義兄の身分
「若の実力ご存じなのって一部の高位貴族ですよね。それこそ第二王子殿下や四公爵の当主様達。後は‥‥ザックバイヤーグラヤス本家。大体の人は若って文官だと思ってますしね~、この国の奴等って馬鹿ですから。本国はしっかりご存じで囲い込みしちゃってますもんね」
「えっ? えっ? ジェフリー貴方何を言っているの?」
何の話をしているのだろうかジェフリーは。義兄の実力って何?
本国って‥…えっ、もしかして帝国の事?
ジェフリーも帝国人なの?
ふぇ、もしかしてここにいる人達って全員、帝国人? 義兄は王国人だよね?
ちょっと訳が分からなくなってきた‥…
「あ、あの発言、宜しいでしょうか」
ギルガが挙手して己の存在を思い出させてくれた。いたんだっけ? すっかり影が薄くなってたから忘れてたよ。ごめんね~
「何ですかギルガ」
「あ、はい。若君は‥‥死亡と見做されたと見て宜しいのですか? そうなると若君の身分証明はどうなりますか。このまま帝国に出国なさるにしても国境で身分証が必要になります。もしもの場合を考慮して新たな帝国人の身分証をお作り致しましょうか」
「ふむ、真面な人物がここにいましたか。これは良い拾い者をしましたね。ふふギルガ、心配には及びません。私のもう一つの身分を使いますから」
「左様でございますか、‥‥それは帝国貴族籍であるファーレン家で、ございましょうか」
「ふふ、流石だね。紋章付きなだけはある。そうだよ、ファーレンの名を使うから問題ないだろう」
「お義兄様?! えっ、ファーレンと言えばお祖父様のお家ですわよね? どうしてお義兄様が、その名を?」
「レティ、私が帝国留学した時にお義祖父様が身元保証人になってくれたのだよ。その時から使用を許されているよ」
「へっ? それお父様はご存じなの?」
「ああ、勿論だよ。私が義父上に内緒で何かすることは無いからね。義母上も、ふふ薦めてくれたのは義母上だから。ちゃんと義両親の了承を得ているよ」
「ふぁ~知りませんでした。ではお義兄様、帝国でもわたくしのお義兄様なんですね!」
「…‥‥‥‥‥ソウナルノカナ」
何だろう返事にかなりの間があった気がする。
ハイデもジェフリーも笑顔だけど‥‥ギルガは固い笑顔だ。
何か俺、不味い事言った?
「ゴホン、で、でしたら若君のご身分は‥…」
「ああ、ランバード・ファル・ファーレン公爵家の子息だね。そうだね今後はこの身分を使うから、そのつもりで。レティも同じファーレン家でいいだろう」
「レティエル・ファル・ファーレン公爵家の娘ですわね」
「ああ、そうだね。お義祖父様は当主を引退されているから私達はそのご子息、義母上の兄君である現当主の養子になるからね。覚えておいてレティ。いいね」
「はい。お義兄様」
「君達も、ファーレン家の護衛だからね」
「「畏まりました」」
取り敢えずの身分は大丈夫だな。これで本当にレテェルは帝国人か‥‥。
でも、これでいいのかな‥‥ザックバイヤーグラヤス家ってどうなるんだろう。
レティエルも義兄も籍が無くなった。これは予想外だよね。
何の解決もしていない状態で帝国に向かう事になったけど、果たしてこれでいいのかな。母さんは一刻も早く帝国に行くよう勧めてきたけど、母さんも親父もそれでいいのかな‥…まさか、このままもう会えないってことはないよね。
何だかめちゃくちゃ心配になって来た。
俺は疑心を拭うように義兄の顔を見た。
何となくだけど、義兄に任せれば上手く行く気がしてきた。
「レティ、心配しないで。今は時期が悪いから静観しているがきっと必ず状況を打破して義父上や義母上と無事再会させるからね。それまで私を信じて待ってくれるかな?」
「お義兄様‥…はい。わかりました」
「ふふ、ありがとうレティ。君の了承を得れて一安心だよ」
義兄もレティエルがどう思うか、不安に感じていたようだ。
漸く、ホッと一息を吐けたのか義兄が、
「ではギルガとハイデに領都の偵察を頼もうか。レティが宿泊出来る宿も見つけてくるように、いいね頼んだよ」
「「はっ!」」
彼等に命令する。
有耶無耶にされた気がするけど、実際、今の俺達では手が出せないのは事実だ。
俺も馬鹿じゃないから無謀な事はしないよ。
それに途中で情報量が多すぎて付いて行けなくなったのもあって、深追いは止めたんだ。
今必要なのは国境越えで疑われない正真正銘の身分証。
その身分証を持っているなら、それでいいか。
俺がわからなくても義兄がわかっていれば、万事OKだよね。
もう、そう言うことにしておこう。