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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第十二章 分水嶺
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③・前世の記憶を取り戻した時以来の衝撃

誤字報告に感謝です。<(_ _)> 

ありがとうございました。

「でもお義兄様、上層部が関わってるとして、よく皇子殿下を招いたわね? もし、帝国貴族の拉致事件が明るみになれば帝国と軋轢を生むのではなくて?」


暗に王国側は馬鹿なの? と皮肉った問いだったのだが、冷静に切り返された内容に一々驚く自分の方が考えが浅いのかと、うぐぐと唸る。


「そうだね。仮にランチェスターが単なる買受人で商品の素性を知らず取引を行い、仲介者が犯罪組織であったために帝国の動向に注視できないでいたか。もしくは、クリスフォードを傀儡に仕立てた人物が帝国と王国の同盟に亀裂を齎す目的で、敢えて狙ったか。ククク、どちらにしろ帝国側が証拠を入手すれば、経緯云々どころじゃない。王国で帝国の高位貴族が監禁されていた事実さえ揃えれば攻め入る口実になるよ? 被害者はヴォルグフ達だけじゃなさそうだしね」


タ、タイミング良すぎじゃね? ヴォルグフ達の発見と皇子の訪問が偶然とは思えないんだけど‥‥。じわりと嫌な汗が背筋を伝わる。マッチポンプの疑いもチラッと脳裏を霞めた。


義兄のその達観ぶりは国家間の亀裂を予想させるに充分な気がする。


「ふふ、軍部の誘拐組織への侵入捜査はね、被害者救出だけを目的にしていないよ? 勿論、正義心からの組織の壊滅でもない。ああ、残虐非道な組織は撲滅対象だから安心して? それ以外、特に魔力保持者を狙った人身売買組織はある程度お目溢しされているよ、何故だかわかる?」


窺うように視線を送られた。


「それはね、軍部にとって有益な人材が手に入る環境でもあるから。ふふ、世論の仕打ちとでも言えばいいかな? 特に、婦女子は拐されたと噂が立てば傷物と瑕疵を付けられてしまう。たとえ事実無根でもね。わかるでしょ? あと男性も。訳アリ、社会的に居場所を失くした者などをスカウトするに都合がいい。それは加害者側にも適されるかな。軍部は才能あれば犯罪歴を気にしないから」


レティが組織に捕まらなくて良かったと心底安堵の義兄が‥‥うん、もう何も言うまいて。

サクサクと、とんでもない情報を漏らされた俺はキャパオーバーです。ホント、もう勘弁して下さい。衝撃的な軍部のヘッドハンティング。もうお腹いっぱいです。



「このままヴォルグフ達をお義祖父様に引き渡すのは…‥」


みなまで言わなくても俺にもわかる。お祖父ちゃんの、帝国の、思惑を図り知る知る大事さを。







―――魔力保持者を狙った人身売買組織は()()()()()()()()()()


「お義兄様、ヴォルグフ達をこの邸で発見したのって、本当に偶然かしら?」


いつから彼等は、お祖父ちゃんの密偵に発見されていたのだろう?


「ふっ、レティ、真実は明かさないでいるのも大切だよ?」


酷薄な笑みを浮かべて心の底から愉しんでいそうな義兄の言葉は…‥正論だろう。

興味本位で突いた藪からヘビどころかドラゴンが出れば国が亡ぶ。

俺達の予想が正解であれば皇子主導で言い掛かりを吹っ掛けるつもりでしょ? お祖父ちゃん。


知らないことが幸せって、世の中いっぱいあるんだ。そう自分に言い聞かせそれ以上の追求は控えた。









ーーーーーーーーーーーーー


夕食後の語らいの一時。まったりとしながらお祖父ちゃんとザクワン爺ちゃんに義兄と俺で後味スッキリのハーブティーをいただいている。


喉も潤いお腹もこなれた頃、孫と語り合いたいお祖父ちゃんが口火を切った。


「タッカーソンの倅の件、ご苦労じゃったな。二人の頑張りのおかげで()()()()()()()()()わい」


その言い回し。


「いやあ、まさか儂の部下を()()()()()()おったところにタッカーソンの倅が()()()()()()()とは思わなんだわ。捜索が難航しておったというに偶然とはいえ運のよいガキじゃ。それに()()()()()()()()()()()()できたしのう。ウワハハーーー」

「ええ流石はお館様でございます。ガザらめを()()()()()おいてようございました。あれで伝達がスムーズにいきましたからねえ」


やっぱりマッチポンプ?!

事前に義兄の話を聞いていなければ、額面通りに受け取ってたわ~。

それにしても回りくどいやり方したよね? 何で?


「お祖父様、一言『救出』とはっきり仰って下されば、もっと早くに行動したのに、どうして芝居めいたことをなさったの?」


まあ、スパイごっこ、楽しめたからいいけどさー。ぶちぶち。


「うお、おお、すまんかったのう。ちいと事情があって仕方なかったんじゃ」


シュンと項垂れるお祖父ちゃん、うん、可愛くない。いや、そうじゃなくて理由をね、教えてよ。

項垂れて反省した素振りで誤魔化す気じゃないかと半目になっちゃう。


そんな俺達の遣り取りをじっと静かに見ていた義兄が、


「お義祖父様、紛い物(裏切り者)の炙り出しに魔法術具を試作したので試してみませんか?」


わっ、悪魔の囁き!


紛い物の言葉に反応した老人二人の垂れ下がった瞼がクワッと持ち上がる。顔が怖いよ。


「そ、そうか、出来るのであれば、許可するで好きにせい」

「ありがとうございます、お義祖父様」



なんと、俺がリアルスパイ大作戦をノリノリで楽しんでいたら、自分の懐に潜り込まれてた! スパイ大作戦が現在進行形で俺達に適応されていたのか! 地味に凹んだ。お祖父ちゃんの回りくどいやり方はスパイの所為?



‥‥リアルスパイは、一体誰?!







お祖父ちゃん達は義兄の試作品に興味を持ってかれたのか、ワクワクしてるのが伝わってくる。物騒な内容の筈なのに、室内のこの和よう。ちぇ。


「若、怪しまれずに回収完了です」


俺の凹みは何のその。義兄の予想が当たったとジェフリーが報告にきた。お祖父ちゃんは緊急時でなければ邪魔しない男が現れたのだ、何事かと訝しみ顔が大魔神になっとる。


「家族水入らずの団欒中に、何とも無粋な。火急な用であろうな?」


人払いをしての話し合いを邪魔されたからなのか、不穏な空気を読み取ったからか。お祖父ちゃんの機嫌は頗る悪い。ジェフリーを睨め付けたことで室内にピリリと緊張が走る。


‥‥お祖父ちゃん、顔怖っ!


得体の知れない取り繕った笑顔の義兄も負けてはいない。嘘臭い貴族然の笑顔マシマシで迎え撃つみたい。さしずめ、大魔神VS悪魔‥‥って、人外じゃん。


―――クスリ。義兄の心の笑みが聴こえた気がする。


「お義祖父様、ヴォルグフ達は契約主の元に向いました。今しがた迎えに来た者と邸を後にしたとジェフは報告したのです」


「な、なんじゃとーーーー?!!」


ビリビリビリーーー

何かお祖父ちゃんの体躯からあり得ない濃度の濃い魔力が溢れ出たよ?!


ひぇっ?! 


大魔神の顔したお祖父ちゃん、驚きや怒りとか感情がない交ぜなのかとにかく顔が怖い。

ジェフリー、総毛立ってる?! 

対照的にザクワン爺ちゃんは日向ぼっこ(ぽかぽかほっこり)のジジイみたいだけど。


これには流石の義兄も顔色が悪いわ。


「何を悠長に申しておるのじゃ!! 直ぐに捕まえて来んか!! ええい、護衛達は何をしておったのじゃ?! ラムよ、これはお前の仕業じゃか?! 返答次第では処罰も有り得るぞ!」


ビリビリ流れ弾のような威圧を正面から受けても、怯まずお祖父ちゃんと対峙する義兄の胆力の凄さに脱帽した。素直に感心するよ、俺を巻き込まなきゃね。



「グッ! …レティが…怯えます。ご説明‥‥致します‥‥ので‥‥お怒り、を…お鎮め下さい」


うわ~ホント、大魔神っぽい。


気力を振り絞った義兄の言葉で、ニヤリと嗤うお祖父ちゃん。えげつない威圧攻撃がシュルシュルンっと納まった。魔力コントロール、めちゃくちゃうまいよね。


「ラムよ、儂を納得させるだけの理由があるんじゃな? 発言を許可する。言うてみい」


あれ? 全然怒ってない?? 余裕綽々で悪い笑顔してない? 

ザクワン爺ちゃんに至ってはコナキジジイ化してるよ?



「発言をお許し下さりありがとうございますお義祖父様。先ずは、これをご覧下さい。彼等の契約書を写したものです。お義祖父様、この名に覚えはございませんか? ‥‥ガザの報告には無い情報です」


差し出したのは、隷属の契約書を模したもの。勿論、翻訳バージョン。

顎に手を当て首を傾げるお祖父ちゃん、記憶を探ってみても聞き覚えがないそうだ。でも国名と同じ名から王族の一人と判断したのだろう。めちゃくちゃ良い笑顔で『上出来』と義兄を褒めた。


お褒めをいただいたご褒美??に、良い事を教えてやると上機嫌なお祖父ちゃん。一体何を教えてくれるのだろうか。ヒシヒシと嫌な予感しか迫って来ないよ? うん、マジでヤバイ雰囲気でございます。



「王国を属国にするぞ」

「「「!!!」」」



‥‥前世の記憶を取り戻した時以来の衝撃を受けました。


今回、長めです。

いつも悩む文字数。

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