ギルガの正体ー①
「漸く静になりましたね。ではそろそろ正体を白状してもらいましょうか」
「えっ? お義兄様? 彼の正体とはどういう‥…」
「レティ、怖がらせてごめんね。大丈夫だよ。敵ではないから安心して。彼は私達に真実を隠して近付いたからその理由と正体を教えて貰うだけだからね」
イヤ、全く笑っていない目で安心してと言われて安心する奴はいるのだろうか。
でも偽装を見抜いた義兄を信じて任すしかない。義兄って騙し騙されって得意そうだし。人の裏をかくの好きそうだし。出し抜くのも好きそうだし。
俺には向いていない。現にギルガを疑うことなく信じてたのに。
信じていた奴に裏切られた時の失望感は大きいのだぞ、くそ―お前なんて義兄に泣かされろ。
「では素直に明かしてくれると私も助かるのですが貴殿もそう簡単に正体を明かしては上司に申し開きできないでしょう。ですがこのまま知らない振りと言うのは気に食わないので、私が言い当てます。貴殿は嘘を吐くのを止めるだけで良い。これなら許容範囲でしょう?」
「ムグゥグ‥‥‥」
「貴殿一人ここに置いて出発しても私は構いません。それだと不味いのは何方でしょうね」
「グウ」
「ふふ、了承ですね」
あっこれ、ギルガの正体知っているな? 知っててこれやってんだ。さっきから口調も改めてるし。本当、こいつ苛めっ子だよね。
「さて、貴殿は情報部の連絡係と名乗られましたが違いますね。何故身分を偽って連絡係などと下っ端な立場を取りましたか。我等が油断すると思いましたか。甘く見られたものだ。まあ今回はいいでしょう。‥…では続けましょうか。貴殿は武人、それも武官の出だ。大方、皇城勤務なのでしょう。単身王国に乗り込むとは腕は相当と見て間違いないね? では腕の良い武官が単身で動く理由となると逆らえない人物から命令されたのでしょうね。こんな無茶な命令を出せる相手ですか‥‥ふむ、やんごとなきお方?」
「ゴブゥ‥‥グフゥ」
ギルガ、真っ青だけど大丈夫?
義兄の追求、まだまだだよ?
「‥…ふぅむ、貴殿が我等と‥‥いえ違いますね、レティと接触を図ったのは何か我等にさせたいがため? 単にレティの身の安全を考慮してとは思えませんね。彼女を使おうだなんて‥‥まぁいいでしょう。それが許されるお方なのでしょうね。貴殿の上役様は」
ギルガは真っ青になりながら義兄を恐ろしいものを見る目で見ていた。
ああ、わかるわかるよその気持ち。恐ろしいよね~この人。
でも騙したんだから、もう少し恐怖を味わってね!
「ふふ。私の読みは外れていないでしょう」
「…‥‥」コクン。
意外と素直なギルガに義兄も酷い仕打ちを続ける気はないのか。
「では次に。大人しくしていれば拘束ぐらい解きますが、抵抗は‥‥」
どうやら本当にギルガは諦めた様子だ。
「ハイデ、解放して差上げなさい」
「はっ!」
椅子に座らされ拘束を解かれ、お茶も用意されたギルガだが、すっかり意気消沈な彼に哀愁を感じる。これは相手が悪かっただけだから、どんまーい!
俺もちょっとは溜飲が下がった。これぐらいで勘弁して遣ろう!
「では続けましょうか。貴殿は‥‥腕のいい武人で長期に職場を離れても問題にならない職場の様ですね。融通の利く上司か仲間か。数人乃至単独任務が可能な部署で人が長期で抜けても良い環境‥‥でしょうかねえ。ふむ、そうなると」
「あ、あのぉ‥‥‥どうして私が武官だと‥…」
「ああ、そのことですか。簡単ですよ。‥‥携帯食です」
義兄の答えが意外だったのかギルガは呆気に取られていた。俺もだけど。
「お義兄様‥…携帯食とは? 先程食した食事のことでしょうか?」
「ふっ、流石、私のレティだ。そうだよ」
「ま、待ってくれ、食事がどうしたって言うのだ? わかるように説明してくれないだろうか」
「‥‥‥はぁ、まだ判らないのですか。仕方ありません。貴殿は騎士として従軍の経験があおりなのでしょう。その時に携帯食を食した経験があったのですね。だが今は携帯食を口にする職場ではないのでしょう。そうなると内勤、城務め。
どこかの領地に仕える者だと言うのは考えられません。それは説明は省きますが。普段は遠征や討伐に参加せずともよい職場なのですね。だから携帯食の味を不味い物だと記憶したままなのでしょう」
「はっ? 携帯食は味が不味いのが難点だ。それが?」
「ふ、知らないのですね? 味の改善が行われ、今ではそれなりに美味しく食せるのですよ」
「はあ?!」
「ですから貴殿の情報は古いと言う訳です。情報部の者とは思えないミスですよ。ふふふ、折角ですからもう少しお話しましょうか。貴殿の目の前で抜刀したのも武人かどうか判断を付けるためでしたが‥…これは上手く誤魔化しましたね。私も悩みましてね。それで食事を振る舞う事に致しました。結果、貴殿が武人であると判明したのは運が良かった」
「ま、まさかそのような理由で? 私を武人であると見抜いたのですか‥‥」
うわー、ごっそり何かやられたよギルガ。
わかるわかる。だって携帯食で足が付くとは思わないよね。
痛恨のミスだねーどんまーい。
可哀想過ぎるからハイデさん、お茶のお代わりしてあげて。
「ふふふ。後は身のこなしと言ったところでしょうか。どうですか何処か間違いがありましたか」
「‥…いや、正解だ。武人…武官であるのは間違いない」
「ふふ、やけに素直になりましたね、まあ良いでしょう。では続けましょうか」
楽しんでいるよね? 義兄ってやっぱ鬼だわ。