捏造 義兄視点
「…‥‥一人の女性を巡る痴情の縺れ? は?」
は? 何と?
ダルは私に呪詛を掛けたのですか?
ああ、何と恐ろしい! 身の毛もよだつ呪詛ですよ呪詛!
身の毛のよだち過ぎで私の心の臓と呼吸が一瞬止まりました。
「主…‥主…‥」
「‥‥あのぉ‥‥若君? 若君‥‥ギウ殿、これは?」
「‥‥主? …‥反応がありません」
「ええ?! ど、どうすれば…‥」
「‥‥どうもこうも‥‥主、主!」
二人の呼び掛けで正気を取り戻せましたが‥‥
「はっ?! ‥‥私としたことが。‥‥何でしょう、穢された気がします」
「主‥‥」
「若君…‥捏造ですので…お気を確かに」
ふうぅぅぅぅぅぅぅぅ‥‥
湧いた殺意と憎悪を、息と共に吐き出しましょう。
いけませんいけません。どうも怒髪天を衝くほどの形相をしていたようですね。
お前達の怯えた表情で我に返りました。ああ、お恥ずかしい…‥コホン。
「…‥何ですか、三流作家が書いた大衆劇みたいなお話は。酷すぎますね」
供述内容の酷さに頭が痛くなります。途轍もないほどの悪意を感じますね。
聞かされた話によると、王弟閣下だけではなくザックバイヤーグラヤス家も貶める、そんな意図がありありと見えます。
ああ、王妃もでしたね。彼女もこれで酷い醜聞に晒されるでしょう。
ダルの聞き出した内容は。
『若かりし頃の恋人だった王妃と不義の子であるクリスフォードの復讐のためにザックバイヤーグラヤスの娘と養子である息子を人を雇い殺害したと自供。現在、謀反の首謀者として追及中。なお、娘に関しては誘拐目的で襲わせたが、誤って死亡させたとして殺意を否認。息子に至っては王妃の若い恋人である彼を妬み、嫉妬に駆られての犯行と供述』
供述内容に聞き捨てならない部分がありましたが、それについては。
『クリスフォードは紛れもなく陛下と王妃のお子であると判明。そして昔も今もジオルドと王妃の間に男女の情はなく男性側の一方的な恋情である。王妃の恋人の存在は確認できず事実無根であると認められた。妄想が生み出した結果による犯行』
作為が見え透いていますね。
…‥くだらない筋書きを書いた塵虫は自殺願望の持ち主でしょうか。
私が、王妃の若い恋人? はっ? 冗談でも許せません。
妄想でも捏造でも許容範囲を超えています、余程、私の手にかかり往生したいのでしょうね。ふふ、楽に死ねるとは思わないで下さい。
ふふふ、これは私への挑戦ですね。宜しい受けて差上げますよ。
ですが犯人を捜すのも面倒です。
もういっそのこと王都を攻め落としましょうか。
広範囲攻撃用魔道具に補助機能魔法陣をつければ少数でも攻め落とせます。
いえ、それよりも両陛下をさっさと始末すれば? ギウ、やっておしまいなさい。そうすれば鬱陶しい三公爵も‥‥‥ああ、ダメじゃないですか!
義父上も巻き込まれてしまいます‥‥ああ、口惜しい!
「わ、若君! 落ち着いて下さい! いきなり国家転覆謀らないで下さい! あっ、ギウ殿も、その気にならないで下さい! お願いです、早まらないでー」
他人の慌てふためく姿は何とも滑稽で、冷静になれました。
ですが、ダルは良く私の考えが判りましたね。聡い男だと思っていましたが、えっ? 声に出ていました? ああこれはこれは。お恥ずかしい。感情に任せて胸の内を曝け出すとは。私もまだまだ未熟者です。
お前達、この事は内密に。いいですね。
因みに、謀反の計画を告発したのがザックバイヤーグラヤス公爵家の侍従だとされ、その侍従は幼少時拐された某貴族の子と判明し、近々正式にお披露目されるそうです。
‥‥この拐された子は、間違いなくエリックを指していますね。
もしや、義父上の知らせにあったエリックのお披露目は、このことでしょうか。
まさかご落胤ではなく誘拐された伯爵家の子としてお披露目ですか?
ヴァンダイグフ前伯爵当主は何を企んでいるのでしょうか。
真実の一欠けらもありませんでしたね。本当に捏造だけでした。
「ダル、この話は義母上もご存じですよね。何か仰っていましたか?」
「‥‥いえ、あっ、笑っていらした。後は城内に探りをいれると」
「笑って‥‥ですか。そうですか」
エリックについて言及はなし‥‥ダルに聞かせる話ではないと見てですか。
城内を探らせるにしても、現在、王城内の警備が強化されているのはご存じでいらっしゃいますよね。
少し前に王妃の離宮の人事異動と警備体制の見直しがなされ、次いで王城内も見直されたのです。公爵家の手の者も寝返らせた者も警戒しています。容易に連絡がとれないのですが…‥対策済みでしたか?
お読み下さりありがとうございます。