断罪のあと
王子達が連行されてから数日後。
衆人環視の元で曝け出された醜聞の裏付け調査はまだ続いていた。
<王子と公爵令嬢の婚約解消騒動>では看過できない点を包含していたからだ。
そして王命が下され多くの貴族達が調査の追求を受けていた。
だが、とある公爵家ご令嬢のタレコミと犯罪に加担した貴族家から匿名の内部告発があり真相解明が一気に進展した。
‥…王家を含む陰謀が発覚したのだ。
ーーーーーーーーーー
クリスフォード王子は未だ自分の状況に納得できずにいた。
陛下より謹慎処分を言い渡されて自室に籠っていた。陛下からの裁を待つ身である。
「くそっ! くそっ! くそぉぉ! 王子である俺が何故こんな目に! マリエラはどうした! おい! 答えろお前!」
謹慎処分である王子の自室に控えているのは監視役の騎士達だ。
勿論彼等は答えない。蔑む目で見やるだけだ。
意に添わぬ騎士に苛立ちを募らせながら悪態を吐いていた。
王子には未通達だが既に陛下の裁は降りていた。
廃嫡・王籍の除籍。貴族籍も与えられず幽閉。将来の禍根を断つ目的で生殖機能を不能にすること。これは一部の臣下からの強い要望を受け処罰に追加された。
「何故こうなったのだ。俺はどこで間違えたのだ‥…。母上助けてください‥‥」
王子の惨めな嘆きが部屋に響く。
ーーーーーーーーーーー
不祥事や犯罪を犯した貴族の扱いは身分や罪状によって変わる。
大概は自領や邸宅で謹慎処分である。
ただし重罪人は極刑だ。要は死んで詫びろ。なのだ。
騒動の渦中にいる側近候補達の沙汰は謹慎だ。貴族の謹慎は不名誉なことである。おまけに婚約破棄迄されている。自業自得と言えど汚点塗れの人生を歩むことになるだろう。
「こ、こんなはずではなかった‥‥。俺は道を誤ったのか‥‥これからどうすればいいのだ。俺の将来は‥‥うぅぅ」
彼等の嘆きは共通していた。
彼等も貴族籍を抜かれ放逐されるだろう。
ーーーーーーーーーー
マリエラの処分は重い。
彼女と彼女の父親は奸計を企てた実行犯として極刑が決定している。
特にマリエラは第一王子を誘惑し王家に実害を被らせたとして徹底的に調べられている。
彼女の家族と男爵家に仕える者達、また懇意にしていた者、出入り業者など接点のあった者は徹底的に調査が行われている。
男爵家はお取り潰し。親族にも罰金や労役が課せられた。重い者は資産の取り上げだ。
彼女の罪状は貴族社会ではよく見聞きする内容である。
王子を筆頭に高位貴族の子息ばかり狙って誘惑したり犯罪組織との係りや公爵令嬢に罪を着せ陥れようと謀略を巡らせたり。余罪はまだある。
だがしかしこの程度なら重罪人にはならない。身持ちの悪い女だとか策略が露顕しているので浅慮な女だと貴族社会で揶揄だれるだけだ。社会的制裁を受けるわけだが。
では何故か。詐術の相手が第一王子であったからだ。策に嵌った王子は身分剥奪の上生涯幽閉の裁が降った。生母である王妃は激怒した。その怒りの余波がレティエルと公爵家にまで及びそうになったので、男爵一家とその縁者。王子の側近候補とその家族に懲罰を降したのだ。
(勿論レティエルと公爵家は、とばっちりは御免だよ!と法務官への取引材料を用意していた。使ったかどうかは不明‥‥)
‥‥王家としては憎悪の対象が欲しかった。
この騒動の落し処を男爵家の取り潰しと極刑で終結させたかったのだ。
‥‥悪女の象徴としてのマリエラ。
王家への非難の目を逸らしたい。悪女としてマリエラは処罰される。彼女に用意されたシナリオはこれだった。
マリエラは利用されたのだ。最初から最後まで身分が上の者に利用されたのだ。
だが、そんな事実をマリエラは信じなかった。いや信じたくなかったのだ。
『私は主人公よ! 私がクリスフォード王子と結婚して将来の王妃になるんだから! 貴方達その時になって後悔しても遅いんだから! 謝るのは今よ!』
マリエラの発言は妄言、狂言として取調官は現実を甘受できずに心が壊れたのだろうと判断した。マリエラは重罪人専用の囚人牢ではなく所在地不明の囚人牢に収監された。刑が施行されるまで独房で孤独に過ごすことになる
そして執行されれば彼女は稀代の悪女として歴史に名を残すだろう。