別行動の裏側 義兄視点ー①
「では報告を」
この領邸を制圧するために集まった配下の者…‥共に行動をしていた者以外に裏で動く者、情報源の密偵、そして私を欺く者が、私の言葉を待っています。
今は時間が惜しいので先ずは報告を受けましょう。
「はっ。邸内の者、標的以外は全て眠らせました」
ハイデ達には情報源の密偵と共に邸の制圧を命じましたが、上々です。
私は血を好む戦闘狂ではありませんよ。武力の無駄遣いは好みません。無血で無力化に適した能力を持つ者がいるのです、使わない手はありません。
ふふ、見事な手腕でした。睡眠薬の散布と聞きましたが一人も漏れなく(標的だけは除外ですが)眠らせるに至る才は素晴らしい。
私は引き続き次の報告を促します。間を開けずに報告しなさい。
「地下室で拘束されていた二名を発見、保護致しました。二名とも隷属の契約で縛られています」
報告者はライオネルです。
義母上の護衛で王都邸に向っていましたが、義母上の密令を持って同行者と共に戻って来ました。ええ、そうです。私に仕事を持ってきたのです。
‥‥何故私が彼等の救出をしなければならないのでしょう。疑問も不満もありますが義母上からの指示です。致し方ありません。これも点数を稼ぐためです遣り遂げましょう。…ええ、保身のためですが、何か?
ですが困りました。ええ、非常に困る案件です。
隷属の契約ですか…正確には『隷属の魔法契約』、要は奴隷契約です。
私も史書で知った程度で、詳細は存じません。
確か『契約者の心の臓を魔力と術で縛り生殺与奪の権利を掌握される』でしたか。主には絶対服従。戦国の世、戦争奴隷に施した邪法の禁術。そう記載されていたと記憶します。勿論、今の世、殆どの国が禁術と定めています。
しかし、その邪法を人に行使し剰え使役ですか、とんだ糞野郎です。
私はこの術を施した人物に嫌悪します。いえ、嫌悪が過ぎて憎悪でしょうか。
魔術の冒涜ですね。このような非道な邪法、許せません。
ですが、今回、隷属の契約魔法を行使する者の存在が判明したのは僥倖でした。
最適解は使い手の捕縛と契約魔術の術式解明ですが、どこの国が関与しているのか現段階では不明です。致し方ありません。不測の事態に備え解術の方法を探りましょう。
ふふふ、丁度良い事にうってつけの者が二名います。ほくそ笑みますね。
私の悦に入る表情を見たギルガの怯えた顔が目に付きましたが、何か?
「若君、あの報告を‥‥」
‥‥そうでした。
「不審者二名‥‥睡眠薬の投与で朝まで目覚めません」
潜入の密偵の事前報告にあった国籍不明の人物ですね。
皆、腑に落ちない表情です。それも仕方ないことでしょう。
‥‥腑に落ちないのは私もですよ。
クリスフォードを今の今まで放置‥‥いえ、領主に就任させたのは陛下と四公爵家の都合です。それは決して贖罪の機会を与えたのではなく、クリスフォードの背後関係の調査の為、執行猶予を与えたに過ぎません。
要は囮です。
あの男が起こした一連の事件。調査の結果、他国の工作活動の線が浮上したのです。取り敢えず、クリスフォードを泳がせて様子を見る事になりました。その為に甘い処分(仮)で済ませたのです。
それにしてもおかしいですね。クリスフォードは王家の監視下に置かれていました。いつから監視が解かれたのでしょう。この件は陛下と四公爵の間で決まった事案です。それなのに義父上に解除の一報がないとは。これは裏切り者がいると勘繰られても仕方がありませんね。