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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十四章 王が住まう場所
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想いをー⓶


ちょっと、面映ゆい。


小っ恥ずかしくなる義兄の想いを聞き、レティエルに寄り添おうと真摯に向き合ってくれるその姿に、ほろり。一時(ヒロインwwwの出現で義兄も脳みそイカレてレティエルを断罪するかと)疑ったが、変わらずしっかりと見ていてくれたのだ。感慨深くて、涙で袖を濡らしそうだ。およよ。


そう言えば、義兄の視線に変化が生じたと気付いたのはいつだっけ?

ふと見せる眼差しが、妹と言うよりも・・・。

そう、あの眼差しは、どちらかといえば・・・。


・・・保護者だ。


そうそう。アレはオカン! オカン目線! 

偶にスパダリに擬態するけど、実態はオカン。立派なオカン属性を持っている。世話を焼かれる俺が言うのだ。間違いはない。





うんうん、あの義兄がねぇ~、万感胸に迫るよ。


思い起こすこと十二年前。義兄が公爵家に引き取られ、初めて顔合わせをした時。

『ティの欲しがっていた兄を連れてきたぞ。丁度良いのがいたので引き取ったが、気に入れなければ取り換える。無口だが利口な子だ』親父は犬猫の子を拾ったみたいな言い方で、義兄を紹介してくれた。


・・・くそおやじめ。


目を合わそうにも微妙に合わない。避けられたのではなく虚ろ。そこはかとなく漂う闇堕ちの気配に戦慄した。齢八歳でこれだ。

未来のイケメン公爵次期当主が約束された美少年な八歳児。だが、惜しいかな『死んだ魚の目をした蝋人形。無表情はデフォ』が当時の義兄。感情を他人に気取られないよう貴族は教育されるとはいえ、これは違う。既に感情が死んでいた。齢八歳なのに。


この日から俺は義兄と仲良し兄妹を目指すべく、奮闘したのだ。将来、ぷちっと潰されないために。

うん、頑張った。兎に角、頑張った。妹に様呼びする兄がどこにいる? 敬語で話すか? よし、先ずは愛称呼びからだ。

ティ呼びは両親やお祖父ちゃん。同じはちょっと、と遠慮しまくる義兄に『レティ』と呼べと強要した。勿論、レティエルは妹らしく『らむにいさま』一択。上目遣いは狙ってだ。どうだかわゆかろう。暇さえあれば「らむにいさま、らむにいさま」と雛鳥よろしく義兄の後ろを付いて回った。


・・・『あざとい五歳児レティエル』って言わないで。


笑わない、喋らない、泣かない、怒らない。感情をどっかに落っことした義兄が、唯一、感情を揺らしたのが、魔道具。正確に言えば魔道具に刻印された魔法陣。にたりと仄暗い目で微妙に口角を上げていた。ちょっと怖い八歳児。


忘れもしないあの日。俺のベットの中に毒々しい紫色のキングサイズのクワガタが紛れ込んでいた。何故か俺付きの侍女や護衛が、見て見ぬ振りをした不思議な出来事だった。そういえば、彼らの姿をあの日以降見てないや。


初めてこの世界で昆虫を見た俺は、キャッキャとはしゃいだ。義兄も子供だ。これならきっとはしゃぐだろうと期待で胸を躍らせた。取敢えず小学生男児のアイドル・クワガタを鷲掴み(手が小っちゃいから両手で)意気揚々と『らむにいさま! 見て! くわがたです!』とドヤァしたっけ。


俺的には、普段会話が成立しない義兄でもこれなら『大好きな昆虫は?』『あ、私は・・・』と会話のキャッチボールが可能だと。あまつさえ無邪気な八歳児の姿が見れるだろうと確信していた。勝利は我の手に!

だが、肝心の当人は無反応。何ともノリの悪い八歳児に俺は涙した。こいつ実は見た目は小学生、中身は大人なアレなんじゃないかと疑ったほどだ。

まじまじと俺とクワガタを見比べた義兄は、何事もなかった素振りで本棚にあった魔物討伐全集十五巻を取り出しページをペラペラ。スンとした顔で『レティ、くわがたが何かは知りませんが、それはくわがたとは言いません。毒を持つ魔蟲ゾゾットです。内歯の毒は猛毒で、噛まれると苦しみながら死にます。王国にはいない魔蟲なのに、レティが手にしているのはおかしいです。あと、淑女は魔蟲を、蟲を手で掴んではいけません』猛毒の魔蟲を目にしても冷静に、そして的確な指摘を行なった。子供らしくない八歳児に完敗し、こいつを子ども扱いしてはいけないと悟った日であった。


・・・ああ、本当に、懐かしい。




「レティ? どうかした?」


少しの間、結界の外に出ていた義兄が馬車の中に戻ってきた。回顧でしょっぱい気分を味わっていた俺に、不思議そうに声を掛ける。用は済んだらしい。



邸を目前にしてまだ話は終わらない。

父親(王国)母親(帝国)のどちらかを選べと。親権争いの夫婦のセリフみたいなことを言う。


・・・プレッシャーが。


母親というか帝国を選べば問答無用でお祖父ちゃんの指揮下に。ファーレン家のために泥を被るお祖父ちゃんだ。親父への情けは・・・期待薄いな。利用価値があるとしても娘と孫の対応を間違えた王族への憤りで目を曇らすかもしれない。私情を挟むとは思えないが否定できないのが辛い。





「お義兄様は、どうなさるの?」


義兄の意向は、指針だね。

兎に角よく胸三寸に納める人だ。僅かでもいい。計画の一端でもいいから教えて欲しい。知らずに義兄の邪魔をしたとして『ぷちっ!』されたくないのだ。


「私? 私は、レティを守るのが役目だからね。ふふ、ずっとずっと傍にいるのを許してくれる?」

「へ? え、でもお義兄様はお父様がお認めになられた公爵家の跡取りですのよ」


その気持ちは嬉しいけど『ずっとは無理でしょ?』の言葉を口にするのが憚れる。傍にいてくれるのならこれほど心強い用心棒はいない。だが、忠義心があるのか疑わしい義兄であっても、親父には絶対服従。裏切りはない。多分。恩義を感じて、と思いたい。弱み握られてるとかは止めてね。この恨み晴らさでおくべきかは勘弁。


それに、公爵家に通な、戦略にも明るい義兄を本当の意味で放逐するとは思えない。公爵令息でありながら職人でもあり商売人のマルチな人だ。手放すのは正に愚の骨頂。



思考を見透かしたのか、寂し気な眼差しで訴えるという姑息さで。


「レティは、私と一緒なのは嫌? 私達は義理であっても兄妹、今まで支えあってきたと私は思っていたのだけれど・・・私の独りよがりだったのかな?」


うぐっ、痛いとこ突いてきたね。


「や、ですわお義兄様! わたくしたちは仲良しの兄妹です! そこは違いません! で、でも」

「レティは私が傍にいなくても、平気? 君の大好物なスイーツも、面白い魔道具も、ああ、これからは、魔法術をいろいろ教えて上げれるのに。レティは魔法術が使えるようになりたいのでしょ? それでも?」


のおおお! 今度はそう来たか! くうぅ! ぼ、煩悩がグラグラ揺さぶられる!


こ、困る困る。くっ、困るのは俺だけじゃん! 

空間収納(財布型)を持つ義兄えもんを手放すのか? 前世のパクリ商品の再現も、便利グッズ(魔道具)もホイホイ作ってもらえないの? ああ、それよりも、スイーツ! 小腹がすいたらサッと手渡してくれる有能さ。あれも、なくなる? ダ、ダメダメダメ! 絶対ダメ!


煩悩と葛藤中の俺は、余裕がない。横で不敵にも『あともう一押しか』と眈々な義兄に、全く気が付かなかった。


「レティ専用の空を飛ぶ魔道具、作れなくなってしまうね」

「お義兄様、ずっと一緒ですわ!」



妹となって十二年。初めて見たな義兄の屈託のない笑顔。無垢な喜びを見せた義兄がそこにいた。






・・・・・・。


むう。どうやら人生最大のミスを犯したかもしれない。おかしいな、物事は熟慮断行を常とするのに。どうにもコロコロと手の平で転がされた感が拭えない。


「お義兄様、邸に向かう前に調査報告の内容を教えてくださいな」

「ファーレン家の調査報告と、義父上が王弟の一件を傍観される理由も話しておこうか」

「え? お父様? 事件と関りは・・・ああ、お義兄様のはあくまでも未遂事件と罪状の軽減を願い出れますものね。そうなさらない理由を、是非ともお聞かせくださいな」


両親と同窓の友という割にドライな関係だったような? 悪評が付きまとうジオルドなんて、ライラの一件がなければ接点なんて生じなかったと思う。

俺的には面倒見のいいイケオジだったんだけど、両親の反応を見る限り違ったか。


「先程の話にも関わるからね。王弟の事件で私は亡き者とされたでしょ? 死亡届は受理されその時点で後継から外されたよ」


親父の傍観とは、すなわちジオルドの冤罪(義兄暗殺)を見て見ぬふりを決め込んだことでもある。他にはジオルドと義兄を邪魔に思った人物が、もしくは、公爵家の勢いを削ぐために養子の義兄をグサッとやっちゃった。跡取り不在の公爵家。後釜狙いの親族や寄子貴族が蠢くのを傍観しているのが、パパンなの。

義兄の立場も公爵家の信用も揺らがせた事件を利用し、レティエルの代に不義理や不択手段に慣れ切った貴族はお呼びでないと炙り出し中。クリーンな領政を目指してるとか。


「そ、それは嘘も方便でしょ? 後継はお義兄様です。お父様だって今はあれだけど、落ち着けば必ずお義兄様を指名なさるわ」


「私は義父上に従うだけだからね。そんなことより話を続けるよ? 義父上は王家を疑っている。私は陛下や公爵家達も怪しいと思うのだけれど、血の盟約が彼らの潔白を証明しているからね。義父上も悩まれている。私が狙われたのは公爵家の力を削ぎたいがためだと、これは義父上も同意見でね。内密に調査を行なってはいるが、まだだね」

「結局まだわからないのね」


親父も義兄も犯人像は陛下に近しい者と考えているのか。


「お義兄様が狙われたのは、我が家の弱体化を狙ってなの?」


魔道具技師として、商会の経営者としも。兎に角、多方面に影響がでるよ? 本人いるから暗殺とか言われてもピンとこなかったけど。


「ふふ、まあ公爵家は損害賠償問題に発展するかな? 下手すれば帝国との関係悪化で経済制裁? 売り渋りや増税、交易への影響は大きいだろうね。帝国高位貴族籍を持ち、皇帝お気に入りの魔道具技師。市場経済を牽引する商会長と評判もある私が、理不尽に殺されたとなれば。帝国は利用するだろうね。しかも殺人依頼者は王弟だよ? 帝国貴族誘拐や人身売買に関与した王弟はその身柄を帝国が引き渡しを求めている。ふふ、怪しいね? とはいえジョージリアン当主(ファーレン現当主)が主要各所に連絡を取って下さったので問題はないよ?」 


ホッ。良かったーありがとー伯父さん!


実は社会的にも『触れるな危険』人物だった義兄。


・・・うむむ、これ、どう考えても義兄の方が帝国に移住すべきだよね? はっきり言って活躍の場が違う。帝国では名声が大きい。表舞台で活躍してるよね? 王国では、次期当主って肩書はあるけど、実際は親父の部下だもの。ほぼ裏方。陛下とか公爵達一部の貴族は義兄の凄さを知っているみたいだけどね。あ、そっか。だから義兄を排斥したいわけか。


「お義兄様の方が狙われますわよ。護衛は増やせないの?」

「残念だけれど、私達に近付く者を信用してはいけないよ? わかるでしょ?」

「・・・でしたねぇ」

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