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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十二章 分水嶺
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⑳・困惑

「‥‥地方貴族との話はなくなった」


条件つきでだがレティエルにとって最高の嫁ぎ先を得たと弁明しだす。


婚家先の決定―――ただし伴侶は未定。


略言すれば、作戦の成功ありきだが新たな婚家先は王国。

なんとビックリ、次代の王妃位に担ぎ上げられるのが決定されていた。伴侶が未定なのは暫定政権で残留王族や反感を持つ貴族を炙り出した後の話になるので決めってない。


既に王家とは縁切りされたと高を括ってた俺にドヤ顔なお祖父ちゃん。

表情からして、薦めたのが誰だかよくわかった。


‥‥うぬぬ、いらんことを!





過去に王国はやらかしてる。

大国の頂点に君臨する皇帝を侮辱してただで済むはずがない。それが免れたのは当時の帝国事情ゆえ。

カレンシア(母さん)を妾にと。好色王(先代王)の色ボケで両国の和平に亀裂が生じたのを何とか取り繕って維持した同盟も王国側には痛みを伴うもの。溝は埋まらないまま今度はレティエルと第一王子との婚約破棄。王国の厚顔無恥は甚だしい。


皇帝の怒りは根深い。

二度に渡って王国の愚行。侮辱された皇帝の屈辱は筆舌に尽くしがたい。


国王の痛恨のミス。

国を差し出さねばならないほどのミスを犯した。

開戦に持ち込まないのは戦力の無駄遣いを厭うたからと哀れみの籠った目で言われてしまえば国力の差を痛感してしまう。


次の一手を打つのが遅かった。さっさと別の王子と婚約させておけば皇帝の怒りも少しは鎮めたかもしれないと、同情と呆れを含んだ声色で情勢を読み切れない王国に思う事があるのだろう。王国人で帝国人でもあるレティエルが重要なのにと。やれやれと肩を竦む。

どちらにしろ帝国に乗っ取られるとしか思えないのは俺だけじゃないはず。


‥‥そう聞けばレティエルの帝国移住の許可を下した国王ってうっかりさんだよね? よく許したよ。


裏事情も国王の胸の内も一顧だにしたくない俺は呑気なものである。



血筋の利点を大いに活用する気だったのだろう。

目論見を覆された帝国は、王国の内部から崩壊を狙う。足元が揺らぐ国王の内政を揺さぶるだけ揺さぶる。

国王は臣下の手で追いやられればいい―――嗜虐心が透けて見えた。


‥‥血の盟約まで持ち出して裏切りを封じてたのに。これは外敵よりも一番堪えるんじゃないかな? 国王は契約魔法で縛るんじゃなくて、己の力量で王とたらしめてもらいたい。


少し残念な気持ちに浸っていると、はたと気がついた。


‥‥そういえば、どうして公爵当主だけを縛ったんだろう。国王の目には公爵達が脅威に映ったのかな?

謀反の観点からと言われればそうかもだけど、何か他に理由があるのかと勘ぐってしまった。





皇帝の怒りの矛先は何も王国だけじゃない。

レティエルの婚約は皇帝の血筋と鳴り物入り。いくら相手の有責と言えど顔に泥を塗られたのに変わりはない。その責任はザックバイヤーグラヤス家とファーレン家に向いた。


これは華々しい成功を収めているファーレン家の経歴に傷がついた一件である。


‥‥うわぁ、耳が痛すぎる! まさかそっちにまで迷惑かけてただなんて。ごめんなさい。もうお祖父ちゃんの顔を見るのが辛くて辛くて居た堪れないわ‥‥。


心で泣いて、黙って傾聴するしかない。シュンとしちゃう。



責任を執る形で作戦に名乗りを上げたお祖父ちゃん、この作戦に便乗してレティエルの汚名を返上させると息巻いてる。成程お祖父ちゃんの魂胆はそれね。


永久就職先が田舎貴族のクズでなくて良かったと安堵すべきか王国に君臨できると歓喜すべきか。

いや、どっちもごめんだわ。どう考えても波乱に満ちた結婚生活を送るでしょ? まぁ貴族家の生まれだから政略結婚ありきだし、中身がコレだし、恋愛したいとも思わないし。

うん、精神的同性愛か肉体的同性愛か、究極の選択じゃね? 

まだそういうのを決めたくないわけ。


それに、鬼籍扱いされてるレティエルが実は生きてましたー。今度は帝国の皇女様ですよー。ハハー! って、悪夢じゃん。なんとも皮肉がすぎやしません? 皇帝陛下。


仮にこれが現実となれば恨まれ疎まれる未来しか視えないねー。めっちゃイバラな道を歩まされるのか。もしかしてこれも皇帝の報復? と想像してゾッとした。



結局、皇帝の狙いは何なの?

つい自問してしまう。

要は原因となったレティエルとザックバイヤーグラヤス家、それにファーレン家は邪魔な相手の露払い的に使いたいわけね。

自分の側妃とその実家、皇子と皇女を仕留めさせ、おまけに王国を掻きまわす。

自分の欲しい物を手にするのにそこまでやるかと声を荒げたい。

執念と言うか粘着と言うのか、なんだろう…‥皇帝ってゲスい?

ちょっと自分の不敬な発想に頭が痛くなった。


‥‥帝国行くのイヤかも。


まさに進むも地獄、退くも地獄。泣きたくなる。






「お義祖父様、今のお話にレティの望みは反映されているのでしょうか。それにレティに責任を押し付けないで下さい。彼女は被害者ですよ? まぁ貴族ですからその言い分もわかりますが、それでもです」

「お義兄様!」


‥‥だよね? だよね? ちょっと俺の所為かもって錯覚しちゃったけど俺、悪くないよね?


シュンとしてた俺がパァーっと顔を綻ばせたのを、ザクワン爺ちゃんに「お嬢様にも責任はありますぞ」と見咎められた。トホホ。



「レティ、君はどうなの? ああ、お義祖父様や家のことは考えなくていいからね。本音を聞かせてくれるかな? 私も義父上も義母上もレティに無理強いさせる気はないよ。フフ、大丈夫。何も国は帝国や王国だけじゃないからね?」

「お義兄様!」


おお! 悪人面の義兄が天使に見えた! 

レティエルを道具扱いする奴等とは違う。心底心配して、慮ってくれてる。嬉しい! ちょっと不穏な発言も混じってるけど‥‥まっ、いっか。

軽いノリに聞こえても義兄は有言実行の人。やると言えばやるだろう。だから俺もここは素直にキメタイ。


「わたくし、そのような婚姻は嫌です。その、お祖父様の仰ることはわかりますが、わたくし十年も殿下の婚約者の立場でいました。その間、自由な時間は限られて趣味だって遊びだって、我慢を強いられました。それなのに当のお相手は好き放題。あんな馬鹿のお相手をしてきたのです。もう自由にさせて下さい。わたくしは…‥魔法術を学びたいのです!」


ごめんねーわがまま言っちゃって。でもねーちょっとは自由が欲しいの。

生い立ちがそれを許さないのはわかるけど、一度ぐらい自由を満喫させて欲しい。正面から「かなり自由になさっていたとお見受け致しますが」の圧が。うう、俺がそう思ってないのが問題なの。だから許して?


独白を聞いたお祖父ちゃんの、何とも言えないその表情‥‥。なに? 文句ある?


「…‥ティや、お主は好いた男でもおるのか?」

「は?」


物凄い勢いでぐりゅんと顔を向けてきた義兄。うん、ガン見止めて? うん、眼圧凄いことになってるよ?

もう恐怖しか湧かない。お祖父ちゃん達よ、そこでニマニマしない。


これ以上お祖父ちゃんに主導権を握らせると不味い。非常に不味いと危機察知アンテナがビシビシ唸ってる。うん、もうホント止めて。お願いだから。この手の話題を避けてきた意味がなくなるからね?

聞き出そうとする三人の圧に屈せず乗せられず、そんな暇ないでしょと言い切った。

そうレティエルは魔女っ娘ライフを送る夢があるのだ、邪魔しないで下さい。お願いです。


突っ込んだ質問も困る俺は話を逸らす。


「お祖父様、皇帝陛下は我が家にも償わせようとお考えでいらっしゃるの? でも今の我が家は‥‥」


ピクリ。

お祖父ちゃんとザクワン爺に緊張が走った。


え? なに?


「先も言うたが儂らは駒じゃ。手足の如く動く駒じゃて知らぬことの方が多い。儂が知りたいぐらいじゃ」


皇帝の描く未来構想に参画していないので知らないと。誤魔化すでも言い訳するでもなく自分は蚊帳の外だと悔し気で、納得してないのがよくわかる。


でもこれ、言外に俺達に調べろと言ってない? 


当然義兄もその意図を察してる。


「では、これ以上知り得る情報はお持ちでないと仰るのですね?」


ニヤリ。

悪魔の微笑‥‥ってみたことないけど比喩するならそんな感じ? の義兄が。


「足の引っ張り合いを避けたいと情報を欲したのですが、仕方ありません。お義祖父様のお望みは両殿下の処分でしょうか? それとも防衛システムの情報を入手されることでしょうか? ‥‥皇帝陛下は王国を望まれてはいませんね? 帝国の庇護下に置いてしまえば有事の際、壁役どころか手を差し出さねばならなくなります。魔素の発生が著しく低下し、魔力持ちの出生率も減少した王国を、守って下さるとは思えませんが…‥」

「…‥ラムや言葉が過ぎるぞ。これ以上喋るな。儂は聞かんかったことにしてやる」

「そうですか…‥致し方ありません。私はレティを守りますのでお義祖父様は邪魔をなさらないで下さい」

「なんじゃと? 待て、ラム、何をする気じゃ?」

「特には? 邪魔なさらなければ‥‥ですが、ああそうですね義父上の契約魔法は近いうちに解きたいと思います。…‥あとはそうですね、帝国の出方次第? と申しておきます。お義祖父様、こちらで掴んだ情報はお知らせいたしますのでご安心を。それと私達を追う真似はしないで下さい。思い余って魔道具の技術を他国へ提供してしまうかもしれません。ああ、いえ、そんな勿体ないことはできませんね。そうですねえ、他国に潜らせた者を使って工作活動いたしましょうか? 煽動すれば乗ってくる国も少なくはないですし。帝国を狙う国は存在しますから。ふふ、平穏な世が遠のきますね」


さらっと隣接の国々を煽って戦争を吹っ掛けるぞと脅しだした義兄にドン引きだ。

ああ、そういえばレティエルの専属が少ない理由に公爵家の配下の者を他領に潜ませているって言ってたっけ。あれって他国にもいるんだ。はは。もう乾いた笑い声しかでないわ。


お祖父ちゃん達もそんな脅しをしてくるとは思わないよね、ショックだったのか一瞬怯んだのを、見逃さなかった義兄が隙を突いて二人を拘束。室内に仕掛けていた魔法陣を起動させたのだ。


はあ?! な、なにやってんの?!


予想の斜め上を行かれたのだ衝撃は大きい。


「ああ、大丈夫ですのでご安心下さい。その魔法陣の効果は一時です。私達が邸を出た後に解術となるのでどうかそのままでお過ごしください」


爽やかなイケメンぶりで頭を下げてお暇の挨拶をした義兄よ、サマになってる。あ、じゃなくて、俺達はお祖父ちゃん達を残して邸を去ることになった。



ええ?! この展開は読んでなかった!


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