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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十四章 王が住まう場所

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魔素


『腰の重い王家が漸く魔素の研究に着手したのは喜ばしい』と言葉にしながら目前に迫る邸を鋭い視線で捉えた義兄。今からカチコミするのだ、ちょっとドキドキしながら同じく邸を見る。


単なる視察に邸内の人、あ、お馬ちゃんも、丸っと隠すその発想、ヤバくない? 

そこはかとなく漂う異質さに怪しさを感じ、皆警戒している。


・・・人に言えないヤバい研究とかじゃありませんように。



皇族の使節団ご一行様と公爵夫妻達が今日みたいな大事な日に(急な予定と思われる)何故わざわざライムフォードの研究施設の視察に訪れたのか。予定を聞いた時は皇子達のわがままで皆が振り回されているのかと勘繰ったけど。偶々立ち寄った神殿で、誰かがこの視察に水を差そうとひそかに動いていた。

急いで駆け付けたものの、肝心の邸は邸で無人を装い怪しげな事この上ない状態。偵察に侵入した二人もまた姿を消したのだ。


ーーー視察ご一行様と護衛達の身に何が起こったのか。


このまま無手で臨めば同じ轍を踏む。最悪な結果を避けるためには慎重にならざる負えない。

干渉系に詳しいダルは、隠匿系の魔法陣の使用が濃厚と推察を述べる。立ち寄った神殿の神官が遅効性の睡眠薬を盛った件を考慮すれば、監禁目的ではないかと。わざわざ薬で眠らせるのは命を奪うのが目的ではないだろうとは皆の見解だ。


ちょっとだけホッとした。


だがしかぁーし。黙って手を拱いていたわけではない。ふふ、ここには最終兵器であるレティエルがいるのだ。ふぉふぉふぉ満を持して投入の計画は完璧。隠蔽だか隠密だか知らないけど、ちょろっと術の魔力を吸い取っちゃえば問題ナッシングよ。ぬわっはっは。


「レティ、無茶はダメだよ?」

「あ、はい」


わお、見透かされた?



「魔素が不足した場合、どのような不利益を被るか知っているかな?」


どうやら緊張していると思われたみたいで、気を紛らす話題が魔素に関しての理解度だった。むう、微妙なチョイス。



魔素、魔素ねえ。

ファンタジー世界特有の物質・魔素。イマイチ空想の世界の産物のイメージが強くて。馴染みのなさで、どうしてもピンとこない。あって当たり前、そういう義兄との齟齬は大きい。

『魔法の世界に欠かせないもの』と、まあ、ふんわりだ。



「私達の生活に魔素は不可欠だよ」

「生活に、ですか?」


やっぱりピンとこない。


「食物も魔素が豊富だと味も良くてね。それに栄養価も高い。実際、食べ比べしてみて味の差は歴然だったよね。レティの好きな製菓も魔素が豊富なモノほど美味しさが増すからね」

「え?」

「それにね、魔素の乏しい食物を摂り続けるのは成長阻害や健康被害の報告もあるぐらいだ。専門家は警鐘を鳴らしているよ。嘗て、暴威を振るった疫病に多くの国民が被害に遭ったのもそれが影響したのではと指摘した者もいるぐらいだ。看過できない指摘だと思わないかい」

「え? え? ええ?!」

「食事以外では調合薬に魔道具もだね。効果の違いは回復薬で知っているよね? 魔道具も同じだよ。素材の差が性能の差に繋がるかな」

「え?」

「魔素の恩恵は自然だけではなく私達の生活をもね。ふふ、価値を知る者は魔素の可能性を見逃さなくて、多岐に渡る魔素の研究は盛んだよ。これほど世の中に益を齎しているのにね、国を守る守護神様は魔物を避けて下さってもお恵みを施す気がないらしい。神は手厳しいな」


王国をこき下ろす義兄が手厳しい。 


「勿論、王国の防衛力は特筆すべきことだよ。魔物の襲来の恐れがないのは良い事だ。だけれど安全と引き換えに手放した益は大きいかな」


義兄はわざとらしく『残念だよ』と肩を竦めてみせた。



じゃあ魔素って何? と聞けば、恐らく万物の根源をなす構成要素と考えていいだろう。前世でいうところの元素にあたる。この世界で生きていくのに魔素が大事なのはわかった。わかったけど。


魔素が豊富だと、食事が美味しくなる。農作業でなら、その恩恵が顕著に表れる。花弁も立派で実も大きく濃厚な味。雨風にも害虫にも強い。根張りが良いから収穫量が増え、品質も良し。果樹なら強い甘みの実がたわわ。だと、こりゃたまらん。ビバ魔素! 

薬草だって効能に差があると聞けば、栽培法を研究するよね。


魔素と魔力の因果関係はわかんないけど、外せない、いや外しちゃいけないのは、美味しい食べ物に魔素が必要不可欠ってこと。ふーん、魔素は栄養素?


健康に生きていくうえで、栄養素って必要不可欠だよね。それぐらいなら知っている。確か、必須栄養素? ビタミンとミネラル、それとアミノ酸だっけ。えーと、ほとんど体内で生産出来ないから食物とかから摂取するんだよね。魔素を栄養素の括りにすれば、なるほど、摂取は食事からが基本。


ふむふむ。生命維持?健康維持に魔素が貢献しているのか。

魔力のある生き物は外部から魔素を取り込むことで生命活動に必要なエネルギーを作ってる。代謝だね。

普通の食事で補えない理由は、この世界が生き物に魔力が備わっているからか。


成程。認識が甘かったのだと痛感した。




だったらどうして王国は魔素に関する教育をしないのだろう。

それに魔力保持者に対して当たりはきついし。大抵は魔力があることを隠すし。対立を煽ってる場合じゃないのに。うぅーん、やっぱり何か変だな。


外部からの侵入を防ぎ、でも内部の魔素も減少するって、何だかまるで魔素を使って結界を張ったみたい。はは、まさかね。


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