ランバードの失態
―――今日の義兄はよく喋る。
「それでねレティ。君の葬儀は昨日終わったよ。私としては荘厳に執り行うべきだと主張したんだけどね。時間を掛けれなくて慎ましやかになったんだ。ほら、これが葬儀の写真だよ。綺麗に撮れているだろう?」
義兄はこれでもかと言わんばかりの笑顔で写真を見せてくれた。
なにが悲しゅうて自分の葬儀の写真みなあかんねん!
義兄は続ける。
「ほらレティ。見てご覧。参列者を隠し撮りしたんだ。結構上手く撮れているだろう? ふふ。カメラをね、改良したんだ。おかげで調査に役立つよ。これもレティがカメラのアイデアを出してくれたからだね。私の天使なレティは斬新で商才もある。素晴らしいよ。また新商品のアイデアがあればいつでも教えて?」
そう。カメラは来たるべく断罪イベントに必要だから義兄に開発してもらったんだ。
俺? 作れるわけないだろう。そんなチート知識はないよ。平凡だもん。
ざっくりこんなのが欲しいって上目遣いでお願いしたら二つ返事で作ってくれた。
帝国なら熟練技術者がうようよ居るってんで義兄帝国まで行ってくれた。
その節はお世話になりました。まぁそれはおいといて。
義兄? 盗撮したの?
えっ? ストーカー(疑惑)だけでなく、盗撮?(犯行自白)まで‥‥
‥…知らなかった。義兄危ない奴じゃん! 変態じゃん!
侯爵家大丈夫かよ。
盗撮のインパクトが強すぎて疑問だらけの話に突っ込み忘れボケっと義兄の顔を眺めていたら‥‥。
突然義兄が俺の頭に口を付けた。
がっがががーん! 新たな攻撃に俺は呆気なく撃沈。
もういろいろ終わった。俺の第二の人生。あっさりと。
義兄。俺の葬儀を済ませてから暗殺ですか。やり手っすね。
もう俺天に召されていいかな‥…
――――――――――
部屋の外が慌しい。誰かが来たようだ。
「レティエル。待たせたな。さぞや寂しい思いをしただろう。もう大丈夫だ。全ての算段は済ませたぞ。不自由な思いをさせてすまなかった」
親父―!と救助隊の皆さんー!
助けが来たー。
親父の他にも公爵家の面々が。
知った顔に安堵して涙腺が緩んでしまった。
後ろに控えていた俺の幼い頃からの侍女の顔を見た瞬間、俺の我慢に我慢していた涙腺が決壊して彼女に必死に抱き着きながらえぐえぐ泣いてしまった(はずかし)
「これは‥…一体全体何があったのだ。我が愛娘がこれほど泣くとは。ランバード‥‥いやラムよ」
うわお。
親父の静かなその声に泣いていた俺の涙が怖すぎて止まった。
親父の怒気を存分に含んだ声が義兄を捕らえる。
‥‥義兄の愛称呼び。
俺もそうだが義兄も子供のころ、親父から愛称で呼ばれていた。
俺は王子の婚約が決まった時、義兄は親父が認めた頃から呼ばれなくなったっけ。義兄は親父に認められたと言って喜んでいたっけ。
それが今、親父は義兄を愛称で呼んだ。
‥…ああ、義兄やばいんじゃね? 消滅させられちゃうよ? ぷぷぷ
俺は(親父のおかげだけど)義兄に一矢報いれた気分だ。
ゴリゴリ削れた俺の何かが取り戻される。フフフ~
俺は救助隊の皆さんのお陰で生還できたのだ。ちゃんちゃん。
――――魔王降臨
‥‥悪魔は魔王によって倒された
‥‥こうして世界の平和は守られたのであった
‥‥魔王によって
なんてね。へへへ
早く帰ろうよ