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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十二章 分水嶺
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④・衝撃的な話は続く

長いです。

ヴォルグフの件について説明途中なのに。それにも拘らずお祖父ちゃんはトンデモ爆弾を投下した。俺達の驚愕した顔を見て満更でもない風に、


「ウワハハッーー、何じゃその顔? 鳥に餌を霞め盗られた間抜けな犬の様じゃて。ヌハハハ」


ご機嫌さんだね、お祖父ちゃん。


豪快な笑いとふざけた物言いが張り詰めた空気をプツンと切った。

やっぱり冗談かと、戦いていた俺は安堵からフッと身体の力が緩まる。


‥‥もう、質が悪い。筋肉じいちゃんの冗談って笑えないって。


まったくお祖父ちゃんたら。生温い視線を送るも一向に気にしてない。

ニヤリと不敵な笑みを浮かべて『信じぬのか?』と不吉な言葉を口にする。


「既に動いておるぞ? おぬしらもおうて(会って)おるじゃろう? カレンシアからそう聞いたがのう、違ったのか?」

「えっ?」

「…‥あの時の?」


右手で口元を隠した義兄はポロっと「あの頼りない軍人が」と呟いた。隣にいた俺だから聞こえた小声。記憶力の良い義兄は瞬時に該当者を引き当てたようだ。賢いっていいよね。羨ましい。俺なんてまったく一欠けらも思い出せない。いや、これは俺は出会ってないない、うん、そうだきっと。記憶力が悪いわけじゃないよ? 出会ってないだけだからね? 虚しい言い訳で自分を慰める。


「二人ともおうて(会って)おるぞ?」


うぬぬぬ、青魚、青魚食べたら記憶力アップするんだっけ?! 

あー王国って海がないからねー魚食べないんだよー! 

何故かとっても悔しい思いをした。







「決定じゃ、儂は密命を受けて王国に来たんじゃて」



‥‥ガチだった。

マジで属国化の動きをしていた。

さっきの遣り取りがワンクッションになったのか心理的ダメージは回避できたけど。


帝国が本気で動いたのなら俺達ではどうすることもできない。ここでお祖父ちゃんに抗議したところで慰められて終わりだ。それに悪印象を抱かせて俺達が邪魔すると思われるのも避けたい。マジで。下手に逆らって自由を奪われる方が最悪だ。俺は咄嗟の判断で賛同したフリをした。


取り敢えず今は情報。考えるのは後でいいや。隣の義兄も大人しいから俺と同じ意見‥‥だよね? 裏切ってないよね? ちょっとお隣のお方を信じられなくて挙動が変になりそう。


‥‥いやいや惑わされるな俺。 義兄はこっちサイドだって。うんうん。


心の動揺を隠して『属国バンザーイ!!』な顔でニコリとお祖父ちゃんに微笑むと不意に自分達はお祖父ちゃんに試されてるんじゃないのって、勘が囁いた。試される様な覚えはないよ? 思い当たることもないし。でもね、目が合ったお祖父ちゃんの表情がね。その瞳に宿る真剣さがどうにも相手を見定めようと瞬きを惜しむほどの真摯さで。まるで面接官みたいな雰囲気だったから。


‥‥ああ、気取られないよう気を引き締めよう。兎に角、帝国が動く前(属国化)に、親父の契約魔法(血の盟約)を解かなきゃ。


温い生活に浸りきってた俺に、一喝を入れてくれたよね? 帝国。







お祖父ちゃんの語る内容は、()()()()()()()()()()工作活動が進んでいるらしい。


えー?! 協力者だって?! リアル売国奴! 裏切り者いるじゃん! 我が家の囮役って意味ないじゃん! もう、絶叫したいわ!! ふざけるなーーー!!




お祖父ちゃんの暴露で、すっかりやさぐれた俺。指をポキポキ。いっぺんその協力者を殴りたい。タコ殴りしたい。序でに飛び蹴りしたい。ああ踵落としやってみたい。やれないけど。しかしどうしてくれようこの荒ぶる闘志。これを抑えるには激甘なスイーツが必要だからね! 目の前のちまっこいお茶請けを頬張る俺の取り皿にそっと空間収納財布からリボンで結ばれた袋詰めのクッキーを差し出してくれる義兄は、素晴らしい。あ、そのレースのリボン可愛い。


口の中にモノがあれば不要な発言を回避できるはず。リボンを解いてクッキーに手を付ける。お祖父ちゃんのダメな子を見る目なんて、気にならない。ザクワン爺ちゃんの『夕食の後にお菓子を馬鹿食いすれば太りますぞい』って忠告は‥‥とても気になる。


話を誤魔化す?感じで、先程話題に出た軍人は、最初の廃村で俺達を誤って捕縛した頼りなさそうな軍人のことだと義兄が教えてくれた。もしかして話題転換は俺の怒りを逸らそうと気を使ってる?



連行された王国騎士の情報を元に別働隊が動いているらしく、ナイスなタイミングで王国騎士を捕縛した運の良い男と同僚達に羨ましがられたとかなかったとか。

お祖父ちゃん曰く、てっきりその情報も掴んで動いたのかと思ったと言われた。


‥‥うん、何のことかさっぱり。多分、ヴォルグフ達を囮にしたことだよね?


いろいろ隠し事や暗躍してるお方がお隣で静かにお茶を飲んでいたのを邪魔する形で小声で尋ねた。


『お義兄様、ご存じでしたの?』『ガザが連絡を取れとか言っていたけれど人手不足でね、接触していないよ。それに胡散臭い感じだったし』


義兄も知らないのか。


あの軍人から情報を得てはいないが、別に俺達は無策でヴォルグフ達を回収させたわけじゃない。相手の正体と目的を探るために陰ながら護衛役が守っているし、逃亡策を授けたこともお祖父ちゃんに伝えた。


「タッカーソンの倅は気にせんでええ。アレは餌じゃて。あの倅の身柄はジョージリアン(ファーレン家当主)が欲しがっておったがのう、回収できるのであれば好きに使えばよかろうて。ぬ? タッカーソンの当主とは話はついておるから気にするでないぞ」


‥‥え、何その両家の取引って。闇を感じるんですけど? まさか当主が人身売買とか? いやいやいや。知りたくても肯定されるとメンタルが可哀想になるので聞くに聞けない。


それにしても餌扱いかよ。

ヴォルグフって、隷属から解放されても転職先で似たり寄ったりな生活を強いられそう。彼の暗い未来が想像できて、しょっぱい涙がチョチョ切れた。


‥‥強く、心を強くして生きてヴォルグフーーー。俺には関係ない話だけどね。







「そうか、知らぬのか‥‥ふうむ‥‥」


獲物を補足したみたいな鋭い目つきで俺達‥‥あ、義兄をロックオンしたよ、お祖父ちゃん。良かったそんな鋭い視線を向けられたら泣くよ? ガチ泣きするよ? 嫌でしょ? お祖父ちゃん。



誘拐事件に関与(娘と孫にちょっかい)した王国騎士(出した下衆野郎)の情報じゃ、ラムよ欲しいじゃろ?」


めちゃくちゃニヤニヤしだしたお祖父ちゃん。明らかに挑発したよ。や、止めてよね! 隣から不気味なオーラが漂い出したからね! するなら俺の居ない時にしてよね!


「お義祖父様、国境を超える犯罪組織の情報は如何でしょうか。王国内を根城にしていた組織の持つ情報ですが、魔力保持者専用の人身売買組織と繋がりが深い者が持つ情報です。過去の被害者リストもあるやかもしれませんねえ」


細めた目は愉し気な雰囲気だが、笑ってないし、楽しんでもいない。二人のバチバチと躱される視線で人が死にそう。こ、怖いよー! ザクワン爺ちゃんに止めてもらおうと視線を向けると、既に置物化。じいちゃーん!







知らぬ間に開催されていた情報交換会。

ええ、無事に終わりました。俺の肝を散々冷やしてね。


義兄が差し出した被害者リストは帝国人ばかり。あ、これ交渉用に作成したんだなと腹に入った。抜け目のない義兄はニッコリ微笑んで引き取り先が動いてくれると助かりますとほざきおった。怒りを抑えるお祖父ちゃんの蟀谷に浮き出た青い筋が‥‥ミミズみたい~って、怖すぎて逃避したわ。


義兄は交渉上手なの? 

処分したかったリストだけで欲しい情報を得てホクホク顔の義兄。

うわー絶対義兄と交渉しないー!! そう心に刻み込んだよ。



「ふふ、どうやら神殿も一枚噛んでいたようですね」

「え? それってどういうこと?! 人身売買に神殿が関わってたの?!!」


またまた衝撃的な話だよ、これ。



且つてガサ入れした組織では神殿関係者の名は上がらなかった。当時、義兄も神殿の関りは考慮していなかったそうだ。それに義兄の目的は犯罪組織の壊滅とその組織を掌握すること。個人的にはウザい諜報員を追い出したかったって。


あー、これってレティエルの能力を知られないためだよね。過去にダルも潜り込んだ組織だ、どこで情報が洩れるかわからない。組織に狙われたレティエルを仮に帝国諜報員が救出したとしても軍のリクルートにスカウトされて社畜化で人生終わったかもしれない。青春も、お天道様の下を歩くことも、魔女っ子デビューも、指の隙間から零れ落ちるようにこの手から離れた可能性は大いにあっただろう。


‥‥組織マジ潰してくれてありがとー!! もう義兄に足向けて寝れない!(向けたことないけど)




今入手した情報には神殿の関与を匂わすものがあったと満足気な義兄が「これで潰せる」と魔王的な発言をなさいました。神殿に刃を向ける気満々の義兄ってマジ魔王。ん? 悪魔?

これにはお祖父ちゃんもビックリ。どっちに驚いたかは知らないけれど。


最近耳にする神殿の暗黒面。そういえば回復薬の横流しもあったよね。表向きは盗難扱いだけど、拉致った魔力持ちに与えるため組織に流したんだろうね。

この話を口にすれば義兄が、


「回復薬の製造もだけど、神殿こそ魔力が必要だからね。今の神殿のトップが魔力保持者否定派でねえ、どのようにして魔力や魔石を調達するのかと不思議に思っていたよ。まさか補填先が人身売買組織からとは。いやはや地に堕ちたか聖職者ともあろう者が」


嘆かわしいとめちゃくちゃ嬉しそうな顔で言われてもね、嘘っぽい。お祖父ちゃんも苦汁を呑んだ後の顔でガチガチがなってる。大分、頭にきてるよね。


神殿か~、過去に社会奉仕の一環でよく神殿にお邪魔してたけど、故前総神殿長に可愛がってもらった俺には悪いイメージがなかったからなーーー。ぽよよ~んと思い浮かべて見ても…‥あ、そう言えば母さんがレティエルに毒を盛ったのは神殿関係者だとか疑ってたよね。何だか一つ悪い話を聞くと他にもないかと穿った見方しちゃう。‥‥神殿? あれ? 何か引っかかって‥‥‥‥?!


「ジオルド様は?!」


思い出した! 王家専用の神殿に隔離されてるんだっけ!


「合法的に入手した王族の魔力保持者。()の方の魔力量は多い。囲い込んで一体何をする気なのだろうね神殿は」


熱の籠らない冷静な声色で淡々と言われると、禄でもない事を仕出かすのではと不安になるよ。この場にダルがいなくて良かった。彼が知れば心穏やかにいれないよね。


「ううむ、本当じゃったのか。ジオルド殿の身柄を確保できんかったのは痛手じゃが、まあ、属国化が済めば彼も救い出されるじゃろうて。軍部が欲しがっておったからのう。生きてさえいれば何とかなるじゃろ」


やっぱ情報は掴んでいたか。それにしても軍部に目を付けられてたんだね~。ん? それってダルが推薦したの? もしそうなら恩人を軍に紹介するのってどうなの? まさかレティエルもしないよね? 無きにしも非ずの可能性に気が付いてげんなりしちゃった。俺はダルさんを信じてるからね! 売らないでよ!


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