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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十二章 分水嶺

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⑯・余興ー1

「ではお義祖父様、見返りについて話を進めて頂いて宜しいでしょうか」


この言葉を受けたお祖父ちゃんは口を真一文字に結び不快を表している。

まあね、いくら身内の要望でも下の者が見返り云々と持ち出したのが気に入らないわけね。


それに我が家の恥を雪ぐと啖呵切ったのは義兄。でも肝心のエリックや伯爵家への報復も皇女たちの処罰もお祖父ちゃんが買って出てる。既に着手されている作戦の邪魔は出来ない。しちゃあ恨まれるよね?

となると俺達が活躍できそうな場面ってある? 正直に言えば出番はないと思う。

‥‥あっ、あったわ。親父の契約魔法を解かなきゃだね。先ずはこれでしょ? 

うーん、他にもあるかな? 割と真剣に考える俺は視界に映る二人から視線を外し思案に更けた。


‥‥ちょっと気になることがあるんだよね。






「何じゃ、ラムよ儂に何を言いよる」


怒気を孕んだお祖父ちゃんの声が聴こえたかと思えば、直ぐに。


キューン


金属音かと聞き間違う硬質な音が耳に響いて、ハッとした。


「い、今のは‥‥え? これなに?」


既に周囲は半透明の膜が張られ見渡せば半円のドームの中にいるのがわかった。一瞬の出来事で動揺したが、よく見れば膜に見覚えがある。

‥‥あぁ、これ、結界。結界だわ。

何で今結界が? と思わなくもないが囲われたモノが既知のモノとわかってホッと力が抜けた。無意識に強張ってたのかと身構えた自分を軽く笑った。

余裕を取り戻すとドーム内に他人の気配を感じそちらに視線を向けると、ローテーブルを挟んだ先に魔道具を握りしめ穏やかな顔で此方を見るザクワン爺ちゃんがいた。


ちょ! 犯人はお前かよ―――!


「ただの結界ですぞ」


シレっと言われてもねぇ。無断で人を閉じ込めるのはナシだと思います。

先ずは説明しようよ。良い大人でしょ? ちょっと親切心足りてないんじゃない? どうなのそれ。不満と非難の目を向けても何処吹く風である。ちっ。


「ふぉふぉふぉ。とばっちりを避けるための結界ですぞい、ご心配なさらずともお館様のお話しが終われば解術致します故。暫しこの場でお待ち下され」


あっ、なんだそんなこと‥‥二人で?‥‥話ぃ? ちょ待てよ。何で俺だけ除け者なの?! えっ、意味わかんないんですけどぉ?! 


爺の説明に納得しかけてハッと現実に気がついた。親切ぶった発言よりも疎外された怒りが勝る。まさかこの期に及んで除け者にされるとは。腑に落ちん。わざわざ今やることかとムカムカが湧きだした。ムッとしてもどうしようもないのはかわるけど、この湧いたムカムカをどうしてくれようと怒りも収まらないが、現実問題お祖父ちゃんが剣先を納めるまではどうしようもないのだ。


爺は然も当たり前な顔で二人の成り行きを眺めて、ちろりと俺に視線を向けた。その表情は俺一人腹を立ててもねぇって悠然に語ってるのよ。爺に八つ当たりできないのを良いことに何と性質の悪いくそ爺か。


取り敢えず外の二人に視線を向け成り行きを見守ることにした。ってかそれしか出来ないわけ。ちっ。しかしこの結界、無駄に性能よくね? 外の音が拾えないんだけど。これはこれで更にイラっとさせられた。




二人はソファーに座った状態で対峙したまま。ゆらりとお祖父ちゃんの指輪から赤い湯気? が立ち込めたかと思えば、シュンと義兄に向って手を払う動きをした。その動作は奇妙で目にした俺が「ん?」と言葉を紡ぐ暇もない速さでお祖父ちゃんは抜刀し、義兄に刃を突き付けていた。


「はぁぁあ?!」


もう仰天!!

いきなり何やってんのとツッコミたいのに。閉じ込められててめちゃ不便。ちょいハラハラしちゃった俺に爺は冷静な声色で、当然みたいな顔して。


「お嬢様、そのご様子だと手合わせを見たことがないのですかな? でしたらいきなりでさぞや驚かれましたな。ご安心下され。お館様は手を抜いておられますぞ? ああやって手合わせを行うのは真意を探るためずぞ。相手に邪気や悪気があればお館様の纏う闘気に圧され正面から対峙は出来ません故。ランバード様も何度かお館様から稽古を受けておいでです。この一太刀の意味することを存じていらっしゃいますぞ」


はぁ?! そんなん知らんがな!!


お嬢様枠のレティエルが知る由もない。

受けた衝撃は段々と怒りに変わる。何ていう人騒がせな! 腹が立ってきた。

もう、プンスカの顔で結界をピンピン弾く。くっそ、これ吸い取ってやろうか。そんな苛立ちをぶつけてみても結界はビクともしない。‥‥結界が解けるのは危なそうなのでしないけど。


ザクワン爺ちゃん、俺の苛立ちを察したか。いや、暇なのか。結界の膜に沿ってオーロラ展開するの、綺麗だけど今は邪魔かな? 芸達者なのはわかったけど視界がブレるの。止めてくれるかな?


まったくどうしようもない二人の遣り合う姿を目にして盛大な溜息を吐く。


「レティエルお嬢様、淑女の溜息とは、幸が逃げますぞい。そうご心配にならずとも直ぐに終わりますぞ」


爺にしてみれば、これは予定調和なのだろう。

何となく気を削がれた感ハンパない俺はモヤモヤしながら二人の姿を目で追うことにした。後で絶対、義兄からバウムクーヘンをせびってやろう。そんな野望を秘めて‥‥。



‥‥ん? そういえば…‥


「ねぇ、お祖父様は剣をお持ちでしたの?」


そうなの。お祖父ちゃん帯刀なんてしてなかった。手ぶらだった。なのに今のお祖父ちゃんは嬉々として赤い色味の濃い剣を義兄に向けている。対する義兄は素手。あ、腕輪から何か出した。


‥‥へっ? なにあれ。


義兄の手から離れたソレは、ゆっくり浮上し突き付けられた剣に対面している。


‥‥ええ?! 浮いてるよね?!


知ってそうな爺に、アレ何? って視線で訴えたけど、「ふぉー! 何ですなあれは?!」と糸目をかっぴろげても糸目は糸目だった爺の驚嘆の声。どうやら知らないみたい。ってことはアレは義兄のオリジナル?


俺達の目を惹き付けたソレは、六角形の反射光でキラっと煌めく謎な物体。サイズは顔を覆う程度で、質感を感じさせる透明なソレ。お祖父ちゃんの繰り出される攻撃を難なくソレが受け止めてる。


「ほおう、盾でございますか。うむむ、宙に浮いていますが操作はどのように」

「うっそ、アレ盾なの?! えー、マジでオートじゃん!」


大興奮で口調の乱れた俺に爺は『嘆かわしや』とチクリ。うう、しまった。





ザクワン爺ちゃんのネタばらし。

お祖父ちゃんの剣は魔力で創成した魔剣と言われる魔道具。指輪に刻印された魔法陣が剣の形を決めるという。帯刀不可の場所や相手の隙を狙いたい時などに持って来いな、いわば仕込み武器。

え、仕込み武器の括りに入れていいのかな。もろ暗殺用だからいいのか? 

よくわからないが仕込み武器は貴族の常識なのだろうか? えっマジで? ちょっと俺の常識観に自信が持てなくて揺らぐ。


「ほぉう、ランバード様の防御は完璧ですなぁ。お館様の闘気を纏った一太刀をあの盾で凌いでいらっしゃる。重みがあります故、大抵の者は受け止めるだけでも衝撃を喰らってしまうのですが、それすらも躱されていらっしゃるとは‥‥あれは魔道具()の性能でしょうな」

「え? そ、それほどの威力のある一撃をお祖父様はなさってるの? ええ?! 孫に?」


爺の解説に、お祖父ちゃんのヤル気に、まじかと頬が引き攣る。もし万が一とか思わないの? と怒りたくなるが、そう言えば馴染みのある光景とか言ってたなぁと思い出す。それでもどうかと思うけどね!


爺の見立ては『盾』だって。初見なので機能性は盾と同じく防御用と判断してた。

うーん、そうかな? あの腹黒兄ちゃんが、魔力のない人がだよ? 単なる盾だけの機能しか持たせない? 魔道具技師だよね義兄って。絶対、何か仕込んでるって! だって受け止めの防戦一方のわりに余裕綽綽の笑み。企んでるって!


外の二人は場所を移動し…‥この部屋は狭くもないが広くもない。長方形の間取りで入り口から見て右に奥行があり、団欒用のソファーや長椅子が設えられている。…‥二人は足場を捕われない扉近くで対峙していた。


‥‥いやさぁ、室内でやらないでよ。これだから戦闘民族(脳筋じいじ)は困るわー。肝心の話が進まないじゃん!


この騒動に慣れ始めた俺は普通に迷惑行為だと呆れた。

まぁ無礼打ちって貴族あるあるだけど、流石にそれは身内に適用しないよね。

俺は深いため息を一つ。


‥‥はぁ、これ、いつ終わるんだろう。


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