王都にて
義兄視点です。
「若。報告書です」
「ああ、ありがとう」
私は王都にあるタウンハウスの執務室で手渡された報告書に目を通す。
やはり、王都内でおかしな動きが見受けられます。
これは義父上にお伝えしなければいけませんね。またお仕事を増やしてしまうのは私の責任ではありません。悪しからず。
「お前はどう思うかい?」
他者の意見を聞いてみたくて私の補佐役であるエリックに話を振ってみました。
彼は私より3つ上の公爵家預かりの文官。
子供時代に私付きの侍従見習いとして義父上から与えられました。今は私の補佐役です。
彼の境遇は私と似たり寄ったりな、家庭環境は難ありで不遇な生い立ちだと聞いています。それに彼は私の養子縁組が決まる前の養子有力候補でした。ですが私に負けて養子候補から外され、配下として年下の私に仕えています。ざまあないですね。
しかしこの男に遺憾はないのでしょうか。
私ならレティの近い立ち位置に居れない時点で不満‥‥いえ憤怒ですね。
己の生を呪ったでしょうね。ああ恐ろしい。
それなら彼の心情は如何なものでしょうか。
‥‥知ったこっちゃあないです。心底どうでもいいですね。
「若、やはり偽装ではないかと。商人に扮しての諜報活動はありがちですから。問題は人数の多さでしょうか。諜報にしては動きが怪し過ぎます。まるで軍人の訓練を受けた者のようでした」
ククク。いけませんいけません。つい思考がズレてしまいましたね。
「そう思いますか。そうでしょうね。これについて義父上に報告は?」
「はい。若のご依頼でしたが事態を鑑みまして先に旦那様にお伝え致しました」
「わかった。気配りご苦労。なら私も義父上と第二王子の私見を伺いに行きましょうか。面会の申し込みを」
「若。既に旦那様とお約束済です。明日であればお時間が取れると仰っていましたので。そのように手筈は済ませております」
「‥‥‥段取りが速いですね。では第二王子に」
「畏まりました」
エリックは手筈を整えるため退出していった。
これは彼の特筆すべき優秀さです。まあ私の次の次ぐらいの優秀さです。
彼は私の意を組んで先に行動をします。ふふ。得難い部下ですね。
彼を与えて下さった義父上には頭が下がります。流石は義父上です。
彼の働きは公爵家の文官の立場というよりほぼ私のプライベートに関してです。滅私奉公は美徳でしょうが。こう言ってはアレですね‥‥ククク。下僕に近いでしょうか。欲しかったんです。顎で使える頭の良い下僕。ふふ。
そんな彼ですがレティとの面識はありません。当たり前です。
不用意に異性を近づけるなどそんな愚行を義父上はなさいません。
お眼鏡に叶った者だけが側に許されるのですよ。ふふ。私の様に。
‥…ですがまだレティへの接近禁止の罰が続いています。艱難辛苦です。
ああ、私は許される日を一日千秋の思いで耐えています。
忸怩たる思いで過ごしていますが未だ許されません。
‥…本当に我が義父上は容赦無さ過ぎです。血も涙もありません。
ああそうでした鬼畜でしたね義父上は。
それはさておき、恐らくレティは知らないでしょうね。
私以外に養子候補がいたなんて。勿論、私は教えませんよ。当たり前です。
何が悲しくてレティに野郎の話をしなければならないのですか。
耳が穢れるではありませんか!
しかもこの私が穢すなど! 言語道断!
はっ! ついつい力が籠りました。
いけませんいけません。反省しきりです。
‥‥いつものことながら彼の迅速な行動に助けられますね。
優秀な男なのでしょう。彼といい家令といいこの公爵家は多士済済です。
義父上や私が領地不在でも彼等が居れば安心できます。まあ、政治的手腕は期待できないでしょうが。
私はここで思考を切り替えるようお茶を飲んだ。
‥‥冷めてますね。
‥…あの者が言っていたことが起こりつつあるのでしょうか。
荒唐無稽な話をしていただけでなく厚顔無恥でもありました。
ただの痴れ者として唾棄すべきではないのでしょうか。
俄には信じられませんでしたがこうも予測が当たるとなると。少々複雑怪奇に思えます。
私は記憶にあるその人物との会話を反芻してみた。




