レティエルと第二王子
レティエルと第二王子です。
第二王子の来訪です。
「やあ。ご機嫌いかがかな。レティエル」
ニコニコと俺の前で愛想笑いをしていやがるこいつこと第二王子。
高級お菓子を手土産にフラッと来やがった。勿論お菓子は貰った。当たり前だ。
「ご機嫌麗しゅうございます。ランフォード第二王子殿下。本日はどのような御用でございますか。生憎、父も母も義兄も不在です。王子殿下が家人不在の邸宅に訪問は如何なものかと」
ほんと、誰もいないのに、こいつ何しに来やがった?
ジッと俺を見る王子の目が気持ち悪い。
何というのか獲物を見る猛禽のような…って俺猛禽じゃないから知らんけど。
ああ嫌だ。俺の背中にはじっとりとした嫌な汗が。不快だ。着心地も居心地も悪い。多分俺は無意識に顔に出していたんだろう。不愉快さを。
王子はさして気にも留めない様子で俺に語り掛ける。
「ふふ。貴女にお土産話はどうかと思って来たのです。帝国のこと聞きたくありませんか。と言っても私に話せるのは学院の内情ぐらいでしょう。興味はありませんか?」
う、興味がないと言えば嘘になる。
俺は帝国で学院に通う予定だ。近々の情報は欲しいところだ。
最終学年に転入になるはずだから、俺はバッチリ続編のキャラ達と学年が被るのだ。俺は奴等とは関わらず、目立たずに魔法の習得を目指すことを目標に転入するのだが、こいつはどうなんだ?
‥…成程。
兄に代わって実質の第一王子か。そういや~彼奴、廃嫡だっけ。
それで留学を断念して帰国したのか。う? ならこいつとはもう会わなくないか?
俺このまま帝国に行けば良くね?
もう第二王子ルート回避してんじゃん! なんだ心配して損した。
あービビらすなよな~お前も人が悪い。
心底安堵した。
それからは気分よく王子との会話を楽しんだ。
あー、こいつ話し易い。良い奴じゃん。攻略対象ってだけで寄せ付けなかったのは悪かったな。俺達いい関係築けるかも。
学院の授業やらイベントやら食堂のメニューとかまで。
意外だったのがこいつが魔法について詳しかったことだ。
俺はすっかり聞き上手話し上手のこいつに油断してしまった。
「そうそうご存じですか。 学院の魔法科に新しい学科が設けられました。既存の授業では座学は魔力のない者でも受講が許されていました。ですがこの度、新設された科は魔力持ちではないと受講できないのです。魔力特化型の授業のようです。授業内容はまだ不明ですが、生徒達の間で専らこの話で盛り上がっていました。残念な事に私は受講資格がありません。ですが貴女には資格があります。このように皆が注目している授業です。勿論、貴女も受講されますね?」
興味をそそる話だ。だが、その手には引っかからないぞ!
ヌハハハー。残念だったな第二王子!
「あら? 王子殿下それは無理でございましょう。魔力保持者だけの授業ですわよね? わたくし魔力など持っておりませんわ」二ヤリ。
「おや? そうでしたか。これはこれは私としたことが。失礼しましたねレティエル。貴女は幼少の頃からチョーカーを離さず着けておられる。てっきりそれは魔封じの器具だと思ったのですよ」
な、なんだとー!
意外な盲点。ってかお前よく気が付いたな?!
「おお…王子殿下‥…。これは装飾品でございます。わたくしこの手の飾りが好みでして。つい気に入った物に執着してしまうのです。良くはないと思うのですがこればかりは‥…公爵家の娘として恥じ入るばかりですわ」
内心俺はドキドキしている。
王子は不敵な笑みを浮かべたままだ。
何か嫌な予感する‥…。
「そうですか。貴女がそれ程までに執着をする装飾品。確かに素晴らし品と見えます。ふうむ。素敵な飾りも付いていて、私も興味が湧きました。それを見せて下さい」
王子はニコニコ‥‥ではないわ。ニタついた笑顔で手を伸ばす。
うぉーーー! これって断れねえじゃん! 断ったら不敬だよな!
後ろに控えていた侍女にチョーカーを外してもらい俺は思惑の分からない王子に渋々チョーカーを手渡した。
チョーカー見て分かるのか? 魔力のない者が見てもただのチョーカーにしか見えないって親父言ってたし。バレないよな‥…
「ふむ‥…。石を嵌め込んだ金具の意匠がとても素晴らしいです。見事な細工ではありませんか。製作者は王国の者ではありませんね。帝国の者でしょうか」
ふむふむと観察する目を外さずに王子は‥…
「これは魔石ですね。しかもとても貴重な種類です。やはり魔封じでしたか」
確信した王子の声がやけに俺の耳に付いた。