お前か!
犯人登場です。
―――拉致られてから1週間。
相変わらず丁寧に扱われている。
これは俺に害をなすのが目的ではないと思う。
おそらく目的は俺ではなくて親父の方だと思う。
王妃かと思っていたけど、彼女ならこんなまどろっこしいことはしない。
性急に結果を出そうとする人だ。
俺を手元に置いた状態で放置はしないな。絶対に直ぐに接触を図る。
‥‥ということは王妃ではないのか?
なら一体どこのどいつだ?
親父の政敵に間違いないだろう‥…
待て。本当にそうか?
目的がわからない。
何故何も言ってこないんだ? 拉致犯何してんだ?
時間だけが無為に過ぎる‥…。
親父は俺を捜しているよな? 見つけられないのか? あの親父の力でもか? もうそれだけで犯人がとんでもない大物だと思える。王族…か?
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俺、軟禁初体験だわ。
いやいや、それより拉致なんて一生経験したくない。
ゲームではレティエルの死亡はサラッと暴漢に襲われてとしか表記されていなかった。だからこれは俺の知らない展開だ。唯一のアドバンテージが使えない。それが俺の不安を一層掻き立てる。
マジか。先が見えないってこんなにも不安で心配するんだ。
負の感情が俺の心を弱らせていくのがわかる。
こうやって何もせずにいると碌なことを考えない。
今まではストーリーを知っていたから先回りできたんだ。
結果さえわかれば上手く立ち回れる。全知全能感に錯覚していた。
我ながらの馬鹿さ加減に呆れる。王子を馬鹿に出来ないわ。
嘆息。
‥…気を取り直して。
今俺がするのは落ち込むことではない。よく考えろ。わずかでもいい。推測するんだ。
ゲームルートはどれに分岐したんだ?
レティエルが関わるルートは第一王子、義兄、ああ第二王子もだ。
この3人だけ。
第一王子退治済み。義兄回避済み(希望的観測で。だったらいいな的な)。第二王子はマリエラ撃退済みだからルート自体発生してない。よな? …後は、ああ王妃か。
王妃の存在が離れない…俺が手放せないんだ。きっと。
ふー。親父まだかな‥…。
…もうよくわからん。こうなりゃ出たとこ勝負だ。
ああそうだよ、開き直りだ。悪いかよ。くすん。
メイドちゃんが俺を呼びに来た。
―――主がお呼びですと。
‥‥いよいよお出ましか。
もう気分はアレだゲームのラスボス登場を待つ心境だよ。
被害を被ることはないだろうと高を括っているがそれでも不安は拭えない。
これから相見える相手だ。緊張で手が震える。
目の前の扉を開ければ犯人がそこにいる。
‥…俺をここまで翻弄したんだ。絶対仕返ししてやる!
扉が開き促されるまま部屋に入る。
犯人(暫定)は窓際に立って外を見ているようだ。俺からは後ろ姿‥‥しかも逆光でよく見えない。後ろ姿を見ただけで俺の胸がドキドキする。トキメキじゃなくて。もっとこう…恐怖だ!恐怖を味わった時のようだ。
ああ‥‥心臓止まりそう‥…。逃げたい。
そいつがゆっくりと振り返った。
「あっ!」
驚愕で声をあげてしまった。だけど次に続く叫び声は呑み込んだ。さすが俺。叫ばなかった俺を褒め称えたい! メイドちゃん! 許すから俺を褒めて甘やかして。
かわりに心の中で叫んでやる!!
お、おおおまえ、かあーーー!!
「やぁ、レティ。会いたかったよ。1週間も一人にしてすまなかったね。さぞ寂しい思いをしただろう。ああ私が来たからにはもう大丈夫。心ゆくまで甘えていいからね?」
‥‥母さん母さん 悪魔がいるよ
‥‥目の前に
‥‥ここは悪魔と妖魔のサバトだったよ
‥…俺、生贄にされちゃうよ
俺‥‥絶望って初めて知った‥‥…身をもって知った。いまここで。
義兄(犯人確定)はシレっと言ってのけやがった。
そして悪魔な義兄がそれはそれは…もうそれはとっても幸せなお顔で俺に近付いて来た。
いやぁぁぁぁぁーーー! 来るなーー!!
―――恐怖のあまり気絶した。
数話程度の予定でしたがまだ続けています。
もうちょっと続けようかなと考えています。
評価いただけると嬉しいですね。舞い上がってます。
頑張れます。
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