本心
ほんのちょっとだけすれ違い。
「あの…」
「うん?」
繋いだ手を離して息を吸う。大丈夫、きっとちゃんと言える。
「…別れましょうか。」
「…え?なんで?…どうしたの急に。」
目を見開いて驚く彼に曖昧な微笑みを返す。
「…別れたいの??」
「そうした方がいいのかなと、思ってます。」
目を見て話そうと思ったけど、彼は顔を俯けてしまった。
「好きじゃなくなった…?」
「違います!好きです。」
これ言わない方がよかったかな、でもそんな泣きそうな声出されたらしょうがないか。彼が歪めた顔を私に向ける。
「じゃあ、なんで?」
「…最近、忙しいでしょう?」
「それはごめん。本当に申し訳ないと思ってる。あまり会えないのが嫌ならもっと会えるように頑張るから、だから」
「そうじゃなくて!私が重荷になってるんじゃないかと思うんです。」
「え?」
「会えないのはもちろん寂しいですけど、それは仕方がないってちゃんと分かってます。だからそうじゃなくて、今みたいに、私に気を遣わせてばかりだなって思うんです。今日だって、せっかくのお休みなのに私のために時間使わせて、疲れさせちゃってるんじゃないかとか、本当はもっとゆっくりしたかったかなとか、色々考えると申し訳なくなるし、無理して会わなくても良いとか私が言えたら良いのかもしれませんけど、それどころかこのままだともっと連絡してほしいとか余計重荷になりそうなことを自分が言い出しそうで嫌なんです。だから別れた方がお互いに良いと思って。」
「やだ。」
「…え?」
彼は子どもが拗ねている様に唇を尖らせていた。
「今日、俺がどれだけ会えるの楽しみにしてたか分かる?本当に本当に楽しみにしてたんだよ。今日があるから忙しくても大変でも仕事頑張れた。今日のために頑張ろうって思えた。重荷じゃないんだよ。むしろ居てくれなきゃもう何も頑張れない。生きていけない。君は俺の唯一の癒しなんだよ。“もっと会いたい”とか言われるのだって相手が君ならむしろご褒美じゃん。君に我慢させてるのは俺なんだからもっとわがまま言ってくれて良いんだよ。愚痴でも文句でもなんでも。」
本当は別れたいわけじゃない。でも気を遣わせてるのも自分が気を遣ってるのも苦しくて辛くて、疲れたから逃げてしまいたかった。きっと彼も私との関係をめんどくさく思い始めてると思った。だから私が言えば別れることになると思ったのに。
「だからお願い、別れようなんて言わないで。」
彼の目から涙が流れた。
「わかった?」
そんな泣きながら請われたら頷くしかないじゃないか。ずるいよ。
ありがとうございました!