質の悪い酔っ払い
『侵入経路の確保と周辺の索敵を。緊急に限り戦闘は許可しますが不殺を徹底させなさい』
条件が悪くとも受諾させるこのごり押し。やっぱり義兄は頼もしい。強いられる彼らは、何だけどさ。ふふ、ありがたい感謝の気持ちが、お腹いっぱ・・・ん? 何この満腹感。それにポカポカしてきた。
体の芯からほかほかと、体温を上昇させてるのがわかる。
わお、顔も火照っててる? あ~頭もポオ~と・・・あ、お酒飲んだら、こうなるね。
朧気に在りし日の、高い酒を笑顔で勧めるキレイなお姉ちゃんとの黒歴史が脳内で過った。くぅぅ
「レティ? どうかした? あ、顔が赤いね」
「熱でもあるのでしょうか? やはりどこかお加減が悪いのにご無理なさったのでしょう。間もなく神殿に到着しますので、暫くご辛抱下さい。あちらで休ませて頂きましょう」
どうやらダラダラと流れた黒歴史の記憶が。羞恥心からか体温の上昇でかわかんないけど。真っ赤っかになったお顔を案じられたみたい。
・・・だがしかーし、正気でいられたのはここまでだった。
おふぅ~~
「レティ? 気分はどう?」
「うふふふ~~~ふわっふわっするぅ~~」
「え?」
「・・・若様、これ魔力酔いの症状ではありませんか?」
「むうぅーーー。らいおねるめぇ、よってないですぅー」
「あー、はいはい。酔っ払いはそう言いますね。・・・いえいえそうではなくてですね、お嬢様。体内魔力量が一気に増えると過剰反応を引き起こすのです。それが、お酒を飲まれたような状態に。魔力酔いと称すのです。お嬢様は魔r「むふーーーのんでないもーん」・・・血液の魔力が飽和「のんでませーん しらふですぅぅ」・・・はいはい。お酒飲まれていませんね」
「むふーわかればよろすぃー ひっく」
「・・・ライオネル、お前には契約魔法を使いますが、理由はわかっていますね?」
「は、はい。回復薬の比ではない魔力の増加だと思われます。それに、新作のお菓子としては、いつもお嬢様が口になさる物よりも効果が著しいではありませんか。帝国にも、ましてや王国にもない増幅剤を若様はお作りになられたと愚考致しました」
「ふふ、魔素を多く含む食材で作らせたお菓子と、多少製法を変えさせました」
「ふふふ~おかあーしぃー、たべたあーい~」
「・・・レティ、後でね」
「そうでしたか。・・・あのお菓子は魔素が多く含まれた素材で作られただけあって、この国では欠かせません。我らも王都で人気商品と聞いております。お陰で生産が追い付かないと伺っていましたが、あのキャンディーはその代わりにでしょうか?」
「ファーレン家にもっと努力をして頂くしかありませんね」
「うぃーーー もっとぉ~もってこーい~~」
「うわあ、完全に出来上がってますね・・・」
「あれは個人向けに調合したもので万人向けとは違います。さて、聡いのはお前の利点ですが、要らぬ好奇心は身を滅ぼすと理解していますね? なら宜しい。それにしても、お菓子の過剰摂取で魔力酔いを起こすとは思いませんでした。これは見誤った私の失態です。兎に角、魔力を消費させて落ち着かせましょう」
「まりょおく~しょうひぃ~? うぃ~いまならあ~かめはめぇ~うてるぅ~かもお~~」
「・・・レティ?」
「うっ、何か物騒な、いえ、何ですかその『かめはめぇ~うてるぅ』は。え? お嬢様? 何故両手を構えて? 手に魔力が集まっているのはどうしてでしょうか。あー、手、バチバチ言ってますよ? ・・・私の見間違いだと宜しいのですが、その照準、私になっていませんか? ・・・わ、若様! お嬢様がとんでもないことになってますよ!! え、若様、好奇心溢れる目で見つめてないでどうにかしてください! 狙われてるの、私です!」
「ふふ~~ うっちゃうー? うっちゃうー?」
「は?! うっちゃうって何ですか?! いや何だっていい、それ、駄目なやつでしょ?! お嬢様、手を、手を下ろしましょう!」
「・・・ライオネル落ち着きなさい。触媒もなく、詠唱もしないでお前に魔力攻撃が及ぶことはありません。そもそもレティの能力は吸引ですよ。多少、魔力を吸い取られる程度です。落ち着きなさい。吸引は接触しないとでき・・・ふむ、タガが外れた状態を知るには丁度良いですね。至近距離はどの程度まで可能か試してみるのもいいでしょう。・・・ですが、詠唱を知らないレティは魔力に指向性をどう持たせるのでしょうか? ふむ、興味深いですね」
「若様ー! 研究は別の時にお願いします!」
「はぁ、仕方ありません。レティ、ライオネルに向けるのは止めなさい。勿論、私にもですよ?」
「うぃ~っすぅ」
コンコン。
「神殿に到着しました。神官がご挨拶に・・・はっ? 何をなさ「ダ、ダル、どけー!」え?」
「かめぇ~~か~め~えぇ~、ういっく、は・・・くちゅん」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチィィィィィーーーーー!!!
「ギャッーー!!」