ダルと御者の男
ガタゴト、ガタン
『どうやら着いたようですね奥様。如何致しましょう。我等で攻撃に出た隙を突いてお逃げなさいますか』
『いえまだよ。敵か味方か判別できない今、迂闊な行動は止めておくわ』
『『はっ!』』
ガチャ
「到着だ」
馬車の扉を開けたのは騎士だった。車内は静けさが漂う。この騎士が次にどう動くのか護衛が目を凝らし何が起こっても俺達を守るぞという意気込みが窺い知れる。頼もしいなこの人達。母さんは‥…謎の余裕をかましてた。
「魔封じを外すから早く出ろ」
「「「「…‥‥」」」」
自ら魔封じを解除するだと? 誰もが戸惑いを隠せないでいた。こいつが手荒に護衛を縛り上げた男と同一人物だと? 人が変ったようにこの身を自由にするとは。唖然としたのは言うまでもない。
「アレレ? 攻撃してこないんですか? なあんだ。打って出てきたら面白かったのに。おい、お前はもういい。大人しく後ろに控えて於け」
騎士の後ろから男の声が。騎士に対して命令口調だから上の者だと思うが副団長の声とは違う。勿論、ダルでもない。そうなれば‥…
案の定、騎士の代わりに顔を見せたのはあの御者だ。さっきの声は此奴か。
「ちぇ、この男を盾にしたのになぁ‥…はぁ、残念」
誰も聞き取れなかった物騒な言葉が男の口から洩れていた。
『騎士が従いましたね』
『やはり支配系か‥‥奥様、お嬢様、ここは我らが』
『アッシア語? へえ懐かしいな。公爵様はアッシアなのか』
御者が当たり前の顔で会話に加わるが此奴は話せたみたいだ。
『‥‥お前、この言葉が分かるのだな』
『ああ勿論、帝国人だから言語は嗜む‥‥ええっとぉ、あのう、すみません俺、敵じゃないんで。その物騒な顔止めて貰えませんか? 話辛いったらありゃしない。はぁ‥‥説明しますので付いて来て下さい。あっそうそう、騎士は逆らわないから大丈夫。それにここは俺達だけしかいませんよ』
御者は俺達の警戒に気が付いたか安心させるように言葉をくれるのだが不穏さは募った。余計に怪しんじゃうよ! でも怪しいからと何時までも疑っていれば結局困るのは俺達だ。車内の狭い空間では碌な抵抗も出来ない。意を決して御者の言葉に従うと決めた。
車外に出て魔封じを解除されたが無論、俺達は攻撃をしない。帝国軍人の可能性がある以上迂闊な事は出来ないのだ。‥‥してもいいけど後始末が大変だし下手すれば国際問題に発展しちゃう。話し合いで済むのならそれでいいじゃん。
『ここは‥…』
馬車を降りて見渡せば俺達は小さい集落? じゃないな‥…廃村っぽい雰囲気の見すぼらしい建物が数軒並んでいるだけの人の気配のない村にいた。
『ただの廃村です。レディが気になさる事ではございません。此方へどうぞ』
気になったのは俺だけ? 『この村は‥‥』とボソッと呟く護衛にはこの場所の見当が付いたんだ。
『こんな場所で申し訳ないですが人目を避けるには丁度良いのです。それに長らく車内に居たのですからお身体を少し休めた方がいい。ここには休憩の為に寄っただけです』
案内された家屋に入り俺達は御者の言葉に甘んじた。馬車に揺られること数時間、身体が凝って正直疲れていたから車外に出して貰えただけでもありがたい。
無人の家だから埃っぽいのは仕方ないよね。でもちょっとイヤかも。我儘言う訳にはいかないから我慢するけどさぁ‥…躊躇っちゃう。
サッと椅子に布を敷くジェントルマンな一面を見せてくれた護衛は素晴らしい。無事に帰ったらご褒美あげなきゃ! ねっ、母さん。
「公爵夫人にお嬢様。それに護衛のお二方、止むを得ない状況と言えど我等の非礼をお許し下さい」
二人の男が頭を垂れ片膝をつき謝罪の姿勢で許しを請うてきた。いきなりは止めてよね! 突如跪かれたら驚くし!
『頭を上げなさい。それでは話も碌に出来ないでしょう。これは命令です、頭を上げなさい』
身分が上の者に強く出られては彼等も従うしかない。言われるまま顔を上げる二人…‥はれれ? 一人は御者だよね。もう一人は‥‥誰こいつ? そこには、めちゃくちゃ顔の良い男が。そうイケメン兄さんが片膝ついて謝ってんの。その様がとっても似合ってて‥‥腹立たしい。ダレヤネンオマエ。
『先程の御者と貴方は? その装いはダルと同じですね』
見知らぬ男が現れたのだ、また護衛の緊張は高まり警戒心を露に睨む。
『はい。ダルでございます。普段は変術の魔道具を着けておりまして、これが素顔でございます。先程かなり魔力を消耗したので魔道具を外したのです』
えええええ?! うっそお~! ダルってばめっちゃイケメン!
これは裏切られた時よりショックが大きい! イヤ、今も裏切られた! ちょっともっさいおっさんのダルさんが! 平々凡々凡庸顔のダルさんが! カッコイイお兄さんだったなんて‥…ショック大だよ。
俺もショックだけど護衛達もショック受けてた。仲間~!