国名
グスターファルバ―グ王国。王国の名前です。
グスターファルバ―グ王国が国名。
そして、国王陛下の名をローレスト・フォン・グスターファルバ―グ。王家にはフォンが付く。これは『統治者に相応しい者』を表す、王国独自の名である。
「お義兄様、この方にフォンがありませんが、グスターファルバ―グを名乗ってます。これって」
「ああ、これだけなら王位継承権のない王家の者と思うね。でもね、王家に連なる者の中にも、貴族名簿にもこの名はないよ。・・・考えれるのは、隠された人物か、名を騙った詐欺師か。けれど契約魔法に偽名は使えないからね。それを思うと本名に間違いない。だが、この名は」
俺はその事実よりも、義兄が貴族名簿に記載されている貴族の名を覚えていた事に驚いた。常々、記憶力がいいなあと思っていたけど、常識外過ぎない? 頭の中の構造が人と違い過ぎる義兄だけど、使い勝手もいいのだ。何と言うか一家に一人?な便利さに手放すのが惜しくなる。いや、手放せないね。
驚きのあまり、ちょっと逃避しちゃったかな。
義兄が王家の現状について教えてくれる。
王家は今、王妃(死亡)とその子(廃嫡)がいない。第一側妃には第二王子と第一王女が。第二側妃には第三王子と第二王女がいる。第一王子脱落後、後継者争いは第二王子と第三王子の二人と言われていたが、最近ソレに変化が生じた。
なんと、第三王子と帝国の第二皇女の間に婚約の話が上がり第三王子が次期国王に一歩リードかと思われた・・・のだが。
『第三王子は帝国学院に留学予定である』この話で、第三王子は後継者から外された可能性を示唆する貴族が多いのだと。
当初、この皇女のお相手はライムフォードとされ、挨拶に帝国を訪問したのだ。王国側も仲介役の母さんも、ライムフォードの訪問は締結のためだと思われていた。でもそれが、蓋を開けてみれば、お相手は第三王子に代わっていたって。
・・・母さんが激怒してたね、ライムフォードに対して。
・・・ん? 後継から外された可能性って、第三王子は婿入りするの?
えっ? まだ決まってない? それってどういうこと?
この宙ぶらりんな感じ、なんと、ここで皇室の後継争いが関係してくるそうだ。
どういうこと?
この皇女は難ありと評されているのだが、同母腹の兄を推す派閥と正室の皇子を推す派閥が現在揉めに揉めているらしい。最終決定を下すのは皇帝だけど、それまでは皇子たちは実力を誇示しなければならない。割と弱肉強食な後継選別なのだって。うぇ・・・怖っ。
第三王子との婚約が兄皇子の追い風になるのだろうか?
これがライムフォードであれば、かなりの追い風になったとガザが教えてくれた。皇帝陛下の覚え目出度き王国の第二王子ってのがライムフォードに対する評価だって。そりゃ、追い風も追い風だよね。
俺がのほほ~んと聞いていたら、『お嬢様も巻き込まれる可能性をお忘れなく』と釘を刺された。それってどういうこと?
後継者には本人の実力もあるが、伴侶の力や家の権力、そういった諸々が加算されての選抜。皇室どころか上位貴族あげての荒れ模様に陥るのだと。現に今がその状態。荒れに荒れた皇室だって。
ああ、だからお祖父ちゃんは王国内で足止めさせたのか。
暗躍や妨害工作とか、血生臭いことになってそう。くわばらくわばら。
おっと、話が逸れちゃった。
縁組の相手が変更された経緯は不明。政治的配慮とは思われるがなんせ、皇帝とライムフォード二人の話し合いだったらしく、内容を知る者が当事者しかいない。何たることか。これも例外中の例外。それだけライムフォードを買っているのだろうと義兄は苦虫噛み潰した顔で言う。
「実は私が帰国する前までは、第二皇女は我儘で思慮不足と評されていてね。ライムフォードに執着して追い駆け回していたかな? 私も何度か話したが、その時は色々足りない印象だったね。でもね」
ライムフォードに執着していた彼女が第三王子にすんなり鞍替えするのか引っ掛かっているのだと。それに淑女らしからぬ言動を繰り返す彼女だが、同母腹の兄を中心とした派閥貴族との結束は固い。それを見ても彼女の悪態は演技の可能性があるのでは? と語る。留学時代、興味がないの一言で皇女を視界から排斥。ライムフォードに降り懸かる火の粉は本人が払えば良いと本気で思ってたって。
・・・うわぁ、側近候補だったのに、やる気なかったんだ。
今更ながら、義兄が不敬罪にならなくて本当に良かったとつくづく思う。
「帝国も王国も後継に関して何やら動きがあったようですね」
「えっ? ガザ、それどういうこと?」
思わせ振り発言は止めてよね。ちょっと睨んじゃったら、義兄が可愛らしく見つめるのは止めなさいと注意してきたけど、何だよ、不機嫌さの表明じゃん。
「これ以上は皇室の内情に繋がる。私達の範疇から逸脱するのは避けたいかな」
義兄の軌道修正で意識は王国、隷属の契約主と判断した人物に注視される。
俺はガザが何か掴んでいると思うのだが、ソレを突くと要らぬ災いを招きそうでちょっと怯む。




