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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十四章 王が住まう場所

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思わぬ事実


ミリアの衝撃的な告白で知った事実。


敵は本能寺、じゃなくてファーレン本家にあり。なあんてね。半分本気だけど。


あ、ミリアが嘘告してるかも。という心配はない。まだ義兄作の契約魔法が効いているからね。

当人はこれで信が得られるならって享受してたよ。うん、甘受じゃないよね? 

まあ、神にじゃないけど、自分の命を賭して守りたい主君に告解したのだ。その気持ちは素直に受け取った。彼女の処遇は、諸事情により保留にした。ほら、酌量の余地あるでしょ? 被害者だし。護衛の人手が足りない現状と、何より俺のメンタルが居たたまれないから。


だって、第一夫人+息子って、親戚だよ。めちゃくちゃ罪悪感あるわ! 

うぅぅ、この件は取敢えず棚上げな。






はぁ、事態は思わぬ方向へ。

はっきり言って、いっぱいいっぱい。そして声を大にして叫びたい。


どうしてこうなったーーー!!






ファーレン家当主の正妻ポジである第一夫人と付属品の息子。あ、こいつ、次期当主ね。その夫人が悪評高い第七側妃と懇意だとか。叩けばもうもうと埃の出る体に違いない。


ヤバいよね。伯父さんの奥さん+息子。

奥さん、がっつり関係者っぽいし。どう、落とし前つけるんだろね? 

あ、そういえばお祖父ちゃんが言ってたっけ。『当主(伯父さん)が側妃のお仲間を一網打尽に』だっけ?



顔がクエスチョンークを描いたのを見逃さない義兄が、それはそれは黒い笑みをにっこり浮かべ、恐ろしい口上を述べた。


「ああ、レティ心配しないで。皇帝もファーレン家の凋落を望んでいないよ。現にタッカーソン家の事業を統合させたでしょ? ふふ、第一夫人と嫡男は、急な病で療養を余儀なくされ、頃合いを見て病死が妥当かな」


ひょ! あ、ありうる。なんたって禁術に関与してるわけだし。


「現当主は、ふふ、まあ、首輪を着けられ監視が厳しくなるだろうから。良かったのかどうか判断が難しいかな。クク、皇帝の外戚であった優越性も失い。当主としては監督不行き届きと、針の寧ろだろうね。過去の功績があったお陰で取り潰しは免れたけれど、それでも、お義祖父様は第四皇子・第二皇女の後始末のために王国へ。現当主はその実母の討伐を命じられたよね。成功すれば華々しい功績に見えるけれど、それは大きな間違いだよ。事情がどうであれ皇族に手を掛ける行為を、軍所属でもない現当主や引退されたお義祖父様がなさるのはおかしい。現当主と前当主を同時に駆り出すのも、ファーレン公爵家を軽んじた采配だよ。それに、武神と誉れ高いお義祖父様が戦闘訓練もされていない皇族を討つなどと、汚れ仕事を押し付けられたからね。お義祖父様も屈辱だったと思う。・・・恐らく義母上も同様、何らかの汚れ仕事を押し付けられた可能性も考えられるかな」


「え、まさかそのような侮辱を」

「!!」


ミリアは初耳だからか、絶句していた。

俺も考えが及んでいなかったため、聞いてはいたがかなりの衝撃だった。

そうだった。王国とは挙兵の在り方が違う。両国を良く知る義兄の意見は恐らく間違ってはいないだろう。


武人であり嘗て将軍を務めたお祖父ちゃんが、他国で、しかも使節団を隠れ蓑にして、自国の年若い殿下方を騙し討ちにするわけだ。俺の脳裏に『特攻』の言葉がちらり。慌てて薙ぎ払う。


卑怯な手口を強いられるのか。お祖父ちゃん的には、かなりの屈辱だってことは武人でない俺でも痛いほどわかる。名誉も矜持も傷つけられ、それでも家門を守りたい。お祖父ちゃんの追い詰められた立場を初めて理解した。


まさかこんなことになってるだなんて、マジでヤバい状況だよね?!


「政敵が降って湧いた機会を逃すことはないよ。此度の原因を作ったのがファーレン家だからね。汚名返上の機会を与えられただけでも感謝すべき事柄だけれど。流石に一歩間違えれば開戦の危険性があると思うとね。お義祖父様も水面下で動く軍の動向を気になさるのも納得かな」

「・・・とんでもなく危ない綱渡りを強いられているのね。お祖父様を止めないと」


うぐぐぐ、自業自得といえなくもない。


ミリアは複雑な表情で俯き、両手を握り締めていた。

それでもまだ冷静な義兄は、熱を感じさせない声音で淡々と現実を突きつけるのを止めない。


「例え皇帝の許しを得たとしても帝国貴族は一枚岩ではないのが痛いね。政権を狙う者はいつの世も暗躍を恐れない。皇帝もおいそれと身内を庇ってしまえば、自分の首を自分で絞めることになるからね」

「悔しいですが、そうなりますね。はぁ、お母様やお祖父様はどうなるのでしょう」


表情を取り繕ったままの義兄。困ってる顔だわ。答え難い問いかけしちゃって、ごめん。


「全貌が見えていない今は、策の立てようがないかな、悔しいけれどね。先ずは義父上を助けだそう」

「はい、お義兄様」


意を決したミリアも。


「若様、お嬢様、必ずやお守り致します」

「ありがとうミリア。お願いね」







・・・はぁ、まさかの展開。

こうなると悠長にレティエル再出発計画(魔女っ娘デビュー)を掲げるわけにはいかないな。


はぁ、折角、帝国学園で華々しく魔女っ娘デビューを決めようと思ってたのに。人生ままならないね。

後ろ盾となるファーレン家の威光は期待できない。心証を悪くしたであろう一家だ、皇帝の庇護も当てにできない。


くうぅ。ただでさえ弱小王国の小娘。高位貴族のご令嬢であっても瑕疵の付いた身。逆境すぎる。





真面目な話。レティエルの今後が掛かっている。

安全と将来を見据え帝国行を決断したのに。マジで人生の立往生を、いやホント、現在進行形で立ち往生してるからね。


断罪イベ乗り越えたから、もう大丈夫だと思ったのに・・・。





「レティ、泥船に乗船する必要はないからね? 魔法術は私が教えるよ」


計画の見直しと心のメモに書き書きしていたら、思いつめていたように思われたのか、めちゃくちゃ気遣われた。何かごめん。


「・・・現当主は恐らく、レティの存在と、魔道具技師としての私の名声を当てにするだろうね。このままファーレン家との養子縁組を続けるのも差し障りが出ると思うよ」

「へ? え? ・・・あ! そうですわね! これは宜しくない未来が視えますわ!」


義兄のご指摘はご尤も。

寄り掛る大樹が、根幹を揺さぶられた今、レティエルと義兄の存在は回生の劇薬となるだろう。

だが同時に毒薬でもある。処方薬である俺達次第という危なっかしい橋を渡る気とは。


既に魔道具技師として名声を得た義兄。方や、魔力も能力もいまいちわからないお嬢様。しかも婚活に失敗した。母親と父親は国を挟んでの別居生活。第三者はレティエルの評価に悩むだろう。


・・・。

王国の王子如きに舐めた真似されちゃったし。

・・・。

華麗に帝国デビューも、見る人が違えば、逃げてきた負け犬。

・・・。

ちょっと、針の筵?かも。



今になって、ちょこっと分かったことがある。

お祖父ちゃんの部下であるガザに言われた『レティエルの実力を見せろ』(意訳)の言葉。ずっと頭の隅っこに・・・忘れてないよ? ちょっと記憶の底の底に埋もれてただけだし。今思い出したから問題ないって。うん。

もしかしたらと勘繰っちゃう。あの発言はファーレンの未来(さき)を見据えた意見だったのかもと。

まあでも、実力主義の家系だし、分家もこの主義を踏襲してる。ファーレンの名折れと馬鹿にされないための助言とも言えるか。


レティエルの実績って・・・なくはない。あるのだ。ただね、立場上、公にしてないの。商会を立ち上げたのだって、俺の欲しいモノが売れると踏んだ伯父さんが義兄と共同で商品化に。販促は母さんも協力してくれていた。伯父さんとは協力関係だったのだ・・・。




貴族には守るべきものが多すぎる。上位者ほど背負うものが多い。権力、名誉、爵位、面子だって。それに寄子貴族や領地に領民・・・数え上げれば枚挙に遑がない。

そのための政略結婚や寝返りは当たり前。貴族は守るべきもののために、何かを犠牲にする。


うん、何が言いたいかって? 


レティエルの肩に乗っかる責任をね、身分をね、今一度考えろってこと。

俺の進退は、前に(帝国)進もうが後ろに(王国)戻ろうが、前途多難だって話。


皇族の血が入った公爵家に汚点を落としたの、母さんもだけど。レティエルもだ。

うん、めっちゃ申し訳ないね。お祖父ちゃんや伯父さん、義兄が盛り返した努力を、女性陣が貶めたわけだし。改まって、冷静に考えると、酷い話だよ。・・・土下座して謝りたい。



・・・いや、待てよ。そういえば、義兄って皇帝からのスカウト、蹴ってね? 



思わず狭い車中にも拘らず、義兄を二度見しちゃった。

当人、『ん? 何か?』って顔で、おすましさんなの。


くぅっ、羨ましいその凶メンタル!








「見えてきましたね。ダル、このまま敷地内に入りなさい」

「いよいよですね、お義兄様」

「若様とお嬢様を命を賭してお守り致します」


俺達は馬車で移動中も話を続けていた。

結局、立ち行かないのならと、敢えて行動に出ることに。

何よりおっさん神官が一服盛った件もあるからね。猶予がないとみて強硬手段?を選ぶのよ。


レティエルの吸引があれば、魔法術は、結果的に無効化になっちゃうもんね。ふっふっふ。無双しちゃう? 陰鬱な気分を味わっちゃったハライセ・・・ゴホン、俺の見せ場だよね? 片っ端に吸うぞ。


俺のやる気を嗅ぎ取った義兄は、魔法術の魔力を吸うことは許可を出すが内部に侵入はダメだと譲らない。顔バレで困るのレティだよ、と冷静なツッコミをされると、お手上げです。義兄とお留守番が決定したよ。くぅぅ。




「ねえ、レティ。成り済ましを企てたライラも義父上と一緒だと思うけれど、レティはアレを赦すのかな?」


未だ、引っ掛かりを覚えるのか義兄は会話を続ける気だ。

何? 珍しいよね。


「お義兄様、わたくしは無事でしたのよ。・・・最終的にはお父様のご判断でしょうが、わたくしとしましては、助命をお願いしますわ」

「そう・・・。レティ、ライラも第一夫人の差し金だそうだ。記憶の欠落が多くて取り調べが難航していたのが、先日、第一夫人との関りを思い出したらしい。生憎、事件の全貌を知らされていないのか、忘れたのか、肝心の計画の内容は分かっていない。無論、クレアの事も。エリックと組んだのはグレインの案でどちらから声を掛けたのかライラは知らない。彼らは付け焼刃な共犯関係で、黒幕は別だと義父上はお考えだよ。・・・ライラの生殺与奪権は義父上にある。レティに報復の意がないのであれば、無視すればいい。・・・だが、第一夫人の関与は歴然だからね」


え?! は?! クレアとエリックのバックは違うのは聞いていたけど、第一夫人、何考えてんの?!

彼女のせいでグレインは死んだの? ファーレン家も。それにミリアだって・・・。


ムカムカ。

新事実に、怒りが込み上がってきて、カーっと頭に血が上る。

溜まっていた憤りが、感情に蓋をしていたのが、堪えれないと足掻きだした。


ざらつく感情に触発された魔力が、体内の魔力がうねりを上げぐるぐると体中を駆け巡る。行き場を求めた魔力・・・なのか感情なのかーーーーこれは発露だ。


パチパチ、バチバチ。


「! レティ、魔力を抑えなさい。ほら、落ち着いてゆっくりと息を吐いて・・・そう、上手だね。もう一度、ゆっくり吸って・・・吐いて、・・・どう? 落ち着いた? はぁ、・・・レティ、お茶を飲もうか」


懐から、マイボトルを取り出す義兄。中身はリラックス効果のあるハーブティ。なにこのスパダリ感。


「お。お嬢様・・・」


対面のミリアが真っ青な顔色で震え上がっていた。うわぁ! ご、ごめん?


どうやらムカついた俺の魔力が、感情と共にちょこっと漏れちゃったらしい。

俺的には静電気の感覚だったのに。


・・・シッパイシッパイ。どうせなら本人に・・・あはは。




「落ち着いた? 実は、憶測を語るのは良くないと話さなかったのだけれど。レティが自分の価値に無頓着に思えてしまって。老婆心ながら、あの夫人が考えそうなことを参考までに話そうかと思う。・・・ねぇ、レティは落ち着いて話を聞ける? あくまでも仮定の話で確証もない。でもね、レティの価値を思えばあり得る話なんだ。・・・怒らないで聞いてくれるかい?」


低姿勢。

めちゃくちゃ気を遣われてる?!


・・・これ、俺の危機感の足りなさを心配して? ってことでいいの?

誘拐事件のことを指して? それともライラに報復しないから? 養子縁組を拒否しなかったから?

・・・ああ、そうじゃない。もっと根本的な話なんだ。きっと。





「え・・・と、はい。落ち着きましたわ。お義兄様、これ美味しい」


鎮静効果のある薬草から抽出されたエキスたっぷり。効果ばっちし。頭が冷えたよ。


さて、気を取り直して。

悪巧みに長けた義兄ならではのご意見。拝聴します! 


ばっちこーい!


長いです。

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