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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十三章
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心胆を寒からしめられました。

お祖父ちゃんから逃げて早や五日。帝国使節団の滞在で警戒態勢中の王都に舞い戻った。

ファーレン家も帝国軍も手練れを送り込んでいる現状、足のつく我が家の隠れ家を避け平民の居住区に。とはいえ富裕層の多い区域に建てられた宿泊施設、中でも高級感溢れる宿を活用することにした。


‥‥何で高級宿なの? 普通、逃亡者って安宿とか治安の悪い居住区とか、いかにも的な場所を選ぶよね?


俺の疑問は、


「混ぜるな危険」


ジェフリーの謎の言葉で、潰えた。







根城を確保し一先ずの安息を得た俺はお祖父ちゃんとの会話を反芻する。


「はあ、まさか自分の存在価値を、実力で示せと言われるとは思わなかったなー」


寝室で一人ごちる。

与えられた一部屋でベットの中にいます。


俺達がチョイスしたのはファミリータイプの客室。夫婦の寝室、子供用二室、お付き用の小部屋が設えてあった。食事は室内でも食堂でもどちらでも対応可能。一応、客室にはお茶を準備できるミニキッチンも備えてある。割と柔軟だよね。ちょっと公爵領の宿泊施設を思い出した。お家自慢じゃないけど我が公爵領、宿泊施設や街道に力入れてたからねー。あー、懐かし。


最初、夫婦用にハイデさんと二人でって言われたけど‥‥ほら、ねぇ、花も恥じらう乙女なレティエルは心身の安寧を求め個室にしてもらいました。はい、これで安眠ばっちりです。




『存在価値を実力で示せ』


王国と帝国の違いをまざまざとぶつけられた。


王国ではお家(公爵)ブランドに、婚約者は王子様って付加価値ついてたからねー。

六歳で準王族扱い、幼い身に重い責任がのかった。おまけに断罪回避の目標もあったし。

王子妃・王太子妃・王妃(出世魚だよねー)‥‥と期待と羨望と嫉妬の視線に晒され、公爵家の名に恥じない行いをとプレッシャーの中、努力した。日々の研鑽と詰め込まれた教育。誰にも引けを取らない自負はある。


でも、それは帝国では通じない。

自分の力を誇示しろと。でなければ帝国では認められない。

実力主義を謳うだけあって望まれるものが違う。

ファーレン家は個性を尊ぶ。自ら可能性を広げチャンスを掴むのを善しとする一族だ。


「レティエルの実力か…‥」


気弱な声は、将来を決め兼ねる心の表れか。







話を思い出す。


王都までの道中で話題に上がったのは、説明途中だった悪い話。

レティエルの婚家先について、護衛達も積極的に語った。

義兄が母さんから聞かされた時はお相手はクソ貴族だった。お祖父ちゃんの話は寝耳に水だろう、俺もだ。



母さんと親父との婚姻が、信厚きファーレン家のつまづきの発端。

紆余曲折を得て結婚したのは美談だけど、その後が頂けなかった。

そして娘が王子と婚約破棄。追い打ちしてどうする。


名誉挽回はファーレン家の総意。

当主は帝都で(側妃の生家を)討ち入り。お祖父ちゃんは王国内で特攻隊長。母さんは玉砕覚悟の籠城(謹慎)。え? なにその特攻親子?!

火系統の魔力を持つ母さんは武家の嗜み、広域攻撃魔法陣を持参しているとポロリした義兄。

は?! え、自爆? 物理的に?! 道理でお祖父ちゃん、母さんを回収したいわけだわ。

これを聞かされた俺の目は、間違いなく死んだ魚の目をしてたねー。





悪い話はどう聞いてもレティエルに悪い話だった。


元の婚家先は悪評高き貴族の、離婚歴も妾も多い糞野郎。帝国に併呑される前は小国の王族だったとか。権力を持たせちゃダメなやつだ。

その上、処罰対象である側妃の実家と繋がりが深い貴族で、更なる野望のために皇族と繋がりを求めたと思われている。


え、だったらそれ側妃の娘・第二皇女でよくね? 


そんな相手、突っ放せば‥‥皇帝なら出来、ないから策を講じたのか。現状、財力も帝都での発言力をも増した、内政を固めたい皇帝は無下に出来ない相手だった。


これ以上側妃に力を与えれば無能な第四皇子が次代の皇帝に祭り上げられる。

第四皇子は傀儡だと既に評価が悪い。とてもじゃないが国政を任せる御仁ではない。

後ろ盾の後押しで仮に彼が皇太子に指名されれば、現皇帝は病死か事故死を装われるだろうと周囲は危ぶんでいる。


帝国の将来を憂うのは何も皇帝だけじゃない。献策した者がいた。


‥‥うん、皇帝の頭痛の種はわかったけど、それがどうしてレティエルにお株が回るわけ?


その答えが、公爵夫人の身分に在りながら貴族の責務を放棄して出戻った母さんにあった。

既に一度信用を落とした母さんは、魔物の討伐で個人の武勇を挙げ名誉を回復したものの、レティエルの一件で再び心証を悪くしていた。

そこで叔父である皇帝に提案したのは、ライムフォード王子と第二皇女の婚約。

素行の悪い、手を持て余してた不良債権(第二皇女)を王国に熨斗つけようと進言したまでは余裕があった母さんも、逆に別の不良債権(クソ貴族)を押し付けられた‥‥レティエルに。

おお、母さん痛恨のミス!


これを皇帝は利用したのだろうと、義兄は推察していた。


『動かす駒を少し変えるだけで戦局は大きく変わりますからね。恐らく、ライムフォードと皇帝陛下は裏取引をしたのでしょう。ちっ、糞餓鬼が余計な真似を』


わ‥‥王子を呼び捨て?! 

とうとう王族を呼び捨てにした義兄はもう忠義どころか敬意も失くしたか。最後の言葉は聞こえなかったことにしよう。お口の悪さで憤り度が、押して図るべし。



皇帝は気に食わん貴族を潰すに、レティエルを贄として、ファーレン家とザックバイヤーグラヤス家を動かしたわけね。まぁ我が家というか義兄? を駆り出した。


態のいい露払いとわかっていても従うしか‥‥後のないファーレン家。

当主と騎士団の動きを封じられたザックバイヤーグラヤス家。

誰か知らないけど収監されてた義兄の元に暗殺者を送り込んでくれたおかげで(?)今、こうして助けてもらえてる。暗殺者を送り込んだのは許せないけど、無事だったからねー。

ホント、一体誰の仕業なんだろう‥‥。 






『皇帝陛下の目論見は半分は叶ったと思うよ? 既に人を差し向けたからね、婚約話はお相手(クソ貴族)が生きていれば、のことだから。そのお相手(クソ貴族)が、クク、墓の中ではお話にもならないでしょう』


ゾッ! ゾゾッ!! 

頭のてっぺんから足のつま先までゾゾゾッとした!



俺が、心胆を寒からしめられました。


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