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第五話 嘘は方便

「治ってるわ。彼女の傷も、それに呪いも……」

「そうか、たいしたスキルだな、こいつは」


 目の前で起こった現象に、心底驚いているサリア。

 俺も自分の右手を眺めて、信じられない気持ちでいた。


「どういうことなの? あなたのスキルは、ただ衣服や装備を破壊するだけじゃないってこと?」

「そういうこと、らしいな」


 女の体を解放しろと、女神の声はそう告げていた。

 俺はしみじみ、右手をぐっと握りしめた。


「解放こそが、ヌードなんだ……」

「いや、わけわかんないキモい(おぞ)ましいマジやめて」


 ・

 ・

 ・


「うんっ……う……」

「良かった、目を覚ましたわ」


 意識を戻した褐色肌の女のもとに、サリアが駆け寄った。


「ここ、は……、この服、は……」


 女は、自分の状況をひとつひとつ確認していく。

 彼女には、寝ているうちにここの作業着を着せてあった。


「体に痛みは? 右の目は、ちゃんと見えてる?」

「ああ……」


 女が頷く。

 やはり俺の【強制ヌード】は、女の体を完璧な状態に治癒していた。


「落ち着いて聞いて。私たちは敵じゃないわ」

「わかって、いる。少し、だけど、覚えている」


 褐色の女は体を起こすと、まだ気だるげな体をおして、俺達の前に(かしず)いた。


「ゾチャリ族の戦士リンドゥ。悪しき呪縛よりお救いいただいたこと、心より御礼申し上げる」


 リンドゥというのが、この女の名であるらしい。


「なあ、ゾチャリ族って?」

「北の大陸にあるビエルタ山脈地帯で生活している山岳民族よ。怖ろしい魔物が多く棲まう山脈で、だから、ゾチャリ族の戦士は、この国の騎士10人分の戦力に匹敵すると言われてるわ」

「北の大陸……もしかして、俺が行くべき余所の大陸ってのはそこなのか?」

「いいえ、おすすめはできないわね。全体的に魔物が強いし、なにより、1年のほとんどが雪と氷に覆われた大地よ」


 サリアは俺への説明を行ってから、リンドゥの身の上を案じた。


「ところでリンドゥ。あなたの体に刻まれていた呪い。あれについて、私たちに話すことはできるかしら?」


 リンドゥは、申し訳なさそうに首を振る。


「ご心配痛み入る。だが、それはできない。私がこの大陸に渡った理由に絡んでくる。一族の掟で、これ以上を説明することは許されない」

「そう……だと思ったわ」


 王女というのも伊達じゃない。

 サリアはゾチャリ族の事情を、詳しく把握しているようだ。


「それなら、あなたは一族のもとに戻ったほうがいいわ。戦士が余所で害されたとなれば、彼らは戦いの準備を始めかねない。どういう結果が生まれるにせよ、詳しく事情を説明すべきよ」


 再び、リンドゥの首が横に動く。


「私は戻れない。あなたたちに裸体を晒した。呪いを解いてくれたことは感謝している。だが、重罪人となった私を、一族の者は受け入れない」


 裸を見せちゃダメってのは、この国だけの風習じゃないらしい。

 そういやあんまり気にしてなかったけど、サリアはずっと『この世界』って説明してたか。

 ……でも、それなら逆に、実は問題ないんじゃないか?


「その心配はしなくていいぞリンドゥ。俺は医者だからな」


 重苦しい空気を壊すように、俺は明るく言い放った。

 サリアは言っていた。

 『裸を見せてもいいのは、両親と同性の兄弟姉妹、それに配偶者と、あとはお医者さん』だと。

 堂々と嘘をついた俺のことを、サリアが慌てて壁際まで引っ張っていく。


「何言ってんのよあんたは!」

「あながち嘘でもないだろ。傷を治したんだから、医療行為だ」

「そういう問題じゃないわ。医者になるには国家資格が必要で、身分詐称は禁錮刑なのよ」

「ばれなきゃいいだろ。それとも正直に言ったほうがいいか、サリアのほくろは左脇の下と、右の胸――」

「わー! わー!」


 謎のやりとりを始めた俺達のことを、リンドゥはぽかんと眺めていた。

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