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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十三章

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ライムフォードー②


「…‥いいなぁ。私も魔法術を学びたいです」


私が十一歳、ラムドが十三歳の年。彼の帝国留学が決まりその挨拶に私の下に訪れた日の事。

うっかり本音が零れてしまいました。


「えー、殿下って魔法術に興味がおありでしたの? でしたらお義兄様とご一緒に留学なさったら?」

「レティ、入学可能な年齢は十三歳からだよ。殿下はあと二年先かな」


ごく自然な会話を二人が交わしていますが、そもそも王子の私では留学は難しいでしょう。それを伝えるとレティエルは、私の本気度を聞いてきました。

軽い気持ちではないのですが、私に魔力がありません。そのような者が魔法術を勉強したいと言い出しても無駄と一蹴されるのがオチです。つい、言い訳をしてしまいました。


「えー、だったら魔法術に拘らないでもっと他のことに目を向けるとか? うーん、例えば、他国の留学生と一緒になるでしょ、わざわざ留学してくるぐらいだもの将来有望株な学生が多いと思うの。それをダシにするとか。将来の外交でも貿易でも何でもいいじゃない。それらしい理由をつけて説得してみたらどうかしら。何もやらないより何かした方が気持ちの整理もつくと思うの。あ、でもダメ元でいいじゃない。許可されたら良かったー、ぐらいで」


余りの軽さに驚きました。

陛下に許可を頂かないといけないのに、そんな軽い気持ちで良いのでしょうか。


「うん、話の持って行き方を考えようか。それに根回しも必要だしね。ではまず、殿下はどうして魔法術を学びたいのかそれを説明できるよう話をまとめましょうか」


もっともだと受け入れてしまいました。





私は八歳で魔力測定をさせられました。

王国は魔力のある人とない人を区分するために測定は義務付けされています。

ありと判定された人は特殊な魔封じの魔道具の着用と神殿に登録されその管理下に置かれます。

王家の管轄は王家専用の神殿と教えられたのは私の留学が許可された時でした。


母上は魔力がない人です。私は母に似たのでしょう。父上に似れば魔力があったのにと悔やまれます。


王国の測定は水晶球の魔道具に手を当て、魔量を測ります。基準値に達すると反応を示す簡易測定具でした。魔力系統は測定されません、あくまで量です。

これも不思議でした。必要なのは自分の使える魔力系統を知り適性を伸ばすことだと思ったのです。量に拘る王国の神殿は何を考えているのかと当時は思ったものです。


王国には魔力の扱い方や魔法術を学ぶ専門の教育機関がありません。

いえ、過去には授業があったそうです。ですが魔力を持つ者の減少と共に教える者も教わる者も減ったのでしょう。今では神殿が請け負っています。各領地に必ず神殿があるので態々教育機関で教えなくとも神殿で事足りると見做されています。これも不思議な話です。


多くの魔力を持つ者が命を落としたと過去の記録にありました。

十数年前に起った流行病‥‥あのエリックの事件が起こったのと同じ病です。

罹患者の明暗を分けたのが、魔力の多さと指摘した学者もいたほどです。原因は未だわかっていません。ですがこの病気が一層魔力否定派を勢いづけたのでした。特に神殿関係者が顕著だったと記憶に残っている者は言います。実際、患者を引き入れたのは神殿です。現場を見た者の言葉は強いのかも知れません。


多くの死者を出した病気でしたが、その殆どが魔力を持つ者だとラムドの調査報告書にもありました。学者の理論が裏打ちされてしまいました。

ところで、神殿管理の個人情報をよく知り得ましたね。優秀過ぎる調査員が恐ろしいです。








ラムドも魔力のない人です。

レティエルは六歳の時、私に魔法をかけたぐらいです。魔力を持つ人だと思っていました。ですが、彼女の測定結果は魔力のない人でした。

これについては私では追及できません。ラムドの目が怖いのです。聞いたら最期、プチッとされそうで。


神殿の判定は陛下に報告されますのでレティエルはない人と報告されたのでしょう。当の本人は常に魔道具のチョーカーを着けておきながら、よく騙せたものです。

私は魔力があると装いましたが彼女はないと装ったのです。




子供の頃、童話の魔法使いに憧れました。私もそのうち魔法が使えると無駄に期待で胸を膨らませたものです。今は、流石に魔法使いは童話の中の登場人物だとわかっています。

魔法使いは正しい表現ではありません。正しいのは魔法術を使う人と言います。

昔は魔道具や魔石、魔法陣といった補助道具を使わなくても直接、体内の魔力を原動力として自然現象を引き起こした人達を魔法使いと表現したと文献にありました。もう童話の中でしか見られないのでしょうね、きっと。


殆どの人は血中に魔力が溶け込んだ状態で、魔量が増えることはないと言われています。これも諸説があるらしく私の師事した教授がその研究をなさっておいでです。興味深いではありませんか。




現代は魔道具や魔法術に頼った生活を送っています。魔量が不足であっても、誰でも使える魔道具の研究開発に力を入れる国がほとんどと言います。ラムドも魔力がないにも拘らず魔道具技師を目指して留学を決めました。


「うふふ、お義兄様にいっぱい魔道具を作ってもらうの! ねー、お義兄様」


多分、義妹の願いを叶えるためだけに留学を決めた気がします。跡取りなのに公爵はよく許しましたね。自由過ぎるのは令嬢だけでなく子息もでしたか。羨ましい限りです。


彼が学ぶ学院は、魔力のある人ない人関係なく学ぶ意欲と基礎学力が高ければ誰でも入れるそうです。

特に優秀な外国の若者を、特待生として迎えてくれるといいます。王国は、どうして真似をしないのでしょうか。先を見据えれば有益なのに。





二年の間でようやく留学の許可を捥ぎ取りました。

母上は最後まで反対され、挙げ句、私の留学は父上の嫌がらせと勘違いなさいました。

異母兄の邪魔になるからと追い出されたと嘆かれていたと聞きました。説明しても聞く耳を持たないのがわかっていたので誤解をそのままに。私は留学生活を謳歌しました。



そうそう、説得の材料は魔力が増えたから専門の教育機関で学びたい、です。

実際は増えていないのですが、目晦ましです。これも二人の意見が役立ちました。


当時の遣り取りはこんな感じです。


「あ、じゃあ、神殿の魔力測定で魔量の基準値が超えれば、留学を許してくれるかも知れないわね」

「え? レティエル嬢‥‥八歳で測りましたが私の魔量は基準値以下でしたので、それは難しいです」

「うーん、それなら魔力、増えちゃいましたってことにすれば、測ったの八歳でしょ? 魔力って成長と共に増えるのよね? だったらそれを理由にしたらいいのよ。それにお義兄様も留学してるでしょ、頼れるじゃない。あとは、ファーレン家が後ろ盾になってもらえるようお願いすれば何とかなる?」

「ファーレン家? 帝国の有力貴族ですか?」


レティエルの母親の実家で祖母が皇帝陛下の姉。いろいろ手広く商売や魔道具関連の開発など手掛けている家門と言います。帝国での後ろ盾に相応しいではないでしょうか。それにランバードもいるのが心強いです。何とかなりそうに思えてしまいました。ですが‥‥


「ですが、魔力なしと判定されたのを覆すほど魔力は増えていません。いえ、変化すらしていないでしょう。魔力が増えたと進言すれば必ず再測定させられます。嘘やごまかしは効かないですよ」

「うっ、そうだったわ。…‥お義兄様、どうにかなりません? 何か悪知恵とか、パッと浮かびません?」


何を言い出すのでしょうか。ランバードが笑っているのを見るとよくある会話みたいですが。ちょっとヒヤヒヤします。


「そうだね、バレないように魔石を水晶球に当てて測定すれば、誤魔化せるかな。あの水晶球は基準値以上の魔力に反応する仕組みらしくて、割と大雑把だと聞いたことがあるよ。勿論、基準値以下は無反応だって。だから魔力をたっぷり籠った魔石を使えば殿下の魔力と誤認してくれるかもしれない。ああ、でも帝国の測定具は鑑定具だから、魔量は勿論、魔力系統までわかるから誤魔化しが効かないかな。運よく留学しても後でバレるけれど、それを覚悟して‥‥あ、入学願書の記入ミスって言えばいいか。後は、そうだね全くの他力本願になってしまうけれど、神官に金貨を握らしとけば、再測定の結果を弄ってくれるんじゃないかな。金に困ってそうな神官とか問題を抱えた神官とか、後ろ暗い人を捜せば話に乗ってくるかもね」

「お、おおー」

「あ…‥」


圧倒されました。










結局、彼の案を両方採用し晴れて魔力保持者の認定を受けました。助言通り神官に金貨を握らせたら神の采配とこれまたよくわからない言葉を掛けられました。一応、魔石を手に握りしめ挑みました。


結果を二人に教えると、レティエルは「これで攻略対象者が二人減った」と小声で意味不明なことを言ってました。よくはわかりませんが助力してくれたので聞こえなかったことにしました。こういう気配りは大事です。




父上からは、留学を認める代わりに皇族と人脈を築けと命じられました。

後継者は異母兄なのでしょうね。

母上は認めたくなかったのでしょう。大分機嫌が悪かったそうです。

私は早々に自分の道は自分で切り開こうと決めていたので特に思うことはありませんでした。



入学後、鑑定により魔量不足と判定を受けましたが私の腹は痛くも痒くもありません。

母上は何とか帰国させようと無駄に足掻いていらっしゃったそうです。

父上は父上で私をこのまま外に出していた方が何かと都合が良かったのでしょう。

実は、触れたものの魔力を感知しやすい体質と判明したのです。思わぬ収穫でした。

ですが触れないとわからないので使い処が難しです。色々触るのって結構抵抗ありますよ。



と、ツラツラと思い出していたら、母上に訪問者の知らせが入りました。

侍女に耳打ちされた母上は特に変化はありません。


「そう、お通しして」


連絡なしとは些かマナー違反ではありませんか。ですが母上が何も仰らないのは気心の知れた相手なのでしょう。



「ああ、皆揃っているね」


入室してきたのはおじい様でした。心なしか浮足立っていませんか?


「お父様、突然ですわね、どうかなさったの」

「今日はもう一人連れて来ていてね、入って貰ってもいいかな?」

「お父様のお連れでしょう? 構いませんわ。どうぞ入って頂いて」


母上の許可を得たとおじい様は連れを呼び寄せ、入って来たのは。


「あら、珍しいわね」

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