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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十五章 ミスリード

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敵認定ー①

お読み下さりありがとうございます。


投稿の割り込みができなくて、書き直しました。


「お義兄様、気遣いは無用ですわ。何かお聞きになりたいことがあるのですね?」


沈黙が落ちた車内の息苦しさに耐え切れず、探るような視線を向けてくる義兄に堪らず問いかけた。視線は変わらず、返事に少し間があった。


「ファーレンも皇帝も、帝国は、みな敵だとわかっているよね?」

「へ?!」


予想外に物騒な返答で、震撼させられた。しかも、同意まで。


・・・うわ! とうとう、敵認定しちゃったよ!!


大国の頂点に立ち天上人と敬われる皇帝を敵だと明言した。その声音には、畏怖も敬意も微塵もなく敵愾心が滲み出ていた。


意表を突かれ呆けたが、直ぐにハッと御者台に座っているだろう人物に目を向けた。車内の防音は完璧にもかかわらずに。台には帝国軍のダルが座っている。聞こえていないとわかっていても、肝が冷えた。


「おお怖い。もうお義兄様ったら。ふふ、伯父さまに裏切られて悲しいお気持ちはわかりますが、先ずは、お怒りをお鎮めくださいませ。落ち着いてお話いたしましょ? ね?」


真意の読めない義兄を相手に同意も否定もせずお茶を濁す。無理矢理笑顔を作ったせいで頬が強張った。上手く笑えてないね。

再び訪れた沈黙は、上司のおもろないジョークを聞かされた時みたいに気まずい。


・・・居たたまれない。


引き攣った笑みのまま義兄を伺うも、その瞳は曇っている。不穏さが増しただけだった。どうやら誤魔化すのはよろしくないらしい。


話の方向性を変えたかったが仕方ないと、一歩踏み込んで問う。


「そのようなお言葉。お義兄様の狙いは、何ですの?」


落しどころは、どこだ?







留学中、ファーレン家と良好な関係を築いた義兄。勿論、実力を示しお祖父ちゃんに随分と可愛がられたと聞く。そこに親愛、とまでいかなくても、情があったと思う。

もしかして、心情的な許せなさが加わって、冷静さが欠けた?

国力差を思えば、不条理でも、口にしてはいけないことぐらい、義兄は嫌というほど知っているのに。


「レティは、このまま逃げ隠れを強いられる生活を受け入れるのかい?」


穏やかな口調だが、底に潜む怒りが感じ取れた。

レティエルのために憤っているのだ。それが分かって少しこそばゆい。

でも、その懸念は少々考えすぎだと思う。


「何を仰るの? ファーレンの家名は名乗れませんが、お父様に身分をくださいってお願いすれば・・・」


言い終わる前に首を横に振り否定された。


「レティのことだから、もしやと思っていたのだけれど、やはりか」


新しい身分を得れば、いける。そう思っていた。俺の安直な考えを見透かしていたのか、義兄は肩の力を抜くように軽く息を吐いた。


釘を刺してよかったーーーそんな副音声が聴こえた気がした。ぐぬぬ。



「レティ、君は準王族として長きに渡り過ごしたせいで、悪い意味で大人の悪意に慣れ過ぎている。感覚が麻痺しているのだろうね。失礼な相手に対しても、精々窘める程度で済ましてしまう。まあ、その優しさがレティの長所だけれど」


答えに窮したが、レティエルはいつだって優しい世界の住人だった。

勿論、悪意に慣れたわけじゃない。気付いていないだけ、とは言えない。


「幼少に決まった王子との婚約で、未来の王妃を、皇家の血筋である君は、競い合いを知らずその座を仕留めた。真の意味で政敵と対立し勝負を勝ち抜いていない。別にそれが悪いとは言っていないよ? それが許された立場にいたのだからね。ただ、政敵を貶め、蹴落とし、命を奪い合うのが貴族のやり方だ。なのにレティは苦手で、できれば関わり合いたくない。そう思っているよね」


わお、大正解。


「ええ。流石に命までは求めるのは嫌ですわ」


柔らかく笑う義兄。曇った瞳に光が宿る。


「ふふ、そんな君でも、名誉のために第一王子に立ち向かった話を聞いた時は、胸がすく思いだったね。争いを好まない君が自ら対峙したからね。安心したよ」


・・・えへへ、断イベ、頑張りましたぁ!


ほんわかと褒められて、満更でもないと頬が緩んだ。


「なのに、ジョージリアン当主に対し、不満の声をあげることなく受け流したね」


落胆の声。


あ、上げてから落とす? ひどっ。


「お、お言葉ですが、伯父さまも連座回避で、きっと苦渋の決断をされたと思うの。まあ、冷静に考えるとわたくし達がどうして処罰されなければいけないのか、頭を捻ってしまいますが・・・ええ、本当に。ですが、家門の一大事ですもの。理不尽であっても、わたくしが呑めば済む話ですわ」


腹立つけど。パパンにチクっちゃうからいいのだ。伯父さんはパパンにお灸を据えて貰えばいいです。


「レティは本当に聞き分けが良いね。だが、軽く扱われても平気でいる君をみて、とても心が痛んだよ。感情を隠すのが美徳だとしても、せめて私の前では、気持ちを露わにして欲しい。いいかい、耐え忍ぶのと(心の)痛みに目を背けるのは違う。心配なんだ。心が悲鳴を上げていてもレティは見て見ぬふりをしてしまうのではないかとね」


おおお! 感無量! あの義兄が心の心配するなんて!


「・・・ふふ、お義兄様に、このように慰められるとは思いませんでしたわ。ありがとうございます。ですが、そうですね。自分の心を知るのは自分だけですもの」






義兄のわだかまりが、まさかの、レティエルとの壁だとは。心の距離を指摘されちゃった。

傍にいるのに遠くに感じる。家族だから距離を縮めたい。そう、お願いをされた。


だよねー、兄妹なのに壁を感じちゃうのはヤダよねー。


何でこんな話になったの? って思うでしょ?


義兄は、これから辛い選択を迫られ、残酷な現実を見せられると予想していてね。伯父さんの仕打ちがまだ優しい方だと思えるような危機もあり得ると危惧して、レティエルは大丈夫かと不安に思ったそうだ。


短期間のうちにいろいろな事件に巻き込まれたのに、レティエルの平然ぶりに返って不安になったって。

お気楽な・・・ゴホン、ポジティブなのはいいんだけど、あまりの頓着のなさに、傷つきすぎて逆に心の痛みが感じられないのではと。レティエルのメンタルが心配だと言われてしまった。


気持ちを晒すのは、取り繕った表情で感情を見せない貴族の在り方に反するが、家族の前でもそれでは息苦しい。安らげないだろうと気遣いを見せてくれる。


・・・自分の前だけでも気持ちを露わにして欲しいとは。結構、酔狂なお願いをするね。


加えて、感情の殺し過ぎで心を殺すなと注意された。

成熟した精神だから冷静さを見失っていないだけだとは、言えないよね。


秘密主義な義兄と同じく俺も秘密(前世の記憶)を抱えている。明かすことはない秘密だ。





・・・それにしても、あの義兄から家族の愛情を語られる日がくるとは!

ああ、感無量! この胸の喜びを是非とも誰かと共有したい! 誰もいないけど。


愛らしい妹を演じて苦節十年。プチっと暗殺されないよう義兄の良い妹になろうと必死で頑張った甲斐があったというもの。努力が報われるって、素晴らしい!


感慨に耽る傍らで、クスリと聞き取れるかどうかの小さい笑みを漏らした義兄。その唇が『ふふ、まあ、今はこれでいいでしょう。警戒心を解き入り込む隙を作るには、ね』と微かに動いたのを見逃していた。


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