レティエルの魔力
「…‥‥‥‥‥やば…‥」
弾けた魔力がエリックに当たった。奴はそのショックで気を失ったらしい。
ああ焦った。一瞬殺っちゃたかと思ったわ。レティエルのお手手を汚しちゃうとこだった。
‥‥‥あれ? この感じ、覚えがある。
ああ、これ魔力が流れているんだ。どこに?
流れる魔力の先を注意深く追えば、エリックの体内だった。
「えっ?!」
流れ込んだ魔力は所々で塊ながら活性化している。
「うげげぇ‥‥」美少女らしからぬ音が口から洩れた。
レティエルの能力(捕食系魔力)は健在だったね。
エリックの体内に病巣でもあったのか? それを食ってるっぽい。
嫌だけど。
「‥‥これは?」
活性が弱るに従い俺の魔力が上がるのがわかった。嵩が増した?
なんというか点滴で栄養補給されたみたい。
「はっ? 吸収したの?」
依然エリックは気を失ったまま。まだ魔力は繋がっている。
「‥‥これ‥‥」
気にしたら負けな気がする。うん。気にしない気にしない。
どうせエリックだし。
意識がないのを良いことに揺れる馬車の中でエリックの所持品を漁った。
「手掛かりが見つか‥‥これは?」
見つけたのは所在地と商会名が記載された一枚のメモと見覚えのある紋章の印が入った許可書だ。
この印の紋章は‥…ドクタードビリオス公爵家の物。何故こいつがこの印の許可書を?
ジオルド・ドクタードビリオス公爵。今の陛下の弟だ。臣籍降下をした一代限りの公爵閣下。確か引き籠り公爵と揶揄されてたな。そう言えば過去に王妃と噂があった人だ。噂の域だったけど。
はは、クリスフォードを思い出したわ。
ゲームキャラじゃないから頭の片隅にもなかった、この人の事。
…‥今回の件。閣下は関係しているのか? まさかのエリックの雇用主?!
「くそっ!!」
意外な人物が浮上したせいで俺はまたもや混乱した。
俺は一刻も早く家族の元に帰って安心させたいんだ!
それに公爵家の皆が心配だ。皆は大丈夫か。
エリックの話は本当なのか?! 裏で手を引いている奴は一体誰なんだ!
さっさとここから逃げるぞ! いや、犯人に辿り着けるチャンスだろ。このままでいいじゃん。レティエルの脅威になるなら潰そうぜ!
相反する思いがせめぎ合う。
ああ、もどかし!
今の俺は気が急くばかりで有効打がない。
圧倒的に情報が足りないのだ。考えようにも判断材料が乏し過ぎる。
一旦、冷静になろう。
‥‥家族も、公爵家の皆も、大丈夫だ‥‥
義兄は‥…たぶん大丈夫だろう。殺しても死ななそうだし。
罪人だったら‥‥うん。綺麗な体になってね。
パッカパッカと聞こえてくるリズミカルな蹄の音がどこか平和的だ。とても拉致犯と被害者が同乗しているとは思わないだろう。手掛かりかどうかもわからないメモと許可書を手に俺は、そんなことを考えていた。
‥‥無情にも馬車は揺れ動く。
「このまま乗っていればアジトに着くか?」
焦燥から俺は悪手を選ぼうとしていた。
俺が悶々と悩んでいるとエリックが意識を取り戻したようだ。
苦虫潰したような顔で睨みつけてくる。
「くそ、油断した。‥‥はっ? お前、逃げなかったのかバカな女だ。逃げていれば…‥」
ムカついたので繋げたままの魔力を操作しました。
あ~ちょっとした出来心で。
どうも、エリックからエネルギーを吸い取っているようだ。死なせない程度に吸い取ってますね。当然俺の魔力は増し増しです。
当のエリックは再び気絶している。
ああなるほど。
ゲームのレティエルがヤバイ魔法使うっての、このことか!
他人の体内で魔力を自由に動かせるのか。しかもエネルギーの補給もかよ。
‥‥レティエルは特殊魔力持ちだったんだ。知らんかった。
他人から吸収したエネルギーを自分の魔力に換えることが出来るって。ちょっと怖すぎ。まさか、こんな形でレティエルのヤバイ能力が分かるなんて。
悪役令嬢どころじゃないよな。これじゃ、魔女だ。
…‥ちょっと冷静になろうか? これバレたらヤバくない?
レティエル魔女どころか悪魔扱いされちゃうレベルでヤバイんじゃね?
隠蔽か!
証拠消さなきゃ!
もしかして帝国のじいちゃんが俺に帝国籍を取得させたのもこれが理由?
じいちゃんの帝国勧誘、凄かったし。多分、母さんから聞いたんだろうな。ああ、しまった。母さんから絶対に魔力を他人に流すなって注意受けてたのに。忘れてた。やっちまった。緊急事態だから許される‥‥はずだ。
…‥って、今は回顧している場合じゃない。
兎に角、身の安全をキープしなきゃ。家族が心配だけど今はグッと我慢。
丁度、馬車が止まったので俺は逃げることにした。
いつもお読み下さりありがとうございます。
ジオルド・ドクタードビリオス公爵と名前の変更しました。