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転生先は小説の‥‥。  作者: 久喜 恵
第一章 攻略対象一人目 正しい第一王子の取り扱い方。
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人騒がせな断罪イベント

「レティエル! お前との婚約は今日をもって破棄だ!」


そう声を張り上げたのは婚約者のクリスフォード王子。

この国の第一王子である。

会場である広間に響き渡る王子の声にはどこか侮蔑と嘲りが混じっていた。


レティエル・ザックバイヤーグラヤス。この国の公爵家の令嬢だ。


王子の意表を突いた言葉に驚いた‥‥わけではない。

時と場所を選ばない王子のおバカぶりに呆れたのだ。


「クリスフォード様、今のお言葉は?‥‥この場では不適切だと思いますが‥‥」


それとなく窘めてみる。手にした扇子で口元を隠して震える声で返答した。声だけでなく身体も小刻みに震えてしまった。


‥…面白過ぎて!!


こんなに笑いを堪えるのが大変だとは。くぅっ! なんてこった!


身体の震えを誤魔化すために扇子を手にした反対の手を強く強く爪痕が掌に残るのではと思うほど握りしめた。でないと腹を抱えて笑ってしまう。


ふっふっ、ふぅ~落ち着け落ち着け。まだだ、まだこれからだ。

笑うな! 耐えろ! レティエルーーー

表情は悲痛で歪んだ‥‥わけではない。

内心笑いを堪えるのに悶えに悶えていたのだ。



「ふん! 聞こえなかったのか。お前は分不相応だから破棄をすると言ったのだ。わかったか! 私にはお前よりもふさ「はい! 喜んでお受けいたします!」‥‥なにぃぃ」 


あっ、思わず王子の会話、遮っちゃったよ。これ不敬にならないよな? 長年の苦痛と柵から解放される喜びで思わず王子のセリフに被せてしまった。


あちゃ~まずい。不敬だと騒がれる前に何とかしないと。こうなりゃ、勢いで誤魔化すか。何事もなかったように表情を取り繕い、今が正念場だと気を引き締めて王子に過去最高の作り笑顔で、言い放った。


「謹んでお受けいたします」


「はっ?!」


‥‥王子、何故に驚く。あと、どうでもいいけど顔、取り繕えよ。


「ではクリスフォード様の憂いを払拭するためにも今この場を借りて手続きを行いましょう。ええ、そりゃもう迅速に!」


「えっ? レ、レティエル? なにを‥‥?」狼狽える王子。


ん? どうした馬鹿王子。オロオロするなみっともない。言い出しっぺはお前だ。責任取れよ。近くの令嬢に目配せると何処からかサッと書類を取り出し恭しく差し出してくれた。ありがとう。


「なっ?! なんだ…それは!」


うざい王子。思い通りに行かずパニくるなよ。

だが、そんな王子には塩対応で。気遣いや遠慮はいらない。


「祝賀会にお集まりの皆様。今宵の趣旨と違って非常に心苦しくて申し訳ないのですが。殿下のお言葉です。何やら見世物のような気も致しますが、何分殿下からのお言葉ですのでこの場を借りたいと思いますの。それに丁度、神殿の方々がいらっしゃいましてよ。殿下は迅速な対応をお求めですって。ご対応頂けますかしら神官長様」


言い出しっぺは王子ですよ責任は王子に、と念を押した。当たり前だ己への火の粉は払う。用意した書類を『さあ、読めよ』と言わんばかりに王子に突き出す。



「王族のご希望とならば致し方ありません。執行致しましょう」


名乗りを上げたのは神殿の神官長。事前にお願いして懇意な神官長に来てもらってたのだ。


‥‥神殿への寄付金、奮発したし。


王子を嵌めるのに努力と財力は惜しまない。用意周到、死角はない。



ここで神官長に登場してもらったのには理由がある。

この国の婚約はちょっと特殊でそれは『婚姻の契約』と呼ばれている。

婚約は『神からの祝福』を受けることで締結する。それは‥‥今はいいか。

職位が神官長以上の神殿関係者の先達で祈ってもらう必要がある。縁切りの場合も祈りが必要なんだって。マジメンドクサイ。


王子との縁切りに躊躇いは無い。是非ともブチ切って!

喜び勇んで神官長にお願いをしたのは内緒の話。


しかしまさか本当に断罪イベントをやるとは。

祝賀会は学園卒業者に向けてのイベントなのに。悪役令嬢の断罪イベントにするんじゃねえよ。馬鹿者が。

仕方ないね我が身とお家のためだ。筋書通り進めるとしよう。


王子は突然現れた神官長と突き出された書類と見比べ予想外の展開に動揺して目がキョドってる。おいおい。威厳もクソもねえな。


「な、なんだ…これは‥‥」


王子は感情を隠すことも忘れ震える手と声に怒りを滲ませていた。


そう言えばこいつは子供ん時から思い通りに行かないと直ぐ怒っていたわ。相変わらずな態度の王子に呆れが隠せない。



「何と、と申されてましても。お読み下されば一目瞭然かと。クリスフォード様はご多忙過ぎて必要な書類のご用意が出来ないと思いまして僭越ながらわたくしが揃えて差し上げましたの。何か問題がありまして」


残念だったな。詰めの甘い王子を小馬鹿に見据え煽る。


「レティエル! 俺を馬鹿にするのか! 明らかにおかしいだろう。なぜこの場に神殿の者がいる。ここは学園の中だぞ!」


いや、お前馬鹿だし。それに神殿の者が学園から招待されるのは恒例だろ。何を今更。呆れた表情を隠すことなく神官長に目配せする。ちょっとウインクっぽいかも。


「これはこれはクリスフォード第一王子殿下。毎年学園長殿の名で神殿関係者が招待されているではありませんか。まさかお忘れに?」


王子のお馬鹿は健在だ。うける。



「レティエル様、ひっひどいわ‥‥」突如、か弱げな女の声が。


へっ‥‥誰だ? 今この場で公爵令嬢の自分に声を掛けることができる者は王子と神官長だけだ。予想外な声に驚いた。

声の主に視線を送ると、そこには王子の腕に縋りつく女がいた。

ああ、そういえば、いたっけこの女。アホらしくて視界から外していたわ。

か弱げな声とは裏腹に睨んでくるその目には憎悪が。


うひぃー。睨むなよお嬢ちゃん。こえーわ。


この女はマリエラ・ツゥエルバーグ男爵令嬢‥‥ヒロインだ。


出たな天敵ヒロインめ。


緩くウェーブのかかったピンク系の柔らかい髪。小柄で華奢な体躯にどこかか弱げで守ってあげたくなる。可愛らしい容姿と甘え上手な態度の相乗効果で男の受けは良かった。女の子達からは顰蹙を買っていたな。

あと、胸は大きい。これ大事。


‥‥男の自尊心と庇護欲を掻き立てる女。だが内面は強かで欲深い女。


甘っちょろい坊ちゃんには見分けられないか。この手の女は男を食いもんにするっての。婚約者のいる男に言い寄り誘惑していた男爵令嬢の評価は辛口になる。『女の敵!』であり『男の敵!』だよお前は。それと勝手に口出しするんじゃねえよ。サクサク終わらせる予定を邪魔するこの女はうざい。


「ク…クリスフォード様になんて酷い‥‥」


下位貴族が高位貴族に許しもなく口を聞くとは礼儀知らずも甚だしい。おまけに王子を様呼びしている。失礼極まりない。


王子を馬鹿にしたのは神官長だと思うが‥‥しかし、この女の対応を間違えるとややこしくなるな。どうしたものか‥‥


「マリエラ。君は優しいな。私を気遣ってくれるのか」


どうやら思春期王子の気分が晴れたようだ。イイ笑顔で男爵令嬢と見つめ合っている。‥…嬉しそうだな、王子。後でやれよ。


時間の無駄。マリエラは無視。


「さぁ。クリスフォード様。お手元の書面の字は読めました‥‥あ…いや、お読みいただけましたか。ならさっさと、サインをお願いいたします」


「だから、何だと言っているのだ! サインとは‥‥」


どうやら今、目を通したようだ。‥‥王子、遅いし察しが悪い。


「レティエル様。ひっ酷いですわ! わたくしのこ‥‥」外野の女が騒ぎ出した。うざい。


この女、うるさいんですが~と目で表現すると周りの貴族達が意をくみ取って加勢してくれる。助かるわ~

何処となくヒソヒソコソコソ囁き合う声が波の様に広がりゆく。


「‥‥まあ、男爵家では躾がなされないのかしら」

「えぇ。これだから身分の低い者は嫌ですわ。みっともない」

「王子には婚約者がいるだろうに」

「あの方、殿方には馴れ馴れしいのですの」

「まあ! はしたない!」


囁きは人数が揃うと結構な音量となってこれはこれで煩いのだが、()の男爵令嬢を黙らせるには効果的だった。


羞恥で顔が赤くなっている。自覚があって何よりだ。


王子は書類に集中したのか周囲の様子に全く気付いていない。お前、それでいいのかボンクラ王子。周囲の動向、気にしろよな。


「おい! 誰だ今言ったやつは!」

「…マリエラ、気にしないでくださいね」

「貴女の素晴らしさを妬む者の言葉なんて」

書類を読むのに忙しい王子の代わりに側近候補達が女を慰めだした。


いやいやいや! 君らもどうかと思うよ。皆さん婚約者いるでしょ? 

何しれっとかばってんのよ。呆れて取り巻き連中‥‥もとい、王子の側近候補達を見やる。彼等には立派な婚約者達がいる。その婚約者をなおざりにして身持ちの悪い男爵令嬢に入れあげている。男共は相変わらず女をちやほやと褒めそやしている。馬鹿者。お前らも終わったな。ご愁傷様。まぁ、連帯責任な。王子のお守りを怠るからだぞぉ。彼等の‥‥あまり遠くはない未来の姿に憐憫の目を向けた。




さて、仕上げにかかるとするか。引導を渡すべく王子に詰め寄る。


「ご覧下さいましたか。クリスフォード様‥‥いえ、クリスフォード殿下。その書面に記載されていることは事実でございますね。素直にお認めなさいませ。ではサインをお願いいたします」

ここぞとばかりに王子に迫る。圧かけまくりで。


「レ、レティエル‥‥なぜお前が‥これを‥…」


王子の言葉が詰まる。必死に言い訳を考えるが事実を言い当てられ動揺が隠せていない。悪巧みするなら腹芸覚えろよ。



「クリスフォード様、どうなさったのですか? その書類がなにか?」

「クリスフォード様、如何いたしましたか?」

「レティエル嬢。王子に何を!」


顔色の悪い王子に目敏く気が付いたマリエラが心配顔で声を掛けたようだが相変わらず馴れ馴れしい。その彼女の声に連れられた側近候補どもも騒ぎ出してうるさい。


お前ら騒ぐな! 


「あら? 何かとは? もしやその書面を怪しんでいらっしゃるの? 嫌ですわ何も怪しい事などございません。お疑いでしたら皆様の前でお読みいたしましょうか」今日一番の笑顔で提案をしてみた。


「まっ待て! 待つのだレティエル! 読み上げるのはならん! こっこんな事実無根な書面など!」王子が怒鳴った。


こうなると広間には気まずい空気が漂う。


先程までのざわつきが嘘のように落ち着きを取り戻していた。彼等は王子達の行く末を見届けようと固唾を呑んで見守っている。



「では殿下。書面の審議を表沙汰にされたくなければ、さっさとサインしてください。往生際が悪いですわよ。わたくしのサインの横にしてくれればいいのでささっとしろよ」


あっ、いかん。つい口調が乱れた。王子達の相手は煩わしくて素が出たわ。



曇った顔の王子は一体何を考えているのやら。どうせ禄でもない。

ここいらで仕留めるか。


そっと王子に耳打ちして置かれた状況を正しく理解させる。


「殿下‥‥大人しくサインした方が身のためですよ。陛下にバラされたくないでしょ? こちらは証拠を揃えているんだよ。悪あがきはやめときな」


王子は顔面蒼白で無言だ、まるで人形のように微動だにしない。

流石に大人しくなったか。馬鹿だな~こいつ。固まったままの王子はそのまま放置。



これでイベントクリアできるかな‥…

固まる王子を見ながら過去を思い返していた。


レティエルは前世の記憶持ちだ。


4歳の誕生日に前世の記憶を思い出した。

前は男だった。今では記憶はあやふやだが男で齢は若くもなく老人でもなかったと思う。仕事に明け暮れていたと朧げな記憶だが妙な確信があった。


サブタイトルの変更と改稿しました 9/28



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