嵌められた?
「ふぅ‥‥‥仕方がありません。速やかにご移動願います」
折れたのは副団長だった。
「悪いわね。そうさせて頂くわ」
お目溢ししてもらえるのか。ありがたいね。
副団長が「邸の外にも騎士団の者がいるので先導します」と請け負ってくれた。
では、お言葉に甘えて‥…。
小門を抜けると本当に騎士団達がいた。五人だ。副団長らと合わせると九人か。
外で待機していた騎士達は俺達を知らない。警戒しているのが分かる。こちらの護衛とダルさんもピリリと緊張が走る。
うわ、こっちまで緊張する!
「公爵夫人、馬車は如何なさいましたか。宜しければこちらでご用意致しましょうか」
「あら、お気遣いありがとうございます。ですがお気になさらないで。ちゃんとございましてよ」
「左様でございましたか。では馬車前までお供いたします」
「おい、お前達道を開けてくれ」
「副団長‥‥その方々は? 宜しいのでしょうか」
「ああ、私が身元の保証をするので構わない。そうだな三人を残し後は私について来るように」
「‥…成程、了解致しました。おい、お前達は残って見張りだ。早くしろ」
「「「はっ!」」」
「副団長様、お供は宜しゅうございますのよ。わたくし共だけで‥‥」
「申し訳ない。貴女は謹慎中の御身分ですので自由に出歩かれると困ります。ここは我等の指示に従って頂きます。ではお邸に向かいましょうか」
有無を言わせぬ圧は致し方ないか。禁を破ったのは此方だし。護衛も剣に手を掛けないでよ。ここは穏便に。
ジオルドが心配だけど、聞いていいものか躊躇っているとダルさんが聞いてたわ。流石、侍従。
邸から少し離れた場所に馬車はあった。御者? かな人がいる。
だけど一台しかない。ダルさんが御者台に座ったとして護衛二人は? 母さんと俺と一緒に中に? 俺が呑気にどうするのか考えているうちに人が振り分けられた。ダルさんは御者と、護衛は並走するらしい。
わぁ大変だ。
騎士団の人もか? こいつらどうするんだ?
「えっ?!」
「ひゃあ!」
「うっ!」
「な!」
疑問に思う間もなく俺と母さんは騎士達に捕まえられ首に短剣を突きつけられた。護衛達が抜刀したが人質となった俺達の所為で身動きが取れない。
余りの出来事に一瞬思考が停止した。えっなんで?
騎士団に手荒に扱われる理由が分からない。
「な! 貴方方! 無礼ですよ!」
母さんゲキオコです。ヤバいって母さん魔封じの道具着けてないよ!
護衛達も非礼な騎士達に抗議しながら俺達を取り返そうと詰め寄る。
「お前達、動くな! 護衛対象を傷つけられてもいいのか!」
護衛は剣の矛先を向けてはいるが動けないでいる。俺も母さんも攻撃しようと思えば出来るのだが‥…魔力攻撃となってしまうから躊躇してしまう。
王国内での魔法攻撃は禁忌。身バレした今、やれば公爵家が処罰される。領地だってどうなるか。そう考えると迂闊に攻撃出来ない。
…‥ヤバイ、母さんが。お願い誰か止めて。やだー攻撃しないでよ母さん!
「早くしろ!」副団長の焦った声だ。
「あ、」
「無礼ですよ! 止めなさい!」
「奥様! お嬢様!」
ガチッ! ガチッ!
後ろから近付いて来た騎士に魔封じを着けられた。こいつら用意していたのか!
用意周到さに、もしかしたら嵌められたのかと勘ぐってしまう。
現にダルさんと御者は平然と俺達を眺めてままだ。顔色どころか表情を崩すことなくだ。
…‥ああ、嵌められたんだ俺達。




