疑惑
四章スタートです。
意識を取り戻し目を開けると見知らぬ天井だった。
ええ~と‥‥またかよ。
俺はこの状況に既視感を感じずにはいられなかった。
俺はもそもそと寝かされていたベットから這い出し周囲を窺う。
やっぱ、見知らぬ部屋だ‥…
―――拉致疑惑再び浮上。
ここには窓がないが明かりは点いている。だが外からの光がないので夜かどうかもわからない。
どこだここ領地内? それとも俺の知らない場所?
そう、本人の意思を無視して見知らぬ場所に連れて行かれたのは二度目だ。
なので俺は落ち着いている。
‥…母さん付きの侍女のグレインさんが俺を連れて来たのか? あの人は味方だよな? もしかして違った?! ‥‥‥うううドギドギしてきた。
「おや。もう目を覚まされたのですか。思ったよりも早く目覚めてしまいましたか」突然、後ろから男の声がした。
ギャー! 人いたのかよ! 驚かすなよ
俺は怒りとも驚きとも何とも言えない不細な顔をしていたと思う。
恐る恐る振りむいて、後悔した。そう、後悔だ。悔みに悔むわ。
「えっ?‥…なんで‥‥おま‥‥ごほんげほん。‥…ああいえ、貴方は?」
俺は取り繕った必死で。無駄だけど。案の定顔は引きつりまくってた。
何故なら俺の目の前にいる男‥‥
イケメンだ。ちょっと陰のあるイケメンが俺を見ていやがる。
陰りのある顔にキャーキャーと陰から異性の黄色い悲鳴を上げてもらえるイケメンだ。羨まし過ぎて俺の心がやさぐれる。
はっ、違った! そうじゃないだろしっかりしろよな!
こいつ‥‥攻略対象の隠れキャラだ!
俺が攻略対象の動向を探ってた時にこいつは見つけられなかったんだ。
その時はシナリオを重視の戦略を練っていて隠れキャラは攻略成功しなければ出現しないだろうと勝手に判断したんだっけ。
ああーあの時の俺を殴りたいわ! 俺はバカだ。
居るじゃん普通に。人を埒るぐらいに裏稼業してんじゃん!
こいつは俺の内心の動揺など知らず、すました顔だ。
「初めまして‥‥‥でよろしいでしょうか。レティエル・ザックバイヤーグラヤス公爵家令嬢殿。俺は漸く貴女の前に立つことができました」
「あ、あなたは‥…」
「ふっ、貴女は俺のことなど知らないでしょう」
あっゴメン知ってる。お前隠れキャラのエリックだろ。とは言えない。
「今の私は名乗ることが出来ません。影とでもお呼びください」
いやゴメン知ってるんだ。お前以上にお前のことを‥‥
気障に振る舞うこの男を見て俺はめっちゃ気まずくなった。なんか居た堪れない。
そもそもこいつ今までどこにいたんだ?
確かどこかの貴族に出自を付せられたまま日陰の存在として囲われ育てられて(主に裏稼業を生業にしてたな)それで影としての諜報活動の最中、調査対象であるヒロインの人柄に惹かれるんだっけ? チョロチョロチョロイ男なはずだ。本人はチョロイけど攻略対象者全員から高好感度受けないと出てこない存在。
えーと、どこの貴族だっけ? あまり良くない頭をフル活用して思いだすべく奮闘した。んー? あれこいつ‥…
身震いしてきた‥‥‥
間違いない! こいつ義兄に雇われる奴。
はああああああああ! またお前か! 義兄ふざけんな!
「お義兄様‥‥」思わず零れた一言。
漏れ聞いたエリックは目を見開いて固まった。