おまけ:思い出すー①
おまけです。
レティエルと王子二人が初めて会った日のことです。
俺は邸宅内で大人しく待っていた。
辛抱しているのだ。早く自由になりたいのに‥‥。はぁ。
暇な時ほど碌なことを思わないものだ。俺は一抹の不安から現状を顧みた。
‥…俺は破滅を逃れたのか? 第二王子は公爵家の弱みを握った状態だ。このまま俺が帝国に行けば逃げ勝ちできるのか? 王子が黙っているのは後ろ盾が欲しいからだろう。ずっと弱みを握られたままでいいのか?
どう考えても第二王子ルートは潰せていない。
今は協力関係かもしれないがいつ覆させられてもおかしくない。これは薄氷の上を歩くようなものだ。
俺だけ帝国に逃げ延びてそれで済むのかどうか、考えることは多い。実はまだ結論を出せずにいる。はーどうしよう。
それにしても第二王子ってこんな食わせ者だったか?
王子達と出会った時のことを思い出していた。
俺達が出会った頃は王子達は異母兄弟でありながら関係は良好だった。
どちらかと言うと兄貴の後ろに隠れるような奴だった。
あれは第一王子の6歳の誕生日を迎える少し前か。王妃による第一王子の伴侶候補の選出のためのお茶会だった。実際はお茶会という名の見合い。
参加者は勿論上位貴族のみで下位は論外。今思えば王妃も必死だったんだろう。
俺は参加拒否を示していたが幼い女児が権力に勝てるわけもなく俺は気なく強制参加させられた。
その日が俺と王子達の初顔見世になったんだよな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
―――レティエル6歳になる少し前。王宮内庭園にて。
今日は王妃主催のお茶会日。招待客は勿論第一王子と年回りの近いご令嬢だ。
「本日はよく集まってくれました。あらそんなに畏まらなくてもよいのですよ。ふふ。皆さんとても可愛らしいわね」
王妃はとても優しい笑顔で俺達の緊張を解こうと気さくな感じで声を掛けてくれた。これから家順毎に挨拶が始まる。
ああ気が重い。
だがこの場にいる以上、公爵家の子として迂闊な真似は出来ない。
設定通りなら俺は第一王子の婚約者になるのだが‥‥
どうにも避けられないな、これ。
幼児に見合いをさせ、政略の為の婚姻を結ばせる。
幼き身にえげつない重荷を背負わせるな。鬼だな。
ああ嫌だ。
俺は記憶を取り戻して約2年が過ぎていた。だが貴族の考えに馴染めないで困っていたのだ。何とか取り繕って及第点をやっと取っている現状だった。
ああ、大人の精神で良かったと、つくづく思うわ。どれだけ自分を殺さないといけないか。辛い気分は会社勤めのリーマンか‥…溜息しか出ないわ。
周囲を見渡せばお子ちゃまな女の子達はウキウキ感が見え隠れしている。
だが騒ぎ出す子はいない。さすが上位貴族、躾が厳しいんだろうね。
だけど皆の王子を見る目はキラキラ輝いている。
ああ、この王子、無駄に顔だけはいいもんな。
光が当たってか昼間だからかブロンドの髪がきっらきっらに輝いている。
瞳の色はマリンブルー。それに目鼻立ちも整って綺麗な顔立ちだ。王道王子って感じ。成長しても美形は確定だな。
うん、羨ましくないぞ。
ああ、子供のこいつ、ほんと愛らしい。素直に笑うんだよ。
周囲を観察することで暇つぶしをしていた俺の順番が来た。
俺は意を決して王子の前に立つ。
「王妃様、クリスフォード第一王子殿下、お初にお目にかかります。わたくしザックバイヤーグラヤス公爵が長女レティエル・ザックバイヤーグラヤスでございます。本日はお招き下さいましてありがたく存じます」
令嬢としてのカーテシーを見事に披露した俺は達成感に満ち足りていた。
ふん、どうだ練習の甲斐あったな。
俺を見ていた第一王子はぽーとして「あ、ああ‥‥」とだけ。
おい、お前大丈夫か? ちょっと心配したよ。他に言葉ないのか?
王妃の笑みが苦々しいぞ?
さて、義務は果たした。後は好きにさせてもらおう。