込めているみたい。
私は帝国の元貴族で、両親は公爵家に嵌められた‥…えっ? 誰に?
復讐‥‥するのが‥…命令、命令? 誰から?
頭の中を『復讐』『公爵家』『命令』と聞きなれた声が木霊して、ジオルド公爵の言葉が耳に届かない。
「ダルどうだい?」と公爵は控えていた侍従に静かな口調で尋ねた。
「‥‥‥記憶操作の類でしょうか。これ? 先程から解除を試みているのですが少し時間が掛かります」
私の混乱を余所に二人の遣り取りは続いている。
「はぁ。この子カレンシアの娘の側にいたんだよねぇ。何時掛けられたんだろう? ダル。時間掛かってもいいからしっかり解除して」
「はい。旦那様」
「はは、これはザックバイヤーグラヤス公に借りが出来たかな? カレンシアが言っていた話と関係あるのか、それとも別口かな? それにしてもこれは面白いよぉ。どう思う? ムスカ?」
何時の間にか公爵の後ろに壮齢の執事服を着た男が立っていた。
「不謹慎ですぞ。旦那様。そうですな、頃合いではございませんか?」
「そう? やっぱり君もそう思うよねぇ。もういい加減あいつ等、潰しちゃおうか?」
くっくっくっと声を抑えて笑う公爵の顔つきが変わる。
「ではムスカ。命令だ。帝国に貸を作るぞ」
お読み下さりありがとうございます。