母は強し
レティエルの母登場。
ティはレティエルの愛称です。
今、俺は親父と共にソファに座りながら身を縮こませている。
俺達の目の前には怒れる美女が。
「これはどういうことですの? 旦那様」
「むぅぅぅ…‥‥‥…」
親父が微かに唸ってる。
わかるわかる。母さんオコデスネ。こわわ
因みに義兄は出禁だ。主に俺の付近を。
そう出禁だ。俺がいる建物内や庭園など立ち入りを禁止だ。
可哀想とは思わないぞ。俺だって我が身が可愛いんだから。
「‥‥‥‥…うぅむぅ…‥‥」
親父は表情は取り繕っているが冷や汗かいてるな。
俺もだけど。貰い事故だよこれ。
実は別荘で俺は母親に会いたいと言って駄々を捏ねた。
そうみっともなく捏ねたよ。悪いか?
親父も俺を連れて行けば少しは母親の気が和らぐと思ったのだろう。
二つ返事だ。うん? 義兄? さぁ誰それ?
折角会えたけど‥‥アレは無理だ。
怖すぎる。
俺には怒れる美人の相手なんて百年早いよ~
こんなことなら大人しく別荘にいれば良かった。今更か!
美女に睨まれること数十分。
俺達から質の良い脂がダラダラと。
いつまで続くんだ? この拷問!
「寡黙は旦那様の美徳でございましょうが、どうやら今は沈黙で押し通そうとお考えのようですわね‥‥‥」
お、親父ー! 何でもいいから喋ってよー! た、頼むよー
俺は心の中で親父の足元に縋りついてお願いしていた。泣き入ってます。
「そう‥‥。旦那様あれほどティのことをお願いしますと申し上げましたのに。このようなことに。これは旦那様の過失かしらねぇ。政敵など取るに足らぬと侮り油断あそばしましたの? それとも故意かしら? それで旦那様。獲物は打ち取りまして? ティを犠牲にしたのですから嘸かしご大層な手柄話をお聞かせ下さるのかしら。まあまあそれは楽しみだこと。一体何時お話下さるのかしらねぇ。まさか未だ仕留めるどころか尻尾も掴んでいない。相手に翻弄されたなどと。そのような醜態、勿論晒してはいらっしゃいませんわね。ねぇ旦那様?」
お、親父ちょこちょこバレてるぞー! 俺知らねー!
「おおぅ‥‥むぅぅ‥‥」
お、親父ガンバレー! 力込んで手汗でるわ。
「それからティ。貴女もですよ。王子に纏わりつく虫などさっさと追い払わないからです。何故今に至るまで放置していたの? 貴女ならこの程度赤子の手をひねるようなものでしょうに。母は残念でなりません。貴女に非はなくともこの騒ぎです。貴女にも落ち度があったのでしょう」
おおぅぅ、とばっちり?!
長身で鍛え抜かれた体躯の親父が、それはそれは見る影もなく体を小さくして項垂れています。あー身の置き所が無いってやつだ。
へー親父でも縮こまるんだ。意外だ。取り敢えず俺も親父に倣おう。
俺もシュンとする。
「あらあらまあ。ティ可哀想に。さぞ辛かったでしょう。これからは母が貴女を守りますからね。ええ。わたくしがしっかりとティを教育し導きますから。この家の男共は頼りになりません。ティ、母が付いています。安心して母の元に来なさいね。貴女のお祖父様、お祖母様も心待ちにしていますよ。彼方で女同士楽しく致しましょうね」
母さんの圧に負けそう。
「では旦那様。わたくしとティは帝国に出立いたします。よろしゅうございますね」
いや、完全に母さんの圧に負けた。俺も親父も。
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あの後、母さんは親父と話があると言って俺を部屋から追い出した。
母さん説教足りなかったのか? くわばらくわばら。
自由にしていなさいと。
お言葉に甘えることにして俺は屋敷内の庭園に散歩に行った。
勿論今の俺は侍女に変装している。
いやなんかメイドのコスプレっぽい。気にしたら負けってやつだ。
俺は侍女が呼びに来るまで散策を楽しんだ。
その俺をじっと見つめる複数の目があることにも気が付かずに。
義兄出禁の処分中。
大人しくはしていません。陰で何かやっています。
コソコソしている義兄の様子。そのうち書く予定です。