表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十四章 王が住まう場所
259/284

選択ー②


「お母様はお父様よりもグレインの敵討ちを優先なさるのかしら? このことが露呈してはお父様のお立場が悪くなりますわ。それでもお母様は・・・」


親父ぃー、奥さんに愛想尽かされちゃったのぉぉーー? もぉー、何やってんのさーダメじゃーん。

はぁ、ただでさえ世間は別居を不仲説のネタにされてんのにぃ、どーすんのさー。母さーん、不甲斐ない親父ですんませーん。だから親父を見捨てないでーーー。


胸に秘めた両親への想い。俺の本音だ。



返す言葉を選んでいるのか逡巡させて義兄は視線を天井に向けた。

うん、そんなことすると天井に人が潜んでいるのかって思っちゃうよ? つい釣られて見ちゃった。

ほら、ジェフリーも上を見たぞ? え・・・誰もいない・・よね?



「レティ、残念なことに公爵家はクレアに直接手が出せなくてね」

「え?」

「諸事情からお義祖父様にお譲りした事案に手を出せば両家の間に蟠りが出来てしまう。信用問題に係るからね。おまけに軍の介入となると公爵家は手を引かざる負えない。帝国と軋轢を生じさせてはファーレン家と縁付いた意味がないからね。因みに、お義祖父様は『元軍人の誼で捜索に協力』と体裁を取り繕って捜索させていたって」


え? いつ知ったのそんな話。あ、クリスフォードの邸でか。

お祖父ちゃんからいろいろ聞きだしてたのか。


「だからお父様はクレアの捜索を命じなかったのね。わたくし、グレインもクレアも帝国人だからお祖父様が動かれたと思ってましたわ。ですが、軍が理由でお父様が手を引かれたとは思いませんでしたわ」


だよねー、軍がしゃしゃり出たんじゃ、親父も引くしかないかー。


「ファーレン家が請負ったのも丁度良いと義母上に任せられたのだと思う。グレインを想う義母上の心情を慮り直接クレアと対峙する機会を与えられたのかも知れない。だけれど義父上には他意があったと思うよ。私怨だけで危険を承知で協力はしないかな。ふふ、替え玉まで事前に用意なさるとは。義父上はどこまで読んでいらっしゃるのか」


・・・え? 


「お義兄様? どういうことですの?」

「義父上は了承されているよ。今回は意外に渡りに船だったのかもね。このまま何もせずにクレアの身柄が軍に渡れば、彼女の動機も背後関係も、与した悪事も、彼女に関わる全てを握り潰される。これでは折角の計画が無駄になってしまうからね」


・・・はて? 


「計画? それは一体」


にやりと黒い笑顔を見せられた。ひょー。


「クレアをここまで泳がせたのは仲間のエリックと連なる者を炙り出すためでね。それにしても横から掠め取られるのは割に合わないし腹立たしいな。何か意趣返しできれば・・・」


うわぉ、本音だだ漏れ。

いやそれよりも。そうか、あいつら泳がせてたのか。なるほど腑に落ちたわ。


「ま、まあ、お父様が良いのでしたら何も言いませんわ。それにしても考えすぎ・・・いえ、そうですわね。お父様は私情で動かれませんものね。きっとお考えが・・・」


あったんだね・・・。


うん、何考えてるのか、まったくわかんないわ。

義兄って親父の思考をトレースしたかのように理解してるよね?

何この差。義兄の方がレティエルと違って親父に似てるよね? 

この似た者親子め。






『暗号文の内容は正しい』を前提に謎を詳らかにしよう。


ちょこっとミステリー風味にしました。はい、ごめんなさい。

遊んでないよ? 至って真面目だし。ゆっくりする時間がないのは重々理解してる。でも二人のうちどちらを優先していいのかまだ悩んでんの。


いろいろ考えちゃう。



取り合えず暗号に注目した。

内容もさることながら証拠(暗号文)を掩蔽してまで残したのをね。意味深でしょ?


しかしどうして掩蔽まで・・・そこまで慎重だなんて。やっぱり母さんは自分が戻れないとわかっていた? いや、まだそうとは限らないって。単に保険のつもりで置いただけかも。

すっきりしない頭で考えてもでてくるのはネガティブさ。これじゃあ判断が鈍っちゃう。


不安の面持ちのままだと義兄を心配させるよね。それだと過保護になっちゃう。

気持ちを切り替えようと頭を振ると視界に得意満面なジェフリーが映った。

そういえば、こいつ『俺だから見つけられましたよ~。俺でないと~無理でしたね~、凄いでしょ~。』とウザ絡みしやがったな。



『この暗号は誰に宛たものか』

『クレアの名を記したのは』

『血文字と魔道具を掩蔽してまで残したのは』


「仮定の話をしようか。義母上の身に何かが起こったと想定してあの暗号が残されたとしたら? 一見すれば単なる汚れたハンカチ。いや悪戯書きか。勿論、私達の行動を知らない前提でね」


最悪を想定したメッセージの可能性を示唆された。


知るぞ知る人でなければ理解できない謎ハンカチ。

それが残されていたらって? 

まさに、ダイイング・メッセージ。しかも血痕つき。

暗号文は義兄を誘き寄せるエサだと見立てた俺に、これは物騒すぎ。やだな血。


このメッセージはお祖父ちゃん向きだと、はっきり言われた。うん、まあ、そう取れなくはないか。でもね、俺にしてみれば義兄も同じ穴の狢だよ。



「義母上がいないとなれば、城を隈なく探すしかない。そこに血文字のハンカチと義母上の魔力を帯びた魔道具が見つかれば? 事件性を疑うよね」


おおー、サスペンスちっくに仕上げたよ、この人。

よく思いつくねー、感心しちゃう。それにしても魔道具って・・・あっ、一号! でも、母さんの魔力を帯びたって、わかるものなの? え? 調べる方法があるんだ。へー。



「人の血で書かれた記号は、ファーレン領主一族が使う暗号と証言するのが」

「あ、王宮には使節団とお祖父様がいらっしゃるわ。お祖父様ならあの暗号を解けるものね」

「そうだよ。口実をまんまと得たお義祖父様は容赦しないだろうね。おまけに義母上は皇帝の姪。必ず真相を解明し犯人を検挙しなければならない。ふふ、それこそ国運を賭けて、ね」


うわあ・・・追い詰める気だ。怖っ。

対応をミスれば戦争に発展しない? 王国大丈夫? 

あ、いや戦争にならなくても王国はかなり帝国に責められるんじゃない?

多分、ごり押しで合同捜査とか、お祖父ちゃんが暴れん坊な将軍さまさまな立ち回りをしそう。



「でも、いくらお祖父様が暗号と言い張ってもそれを真に受けるとは思えませんわ。反論されて両国の関係が悪くなるだけよ。何より間に立たされたお父様の立場が悪くなるだけだわ」


親父の板挟み的な?


「そう、だからこそクレアの名が功を奏する」

「クレア? ああ、暗号にクレアの目撃情報とありましたね。それが?」


まったくわからん。


「思い出して。クレアは帝国を出奔して軍に指名手配されているよね。公爵家の犯行だけでも万死に値するほどの悪行だけれど、王国貴族と手を組み暗躍しているのを見逃すわけにはいかないからね。ふふ、名目上の罪状は如何様にもなるよ。要は、彼女の存在を口実に王国を揺さぶればいい」


うわお、非道。


「え・・・クレアが王国貴族と結託して悪事を行ったとしても、帝国は干渉できませんわ。精々事実の解明か犯人引き渡しの交渉ではありません?」


いや、無理でしょ?


「彼女はエリックと共にレティの誘拐とグレインの死に関与した。それにライラを洗脳し王弟に売りつけた過去もある。王国人と結託して帝国貴族に害したとあれば、誘拐事件と併せても・・・」


あ・・・成程?

にしてもジオルド、ホントに人買いだよね。知ってたけど。



それにしても。


「お母様はクレアを探しに王家の居住区に向かわれたのね。呪いの手がみ・・じゃなくて、暗号にはそう書かれていたのでしょ?」

「義母上の目的がクレアであろうとなかろうと目的は果たされるかな」


合理的な義兄らしいわ。

お祖父ちゃんに、帝国に、口実を与えるためとはいえ何とも厭らしい。


それに、と義兄はエリックの仲間であったライラが母さんに化けて親父の横にいるのも、クレアに洗脳された彼女を救ったのがジオルドとダルであるのも、利用できるとほくそ笑んでた。


うげぇ、どんな悪企み想像したの? ぞわ~としたわ。



・・・ん? 


「そのお話では、お父様はお母様の身に危険が生じるとご承知でお許しになられたのでしょうか。お母様を見捨てたと見なされればファーレン家との仲がこじれてしまいますわ」


ううむ、ここで嫌な予感に繋がるか。


俺が不快感露わにしたので義兄は仮定の話だからと念を押してくる。その上で他の可能性もまだあると話を続けた。



クレアの目撃情報をゲットした母さんが偶然出会った無精者のマリア。ペンを持ち歩かない彼女は指を切ることで血をペンの代わりにした。


うん、呪いの血文字、ここに爆誕。


誰でもいい。マリアに情緒面を教育してあげて。



「ライムフォードが取り仕切る視察に義母上が参加なさらないのは。クレアを理由にしたとしてもらしくないかな。それを義父上がお許しになられたとは。些か不自然だね」


穏やかな顔をしてるがライムフォードは油断のならない相手だそうだ。


「それでもとなれば、断り難い相手からの招待と考えられるね。義母上は王家の居住区を目指していらした。となると招待主は王族。居住区内に立ち入ろうと思えば招待状か許可証が必要だからね。不所持では衛兵に捕まってしまう」

「まさか王族の方が? 今日みたいな日に使節団の接待役を仰せつかったお母様をお呼びになるだなんて。おかしいわ。・・・あ、身代わりの存在をご存じだから今日なの?」



母さんを誘き寄せた人物が王族の線、濃厚。


マジか?!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ