一人多くない?
俺達が領都の宿に到着したのは夕暮れ間近。
裕福な商人が利用する宿らしく建物も綺麗で調度品も品のいい物を揃えていた。
これでもランクは良いのだろう。
この国では、他領の貴族が訪れる場合、大体は挨拶も兼ねて領主の館に滞在するのが習わしだ。
それ以外となるとお忍びの貴族、身分を隠し宿場街で泊まるものだ。
王都や大領地でなければ中々貴族が泊まれる宿は見つからない。そんな事情もあって貴族が満足する宿は数少ない。
それを思えばこの宿は良いと思う。
用意された部屋は宿で一番いい部屋だって。室内は清潔だし、ゆっくり休めそう。及第点かな。お風呂は希望すれば用意してくれる‥‥期待していなかっただけに嬉しさ倍増だよ。
「レティ、部屋はどうだい? 泊まれそうかな」
「お義兄様、はい。ありがとうございます。思ったよりも綺麗な部屋で良かったです」
「ふふ、それは上々。今日は疲れたね。部屋で食事を摂って早めに休みなさい。買い物は明日一緒に行こう」
「お義兄様、わかりました」
そう言って部屋を出て行った義兄。
明日、街に繰り出すことが決定した。他領の街並みを見る機会ってそうそうないからね、例えクリスフォードの領地でも興味はある。
だけど、物価が高騰してるんだよな‥‥ちょっとイヤかも。
ハイデさんは護衛としてこの部屋に居てくれる。
独りじゃないのは有難い。
俺はソファで寛ぎながら、情報過多な出来事を思い出していた。
そうだよ、うっかり有耶無耶にされちゃったけど、ジオルドの冤罪。
これは義兄の暗殺の首謀者にされちゃったんだよね。義兄も偽装死で姿晦ませ俺と同行している。理由はこの国を出て帝国に逃げるから? 両親の事は信じて待つように言われた‥‥その言葉を信じるけどさぁ
俺の知らない事、沢山あるよね‥‥
母さんには義兄を信じてと言われたんだ。『ラムが不憫に見えるからね、ティ、あの子は貴女を大事に思っているのよ。それは子供の頃からずっとよ』『貴女もだけどラムも幸せになって欲しいからね』馬車に乗せられあの廃村に付く迄の間に母さんは気持ちを吐露した。
そう…なのかな。
ずっとゲームシナリオを気にして、何とか断罪イベントを回避しようと躍起になっていたから、義兄に対しては色眼鏡で見ていたのは事実。
そうだよゲームとは別な世界だって、俺もわかっていた。
だけど、頑なに信じていた。
そうだよね‥…ここはゲームの世界じゃない。
義兄もゲームキャラじゃないんだ。当たり前だけど。
…‥今更だけどちゃんと義兄と向き合わないと駄目だよね。
ふぅー
考えたら義兄とゆっくり話す時間って無かったかも。
それなら折角だし、ちょっと話す時間もらおうかな。
有耶無耶にはぐらかされた話もあるし、いいよね聞いても。
よぉし、聞いちゃえ!
義兄の部屋に突撃だー!
「ハイデ、お義兄様とちょっとお話してきます!」
「えっ? お嬢様、今からですか?! あ、明日になさいませんか?」
「いいえ、今が一番いい気がします! 行きますよ」
「あ、お嬢様、お待ちください!」
ーーーーーーー
トントン、
「お義兄様、お話がありますお時間下さいませんか」
ギルガが慌てた様子で扉を開けてくれた。
「お、お嬢様‥…」
「お義兄様は? もしかしてお休みだったの?」
「レティ、どうしたの。お入り」
「お義兄様、突然ごめんなさい。どうしてもお話…‥って、あれ? 人増えてません?」
部屋に入ると見知らぬ男が一人増えていた。
…‥えっ? 一人多くない?!