残されたもの
「若~お嬢様~ただいま戻りました~」
漸く、待ち人来りである。
お使いに出ていたジェフリーが戻ってきた。もう、遅いよー。
しかし、行って帰ってくるにしては少々時間かかってない?
・・・おっほぉ・・・もしや迷子に?
広い王宮内をうろうろ間抜け面で彷徨うジェフリーを想像してニヤニヤしたらめっちゃ睨まれた。うへ。
「若~魔道具と、これ。お手紙でーす」
「ジェフ、何ですかこの小汚い・・・これは?」
差し出された手には起動していない一号くんと小汚いハンカチが。
見ればそのハンカチ、赤黒く滴る血文字で何か描かれていた。
「ひゃ!」
ぎゃ?! 血?! 血で書いた呪いのメッセージ?!
これ手紙じゃなくてダイイング・メッセージ的なやつーーー!!
「・・・レティ、これはね、赤いインクだから安心して」
多分、元はハンカチだった汚らしい布には血を連想してしまうぐらい赤黒い色で地図記号みたいな絵が描かれていた。だが、俺の引きつる顔を見た義兄が引きつって謎のダイイング・メッセージを手の中に隠してしまった。うわ~エンガチョ。
「この悪趣味でセンスのなさは間違いなくマリアですね」
『レティを怖がらせるとは言語道断。後でしっかりお仕置きですね』と小声で呟かれた言葉を俺は聞き漏らさない。悪趣味でセンスがないのは同意見だ。マリアめ、しっかりお灸を据えられればいいです。
「お義兄様それは何ですの?」
「ファーレン家の暗号だよ。この暗号を知る者となれば・・・義母上がご一緒か。大方マリアに書かせたのだろうね」
「え?」
暗号? 暗号だって!
うっきゃーーー、リアルスパイーーー!!
おー、めっちゃテンション上がるーーー! 早く解いてよ! 早く早く!
「お義兄様、お義兄様、何が書いてありますの? 早く教えてください」
ソワソワワクワクが止まらない。つい興味津々に食いついた。
「・・・レティ・・・」
諦めた声色を滲ませた義兄から何とも言いようのない視線を浴びせられ、ジェフリーの冷めた視線がビシビシ刺さった。
やだなーちょっと知的好奇心が騒いだだけだよ? いたずらしないって・・・コホン。親父を追いかけるどころじゃないね。
「ふむ・・・見た、女? 侍女、神官、クレ? 行く? はぁ、まったく・・・・」
呪いのメッセージを読む姿が様になっている義兄の読み難そうな声に、同情しちゃう。途切れ途切れの暗号を読み上げているのは、どうやら急いで書いたからか、書きミスが多い上にほぼ単語の羅列らしい。
眉間に無茶苦茶深い皺を刻んで・・・途中で諦めたな。
うん、全くわかんない。目頭を揉む義兄がちょっと気の毒に思えた。
「・・・お義兄様?」
「ああ、どうやら義母上はクレアの目撃情報を頼りに探っていたようだね。何故かマリアも同行すると汚く書いてあるよ」
「え?」
え? 母さん? クレア? マリア?




