⑪・不条理な契約
―――不条理な契約
『この契約魔法は従来の契約魔法と一線を画すようじゃ』
でた! 禁術疑惑!
隣でそわっと弾む気配を肌で感じた俺は、そろ~と様子を窺う。案の定、魔法術大好きすぎる義兄がめっちゃわかりやすく目を輝かせていた。
あ~琴線に触れたわけね。
匂わせだけで、すっかりガッチリ心を鷲掴みされた義兄。意外とチョロイ。
帝国軍、元大将軍であったお祖父ちゃんが触れてきた数多の情報。
悪魔の囁きに耳をしっかり傾ける義兄は魅惑に抗う気はないらしい。匂わせで喰いついた義兄は手持ちのカードを自ら掲示しそうだ。欲望に弱い一面を見せられた気もしなくはないが俺も知りたい、問題なかろう。
『血の盟約』の所以に意識を向ける。焦点が『慣例化か』と『血の盟約の血は隠語か』の二点に絞られた。
どうやら、お祖父ちゃんの知恵袋には『連綿』と『血統』に関わる禁術の知恵が詰まってたみたい。
「術は術でも魔法術じゃない可能性が高いかのう‥‥」
‥‥流石、知恵袋!
思い当たった、その気配を察した義兄のソワソワ感が、若干ウザい。
色めく義兄を止めるのは至難の業。夜も更けたのにと思わなくもないが、冷静さを装てはいるがちょっと口角が上がったのを見逃さない。まぁ、少しぐらいならいいか。言い訳めいたが俺もご相伴に与ろう。
だが話は当時の公爵当主と両陛下に比重が置かれた。契約魔法の慣例化を疑うのなら仕方がないか。
「先王崩御の際、公爵当主の訃報は聞いておらんぞ? じゃが一年後に行われた国王の戴冠式で見た顔ぶれに見慣れん者がおった。そん時は家督を譲られたぐらいの認識じゃて変に思わなんだが」
当主交代をした公爵が誰か、義兄は三公たちを思い浮かべているのだろう。顔がしかめっ面だ。
「その一年の間で王妃‥‥後の母后となった彼女は側妃や愛妾らを城から追い出したんじゃ。彼女らを擁護した者も道連れじゃて。家臣らの顔ぶれも変わったのも派閥勢の牽制もあったんじゃろうが母后の報復の色合いが濃ゆかったかのう。まぁ、煽りを喰ったかと。当時の判断はそんなもんじゃった」
へー。
「母后の怒りを買った者達は社交界…貴族社会から追放の憂き目におうた。生存が確認されていた先王の子らとて同罪じゃ。…‥正確な数は不明じゃが先王は生前で三十とも四十とも多くの子を儲けたそうだ。結局、王家が手元に残した子は正妃の子だけじゃたが」
ひょー!
アレかな?
『ねぇ、ブイブイ言わせてたあの側妃、最近顔見ないけど、どうしたのかしら?』
『あら、貴女知らないの? あの人、母后にマウントとってたでしょ? ざまぁされたのよ』
『いやだわ~怖いわね~』ってやつ?
ちょっと妄想が既視感ありありで虚空を見つめた。
「寡婦となり慣れ親しんだ世界から一気に堕とされたんじゃ、可哀想じゃろうが同情はできんのう。華やかな世界を夢見勘違いしよったか、己の立場を見誤った者の末路じゃて。立場を弁え時流を読めば結果は違ったであろうのう。とは言えど不遇の身に貶められた母后の胸の内は、それだけの怒りを鬱屈させておったわけじゃ。目障りな女とその子らと意に沿わん家臣共も追い出した手際の良さには脱帽じゃて」
貴族社会から追放された側妃や愛妾達の足跡は不明。ちょっとミステリー感わんさの結果に身震いがした。
ざまぁがえげつなーーー
「せ、先王はどうして沢山の子を産ませたのかしら? それほどいれば争いの種になりそうなことぐらいわかったでしょ‥‥」
「うむ、帝国の皇室を習ったという者がいたがのう、母后が言うに、先王は魔量の多い子を望んでのことじゃったと。じゃが現実は非情じゃて。それほど多くの子を産ませておきながら魔量が期待するほど多くなかったと落胆しおったそうじゃ。失望が大きかったのか先王は子に感心を示さんで母親たちも寵愛を得ることに躍起になっておったようじゃ。増えた子の面倒を母后が率先して行っていたが流行病や病弱で多くの子を身罷った。生き残った子をうまい具合に使ったんじゃろうな」
「一度、彼女と種が悪いか畑が悪いかと嗤いあったが‥‥種が悪いときっぱり言い切った潔さに惚れ惚れしたわい。彼女は亡国の王女なだけあって魔量は高かったぞ。先王は知らんがのう。ジオルド殿も豊富な魔量を持っておる。血は争そえんわい」
だよね、大体王族は魔力量が多いって言われてるし。この国ではジオルドぐらいじゃない? あ、第三王子は知らないけど。
良く知ってるなぁと感心してたら、どこの国も王族の婚姻によっては国際勢力が変わる。帝国が新国王の婚活に感心が高かくてちょいちょいスパイを送り込んでいたそうだ。
―――皇帝が虎視眈々と王国を狙って…‥
そんな副音声が聴こえた。




