表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十四章 王が住まう場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/285

嫌な噂


「お嬢さ~まあ~、どーすんですかぁー、若、部屋から出てこなくなっちゃったじゃないですかー」


えー、そんなこと言われても。食事になれば出てくるでしょ? え? 呼んでも出てこない?

仕方ないかぁ、男にとって一人の時間は必要だから…。あ、そんな睨まないで。ハイハイ、わかりました。


何事かと思えば、昨日から食事もしないで部屋に籠りっぱなし。返事もないから心配なんだって。


え…それは…なんとも困ったちゃんである。


寝食を忘れるのは、しょっちゅうだって。でも今は絶賛潜伏中の身。何が起こるかわからない緊迫した状態で義兄の趣味没頭は非常にまずいと嘆く。


うぅん、そう聞くと確かにって思っちゃう。

平時であれば多少のお目溢しはありだけど、俺もちょっと気になる。

でもさぁ、ジェフリーが呼んでも駄目だったんでしょ? 俺が呼んで、作業止めてくれるかな? あぁ、ハイハイ。いまやりますよ。


ジェフリーよ、早くしろって眼力で圧すのやめてくれる? うっとおしいから。

はぁよいしょっ、と重い腰を上げ、部屋の扉の前に立つ。


…あれ? 扉から魔力の気配がする。何で?


訝しみながらも健気な妹風に声を掛けた。これ、サービスね。


「お義兄様、出てきてください。お義兄様? …返事ないね、やっぱ無理かー」


やっぱ俺如きじゃあ無理か。

うう、わかっていても無視されると悲しい。ちょびっと心で泣いた。


「そーなんですよ! 若、うるさいって、結界張っちゃったんですよー。だからいくら声を掛けても無視されちゃうんですー」

「は? それじゃあ、いくら声を掛けても無駄じゃない」


お前なー! 俺の心の涙を返せ!


もう馬鹿ジェフリーは後で仕返ししてやろう。ちっ!

でも、結界張るとか、ガチな引き籠りじゃん。天の岩戸かよ。


なんちゅうメンドクサイことをと恨めしく思うも、どうしてこうなったと原因に視線を向ける。

これはあれだ。引き籠って、いい感じに趣味に熱中しているところに、口煩いオカンが『ご飯ですよー、早く食べなさい』、『今いいところー、後で食べるって』ってパターンだ。それをしつこく呼ばれて、オカンうざいってなったんだ。


…間違いない。お前が原因だよ。俺の冴えわたる推理力が唸ったぞ。




はぁ、まっ、いっけど。

にしても、ジェフリー、お前、確信犯だよね? 

俺の能力、狙ってたでしょ? お嬢様に自分から頼むのはギルティだけど、自発的なら誰も咎められない、俺以外は。

くっ、このやろう。


仕方ない。


「はいはい、天の岩戸を開けちゃいますよー。ほいっと」

「お嬢様、それ何ですか?」

「ん? 詠唱詠唱、気にしないで。ほら、結界切れたわ」

「おおー、流石はお嬢様~犯罪に向いてますね~。わかぁー、入りますよー、見られて恥ずかしい物はちゃんと隠してくださいねー。あと、報告届いてますよー」


えええー、お前ホントに従者かよ。





ーーーーーーー


結界魔道具の魔力を吸い取ったことを、怒られたくないから、義兄が心配だったからって瞳をウルウルしたら、破顔された。


疲れ切った義兄を見ると流石にちょっと…ごめんなさい。

兎に角、何か食べさせて休ませよう。ううっ、いたたまれないわ。



本音を言えば進捗が聞きたい。でもね、給仕中のジェフリーに半目で睨まれたらその気も失せたわ。お前、お嬢様にその視線どうよ? 覚えてろよ。

『軽食を用意させた気の利く妹』と、俺の株がグーンと上がったよ? そこはジェフリーが…。とは絶対に言わない。ふふん、悔しかろう。お前はそこで唇噛んでおきなさい。へへんだ。




食事も摂らずお腹空かないかって聞いたら、当たり前な顔で回復薬飲んで済ませてたから問題ないって切り返された。栄養ドリンク替わりに飲むなよ。処方違ってるでしょ。


これ、普段から常飲してるくちだわ。

ちょっと誰かマジで義兄に生活習慣の指導してあげて欲しい。無理がきくのは二十代までよ? 三十超えたら一気にガタがくるよ? 食事と睡眠は大事なんだからね。









手にしていた報告書をバサリと雑に置いて溜息を吐く義兄。疲労が増しても無駄に艶があるイケメンめ。徹夜明けなのにこの不条理さ。くぅぅ。


それにしても、一体いつの間に報告が届いたのだろう。不思議に思う俺に、そういう手段があるのだと教えてくれた。義兄監修の暗躍組がいるみたい。

…暗殺集団でないことを切に願うよ。



我が家の諜報員を他領にスパイさせてたのは聞いたから知ってたけど、確かその人達って、お家のゴタゴタで連絡取れてなかったんじゃないの?

あ、義兄の部下が繋ぎを取ったのね。そのせいで情報伝達が遅れたとか。それでも無いよりマシだよ。


そっかーごめんね。さぼってんじゃね? ってちょびっと疑ってたの。

皆さんしっかりちゃんとお仕事してました。

部下の働きぶり、ちゃんとパパンにご褒美貰えるよう報告するから! 

社員の人事査定は雇用側の責任だからね!


「お嬢様~また変なこと考えてるでしょ~」


お前は下方修正ね。



それより。


「何が書いてあったの? お義兄様」

「他領に忍ばせていた部下からね、帝国が、『帝国貴族誘拐犯の引き渡しに応じなければ経済制裁を行う』だとか『軍が攻めてくる』だとか可笑しな噂が商人や平民の間で流れていると。噂だけなら放置でいいのだけれど、看過できない状況らしいね」


は?! え、今何て?!


「そんな都合のいい噂、もしかしなくても、もしかしてお祖父様関連で?」


義兄は「うーん」少し考えてから憶測を伝えてくれる。


「どうだろう…。帝国側が流すにしては少々変かな。実はこの噂、王都ではなく地方の、それも魔力持ちに悪感情を抱く地域を中心に流布されている。帝国は魔力の恩恵に浴した国だと認識されているでしょ? その国が自国の魔力保持者を攫われたからと騒ぎ立てて、しかも不用意な発言。下手に否定派を刺激したらしい。もともと燻っていた不満が更に高まって容認派と対立をしている。…明らかに誘導されているね」


え、誘拐された貴族が魔力保持者だと。そこまで伝わってる。情報が洩れてるよね。


「えぇ、誘拐事件と関係ないのに」

「そうだね。だけど、きっかけだよ。国民感情を煽る者がいるのは間違いない。誘拐犯の引き渡しが今や魔力のある者とない者の対立だからね。今、噂の出元を探らせているよ。暫くは様子を見るしかないかな」

「うそぉ…」



自領しか知らない俺は、領地によっては魔力の恩恵に大きく差があるとは思わず、魔道具はまだ金を積めば手に入るが、動力源の魔石…魔力の確保が、魔力持ちの存在に左右されるとは考えもつかなかった。

そう、魔石の魔力が空になれば新しく魔石を購入するか、魔力を注入させればいいと思っていた。だから領地によっては深刻な魔力不足が起こっているだなんて、気付きもしなかった。


「使節団の視察予定地に問題の地域が含まれていた。恐らく何らかの手は打つと思うが…。何事もなく済めばいいけれど、あの両殿下でしょ? 少々不安でね」


ひゃー、義兄よ、変なフラグ立てないでー。


「だから余計にあの魔道具を完成させないと。使節団の動きもだけれど、お義祖父様や軍の動きも気になるからね。……悔しいことにこちらは人手不足。補える方法は片っ端から試してみたい」

「お義兄様、無理なさらないでください」


うー、我が家の動きを封じた奴、恨むよ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ