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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第一章 攻略対象一人目 正しい第一王子の取り扱い方。
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婚姻契約の無効(婚約解消)

神殿長が二人の名前が記された書面を恭しく掲げながら『婚姻契約の無効』を願う祈りを始めた。

ちょうど会場となったこの広間には守護神像が飾られている。

神殿長はその像に向かって祈りを捧げていた。

俺に信仰心はないが、この時ばかりは神はいると思えるほどの神聖さを感じ取り内心感嘆を漏らしていた。


…今なら神の存在を信じれる。この後、王子を追い詰める予定だが躊躇っちゃう。このまま帰ろうか…。


祝賀会から一変して婚約解消の現場となった広間には息を呑む多くの貴族達が粛々と事の成り行きを見つめている。


皆には悪いことをしたかも‥‥。


だが貴族達は今日のこの場で何かが起こることは知っていた。

其々の派閥が情報をリークしていたから。


『祝賀会場で第一王子から宣言があるようだ』

『王太子候補の中で優勢だったクリスフォード殿下の立場が危ういらしい。祝賀会で動きがありそうだ』


聞き及んでいた話との違いにこれから起こることの予想がつかない貴族は、今後どちらの陣営に付くべくか戦々恐々で見守っていた。



祈りは終わり神官長が低音ボイスの良い声で契約は無効となり婚約は解消されたと告げた。神から与えられた良縁は無縁となったとも。


俺は神殿長に労いの言葉と自分の願いを叶えてくれたことへの感謝を述べ、もう用は済んだと踵を返して退室を‥…。―――出来なかった。

何故か、マリエラが立ち塞がったのだ。


「レティエル様、どこへ行かれるおつもりですか! まだクリスフォード様のお話は終わっていません!」


名指された王子はビックリしているが、何故だ。


「えっ? マ、マリエラ何を「まぁ、わたくしの名を軽々しく呼ぶとは。貴女には何度も申し上げたかと思いますが‥‥まったく学習しておりませんわね。その頭は飾りですか?」


心底呆れた声で言ってみた。王子と被ったのは無視だ。しかしこの女本当に貴族教育受けてるのか?


「なっ! ひっひどい! クリスフォード様!」


「あぁ‥‥えっとぉその、なんだレティエル‥…」


歯切れ悪すぎの王子の視線は泳いでいる。最初の勢いはどうした?

痺れを切らしたマリエラが怒鳴る。


「クリスフォード様! わたくしレティエル様に散々嫌がらせを受けておりました。王子もご存じです!」

不敵な笑みを浮かべるマリエラと正反対の王子は真っ青だ。


「あら? わ・た・く・し・が、嫌がらせ‥‥でございますか殿下?」


俺は勿論王子にガンを飛ばす。言外にばらすぞと目力で。


「い、いや‥‥何やら誤解があったようだ。これについてはまだ調査中だ。マリエラ迂闊なことを言ってはいけないよ‥‥。そ、それにもう婚約は解消されたんだ。これでいいだろう。マリエラ。これ以上は必要ない」


「ク、クリスフォード様! 何を! こんな悪役令嬢、懲らしめてくださるって言ってくれましたよね! マリエラが可愛いから嫉妬しているんだ。これが婚約者かと思うと嘆かわしいとも言いました。王子の婚約者に相応しくないって。マリエラの方が相応しいから結婚したいって!」


「マ…マリエラ!」


王子は慌ててマリエラの口を塞ぎにかかったが俺は聞き漏らさなかった。


はあ、今、なんて言った? 悪役令嬢? あっ!やっぱこいつ転生者だ。しかも前世の記憶持ってやがる。マジか。あーこの女マジメンドクサイわ。


王子に口を塞がれたマリエラはモゴモゴしながら目を大きく見開いていた。王子に不満なようだ。


しかし本来なら祝賀会で盛り上がってたはずなのに。皆悪いな。いくら事前通達をしていても強行する気はなかったんだよね。俺達のために折角の卒業前の思い出が台無しになるじゃん。はぁ、これどうしよう‥…。


申し訳なくて周囲を見たら、意外にも貴族達は浮ついていた。

ワクワクとした期待に満ちたその顔‥‥一体どういうことだい?


彼等のボルティージが段々と上がっていくのを肌で感じる。

『いいぞやれ!』『やっちまえ!』『やっておしまい!』

皆の心のコールが後押ししてくる。

思案中の貴族達は今後の身の振り方を決めたようだ。


あ~みんな、好きだねぇ、醜聞。他人事だもんね。

ならば彼等の期待に応えなければ。今日を台無しにしたせめてもの償いだ。


俺は意を決した。不敵な笑みを湛えながら王子達を見据え落ち着いた静かな声でゆっくりと口を開ける。


「殿下‥‥。いえ、マリエラ様。何を仰っているのですか? 言い掛かりも程々になさいまし。みっともないですわ。それに殿下と結婚ですか? ふっ。貴女如きが出来るわけないでしょう。そんなことも分からないのですか? 困った方ね。フフフ。もう少しこの国の貴族社会のことお勉強なさったら? 殿方を追い回すお暇があるのならねぇ。それに妄言ばかりでは貴女のご両親がさぞ困ることになるでしょうねぇ。クスクス」


暗に、言い掛かりをつけるなら男爵家もろとも制裁するぞ!と言ってみたが、わかったか?


王子の手を払い除けてマリエラが真っ赤な顔で声を荒げる。


「はぁ!ふざけないでよ! 私を尻軽みたいに言わないでよ! あんたこそ、男に逃げられてんじゃん! はっ! さすが悪役令嬢ね!」


「あら嫌だわ。相変わらず頭の働きが鈍い方ねぇ。別に逃げられてなどいませんわよ。不誠実で不義理なお方とのご縁など。不要でございますわ。フフフ。そのお方には高額な慰謝料と賠償金の支払い義務が生じるのですけれどね。個人資産から捻出できるかしら?」


「レ、レティエル! なっなんだと「ちょっと! どういうことよそれ! 王子が慰謝料なんて払う義務はないわよ! 馬鹿なこと言わないでよ!」


王子が何か言おうとしたがそれをマリエラが遮る。相変わらずだなお前。


「ああ、ゴメンナサイね。クリスフォード殿下とご結婚できる方法がございましたわ。わたくしとしたことがうっかりしていました。フフフ」


「ふん! やっぱり悔しいんでしょっ!私は王子と結婚していずれ王妃になるのよ。だってヒロインだもん!」マリエラはドヤ顔だ。


‥‥えぇ~。酷いなこの女。ヒロインって自分で言うか? アホか‥‥いや痛いわ。痛い子だった。こいつ放っておいても自滅しそうだな。それより王子、これどうするんだ? お前やばいぞ。


「まぁ‥‥。不敬も恐れぬ発言。恐ろしいわ。皆様お聞きになりましたわよね? よろしいですか? お聞きになりましたね。」大事なことです。二度言いました。


「あ、あのマリエラ様。得意顔のところ非常に言い難いのですが‥‥。今のクリスフォード殿下とのご結婚を望まれるのでしたら、殿下が王籍を除籍されて臣下に下られてからになりますのよ? それはご存じで」


俺は可愛そうな子を見る目でシレッと言ってのける。王子が王太子候補から外れたってわかるかな?


「はああ? なに言ってんのよ! 負け惜しみ? そんなわけないでしょ! 私、ヒロインよ。私が王妃にならなくてどうするのよ! あんたがなるっての? はっ! 悪役令嬢が無理でしょ! あんたは断罪ルートよ!」

マリエラは怒りでちょっとヒス気味。こ、こわ~。


横にいる王子の顔は‥‥顔面蒼白だ。この王子でも自分が追い詰められていくのがわかったようだ。しかも愛するマリエラの手で。


王子…ざまあねえな。プププ。レティエルを蔑ろにするからだぞ。

さてっと。


俺は自分の取り巻き達に目配せをする。

心得ましたと言わんばかりに頷き返して用意していた書類を素早く且つ静かに周りの貴族達へ配り始めた。

貴族達も暗黙の了解だ。誰も一言も漏らすことなく手にした書類を流し読む。


‥‥頃合いだ。

俺は王子達ではなく、ギャラリー状態の貴族達に向けて‥‥

驚愕の事実を知ってしまった! の演技で声を荒げる。


「み、皆様、お聞きになりまして! 王妃様に成り代わると仰いましたわマリエラ様。これは…由々しき事ですわ。そして王妃になったら‥‥わたくしを、いえ我が公爵家を断罪すると! 罪なき我が家を冤罪で陥れようと画策なさるとは! 神をも恐れぬ仕業。なんと恐ろしい! クリスフォード殿下とわたくしの婚約を解消させるだけでなく自らその座に就き、王妃様に成り代わろうと狙うとは! こ、これはもう謀反ではございませんか! 殿下! 貴方はなんと愚かなことを!」


「えっ?! レ、レティエル何を言っているのだ‥‥。うっ! お、お前達! ち、違う!違うぞ!レティエル! 嘘を申すな!」


王子が慌てて否定するが周囲の貴族達は疑惑の眼差しで王子とマリエラを睨みつける。その手には王子達の醜聞が書かれていた先程の書類が。レティエルを追い落とそうと企てた件、公費でマリエラに貢ぎ込んだ件、中でも酷いのが『組織犯罪にレティエルと公爵家が関与している』と捏造した件と密会中の王子とマリエラの淫らな姿を写し撮った写真だった。


子供の後ろには親がいる。当たり前のことだ。この場にいる者達は背後に親の企みと良い様に使われた愚かな子供。を的確に理解していた。

露顕せず事が成就すれば論功もあっただろう。だが今は衆人環視の元暴かれている。


王子や側近候補達が違う違うと騒いでいるが、残念ながらレティエルシンパが仕込み中だ。

王子達に冷静な判断などさせる隙を与えない。やれ非道だ! やれ恥を知れ! やれ最低だ! 彼方此方でヤジを飛ばす。手を抜かない。当然だ。この場を制するのはレティエルなのだから。



貴族に正義は不要だ。青臭い正義感も歓迎されない。当たり前だ正義は勝利者に齎されるからだ。そして勝つ為に、勝利の為の流れを作るのだ。

情報操作もお手の物。じわじわと広がる波を作るのだ。王子サイドは今の王と王妃を追い落とす気だ。と。真実か否かはこの際どうでもよい。後で辻褄を合わせばそれでいいのだ。腕が鳴る。レティエルシンパの本領発揮だ。


王子達にはこの騒動を押さえる術がない。必死に否定の声をあげるだけだ。


お前ら冷静になれよ。おや? メンドクサイ女は静かだな。

何となく女を見ていたら小刻みに震えている。あれは怒りからか?


「ふっ、ふざけないで! あんた悪役令嬢でしょっ! 何、勝手なこと言ってんのよ。ヒロインは私よ! これは私のイベントなのよ! 邪魔しないで! あんたなんか大人しく断罪されればいいじゃない! 黙れ黙れ、黙れ! モブ共!」


「マ、マリエラ! 黙るんだ! おい、お前達マリエラを黙らせろ!」


王子は必死に側近候補に指示を出す。その顔には悲壮感がありありと現れていた。今更だな。


マリエラは般若の顔で叫び暴れている。


俺はマリエラの形相にちょっぴりビビッてた。

この女怖いよ~。俺のことも睨んでくるよ~ビビりが過ぎて涙目だ。



今の今まで俺の横で静観していた神官長が低音ボイスの良い声で会場の護衛達に王子とその仲間を連行するよう指示を出した。


神官長は「もう大丈夫だ、怖がらなくていい。心優しいレティエルには辛いだろう」と慰めてくれて、この場は任せるよう優しい声で提案した。


‥…人って自分が信じたいことにしか目を向けないよね。


内心でちょろいぞ神官長と思いながらも、この場は乗っかることにした。


ありがとう神官長!

ようやく騒動は終焉に向かう。

後は、神官長にお任せだ。王子が退室した後のこの場では一番の高位者だ。


そう俺は神官長に丸投げを決めた。






   ーーーーーーーーーーーーーー


今は帰路に就く馬車の中。

俺は疲れを感じながらも達成感に高揚していた。


ふぅ~。取り敢えず、乗り切った! 祝賀会での断罪イベント。 わ~俺頑張ったよぉぉぉ。


会場の後始末を神官長とシンパ達に丸投げした俺はこれから迎え撃つ公爵家の面々を思い浮かべながら算段する。


次はレティエルの暗殺ルートだ。これを潰すぞ! ‥‥はぁしかしもう大丈夫だとは思うんだよね。なんたってこのルートの攻略対象者はレティエルの義兄だからな。義兄を一度もマリエラと関わらせなかったんだ。もうこのルートは存在しないよな? ‥…でもちょっと不安。



ーーーレティエル暗殺ルート。(義兄ルート)


レティエルは公爵家の一人娘だ。母親が病を患ったため両親は早々に子作りを諦めたのだ。(ゲームではレティエルが幼児の時に母親は亡くなる。勿論、彼女は手を尽くして回避した)

レティエルと第一王子の婚姻が幼い頃に決まったので、公爵家は分家から男児を迎え入れることにした。その子供は頭脳明晰で容姿も良い。文武両断。爽やかなイケメンを擬態している腹黒攻略対象者なのだ。

分家で母と二人肩身の狭い思いで生きていた。その母との死別、跡取りの厳しい教育、レティエルの嫌がらせなどで義兄の心は荒んでいた。その義兄をヒロインの愛情が救うとかなんとかだったかな? ちょっと忘れてるわ。

レティエルは公爵家に身分の低いヒロインが入ってくるのを嫌ってトコトン邪魔をする。虐めや嫌がらせも。義兄は邪魔なレティエルを排斥するために暗殺者を雇う。一緒になるために手段を選ばず行動する義兄にドン引きだ。


その義兄が次の相手になる?


彼を陥れると公爵家はたちまち後継者問題に直面する。我が家に食い入ろうとする輩は多い。

それに俺達の仲は良好だ。できればこのまま良い関係を続けたいのだ。


さてどうしようか。

9/27 サブタイトル変更しました。

視点をレティエルに変更したので修正しました。

レティエル暗殺ルート、加筆しています。

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