居なくなった母さん
早馬を出してからどれほどの時間が過ぎたのだろう。
まだ知らせはない。
俺は執事の元へ。
「まだ連絡はありませんか?」
「あ、お嬢様。お出向きいただくとは申し訳ございません。連絡はまだでございます。恐らく王領地で足止めを受けていらっしゃるのでしょう。もう一度早馬を走らせますので暫しお待ちください」
俺は仕方なく部屋に戻る。
雨はますます酷くなっている。早馬に乗る人ごめんな。
時間経過と比例して俺の不安は募っていく。これなんかおかしくない?
落ち着かない。嫌な予感がする。俺は部屋をうろうろするしかなく控えている侍女さんも不安な顔をしている。
暫くすると執事が部屋に来た。
「お嬢様。後続の者が戻りました。残念ながら奧様にも先発の者とも合流が出来ず一旦報告に戻って参りました。お聞きになりますか」
もちろんだ。俺は急いで報告を受けた。
信じられないと俺は戸惑いと焦りで頭が上手く働かない。こんな時に!
王領地の途中で倒木のため道が通行止めだった。王都に引き返したのか迂回して隣の領地を抜けようとしているのか、王領地内で宿泊しているのか。分からない。先発の者にも会えず指示を仰ごうと一旦戻って来た。
それでも母さんから連絡がないのはおかしい。
隣の領地を抜けようとしたか引き返して日を改めようとしたかだろうか。
しかし隣の領地を通る? いや考えられないわ。
攻略対象者の領地だし、今回の騒動を起こした奴が謹慎しているんだ。お互い悪感情を持っているのだ。避けるだろう。
なら王都に引き返したか。だったら連絡がないのは何故だ。
俺は最も最悪な可能性を考えていた。
「すまないが今度は組み合わせて走らせてちょうだい。外は暗くて危ないのはわかりますが今はお母様の所在を知ることが先決です。王都のタウンハウス、王領地内の宿場、隣の領地の宿場、後は中継地点。この四か所に人を振り分けてお母様を捜してください。もしかしたら途中で伝達の者と合流するかもしれませんからよくよく人の流れに気を付けてね。皆には悪いと思うの。でも許してね」
「お嬢様‥…。奥様の所在を捜すのは当たり前のことでございます。お嬢様が恐縮なさることなどございません。ご命令くださればそれで宜しのですよ」
執事が言葉を繋いでくれる。
そして振り分けて手配してくれた。夜に差し掛かって探す方は大変だろう。すまんみんな。
時間が無常に過ぎる。もう夜中だ。
何も出来ない自分が歯痒い。落ち着かない。
捜索に出た者が一度報告に戻ったがやはり足取りが不明だった。
雨が余計に足取りを掴めなくさせている。ああ苛立つ。待つのは本当嫌だ!
‥‥先発の者がタウンハウスに付いた頃か?
後発の者を送ったがタイムラグはどうしようもない。
俺の顔色はだんだん悪くなるばかりだ。執事や侍女が心配してくる。
俺は大丈夫だよ。母さんと連絡が取れれば、後で笑い話になるからな。
母さん付きの侍女が意を決したような顔で俺に話があると言ってきた。
なんだ? わかった。自室で聞こう。
「お嬢様‥…。奥様は追跡の魔術具をお持ちです。もしものことをお考えになられ保持されています。御身に魔封じの器具を着けていらっしゃいますので簡単には作動できないでしょう。これはお嬢様の身に何かあったらと想定されてお嬢様の魔力に反応するよう設定してあります。ですのでお嬢様、魔封じの器具を外して頂けないでしょうか。もし奥様が魔術具を作動されていればお嬢様の元に連絡が入るはずです」
な、なんと。そんな優れモノが! もう、早く教えてよね侍女さん。
俺は言われた通りにチョーカーを外す。
暫くすると俺の足元に円形上の文字か記号か光り輝く模様が現れた。
なっなにこれ? えー魔法陣? めっちゃファンタジック!
上がったテンションがだだ下がる。そのファンタジックが俺の身体に張り着いて動きを封じたからだ。
『なんじゃこりゃー!』‥‥声がでない!!
「お嬢様‥…申し訳ございません。暫し御辛抱を」
『ええええーちょっちょっとぉ待って! なんだよこれ助けてー』
俺はだんだんと睡魔に襲われ、いつの間にか意識を手放していた。