第四話 モザイクとは、神秘のヴェールと、見つけたり
木こりの小屋には、何着か作業服が置いてあった。
「予備の仕事着か。ちょうどいいし、俺も着替えていこう」
向こうの世界の服は目立ちすぎる。
町に行ったら、即効で召喚者だと知られてしまう。犯罪者扱いはごめんだ。
「ああ、念願の服、服、服……ちょっと大きいけど、これで肌が隠せるわ」
サリアは神に感謝するように、ありがたそうに服を着込んでいく。
「言っとくけど、怪しい動きをしたらまたスキルで裸にひん剥くからな」
「もうしないわよ。あんたなんて、さっさと余所の大陸に送ったほうが国のためだわ」
この小屋には、実は、俺たちの他にも人がいた。
(ヒト……フタリ……フウフ……?)
憎まれ口を叩き合う俺たちのことを、密かに見つめるひとつの目。
その目は、天井裏の僅かな隙間から、小屋に入った俺たちを、憎しみの瞳で見つめていた。
「もしも、この服を消してごらんなさい。あなたも私の案内を得られず、路頭に迷うことになるのよ」
「はっ、甘えよ。その時は、別の誰かをスキルの力で――」
(フウフ……オット……コロス!)
ガタンと、上から音がした。
「何だ!?」
何かが、いや、誰かが降ってきた。
褐色の肌に、紅い左目。
右手には斧を振り上げている。
「シネェェェ!」
「【強制ヌード】!」
襲撃者に、俺は咄嗟にスキルを使った。
斧がへし折れ、着ていた服が消し飛んだ。
「ヒアッ!?」
「うおっ!?」
襲撃者は、そのまま俺の上へと倒れこむ。
受け止めきれず、俺は床へと背中から倒れた。
すると手に、ふにふにと柔らかな感触。
「あれ、こいつ、女……?」
念のため、もうひと確認。
この手触り、この弾力。
「うむ」
「『うむ』、じゃありません!」
サリアにツッコミを入れられて、やむなく俺は手を離した。
天井裏から降ってきたのは、20歳前後の女だった。
白色の髪に、褐色の体。
その体には、切られたような無数の傷跡。
腹部や背部、そして顔。
傷は、右の瞳にまで及んでいた。
「ひどい……これ、呪いの儀式を受けた跡だわ」
「呪い?」
跡は、切り傷のようでありながら、体全体を張り巡っていて、何かの図形のようだった。
「心を縛って、ひとつのことしか考えられなくしてしまう。即席の暗殺者をつくるのに用いられる禁忌魔法よ」
この女が俺たちを襲ったのは、呪いで受けた暗殺命令の内容と合致するものがあったためだろうと、サリアは推察した。
「でも、こんなところに潜んでいたっていうことは、彼女はたぶん、意識が少し残っているのよ」
「どこかから逃げ出してきたってことか」
確かにひどい有様だ。
特に、右目の傷は相当に深い。
おそらく見えてはいないのだろう。
「呪いを解く方法は?」
「え? まさか助けたいの?」
愕然と驚くサリア。
この女、俺をなんだと思っていやがる。
「だ、だって私や騎士たちは、容赦なく裸に剥いたじゃない」
「お前らが俺を殺そうとしたからだろうが!」
「この女性だって襲ってきたわよ!」
「お前らは自分の意志で襲ってきただろ!」
むかついたせいか、右手に光が集まってきた。
それを見て、サリアが大きく飛び退いた。
「教えるから! 呪いは傷を直せば解けるはずよ!」
「どうやって治す?」
「ここでは無理よ。町に出ないと。でも……」
でも、誰にどうやって説明する?
俺達の身分は明かせない。
この女の体を見たことだって話せない。
話したら、こいつは結局救われなくなる。
「八方塞がりかよ。なんとか、この呪いから解放してやる方法は――」
――まてよ、『解放』、だと?
思い出すのは、女神の言葉。
『今こそスキル【強制ヌード】を発動し、女性の体を解き放つのです』
女性の体を解き放つ、その意味が、言葉通りであるのならば。
「試してみるか」
立ち上がり、俺は呪われた女に右手を向けた。
「一体何を……?」
訝るサリア。
すでに相手は全裸でいる。
「こんなのは裸じゃねえ。呪いなんつう、ケチなモザイクがかけられてんだ」
俺は、右手に想いをぶつけた。
「モザイク自体は否定しねえ。だがな、それは作品を汚さねえモザイクだけだ! その先にある不可侵の領域を、神秘の聖域に高めてくれるモザイクだけだ!」
「本当に何を言ってるんですか!?」
光が溢れる。
俺の思いが輝きとなって、右手を伝って力となる。
「くらえ呪い野郎! 必殺、【強制ヌード】ォォォォォ!」
まばゆい閃光。
迸るほどの強い光が、奔流となって小屋を満たした。
「ハァンッ!?」
女はやけに色っぽい声で鳴き、その瞬間、体から一切の傷が消し飛んだ。