第三話 脱衣は神のいたづらか
俺たちは、(俺にとって)安全な町を目指して、森中の道を歩いていた。
「嘘つき! 言うこと聞いたら裸にしないって、そう約束したのに!」
「お前が俺を嵌めようとしたからだろうが!」
「案内はちゃんとしてたわ!」
「そんな詭弁が通用するかよ!」
サリアは今、俺の上着を一枚羽織っただけの恰好だった。
一枚めくれば、その下はすっぽんぽん。まさに生まれたままの姿である。
歩くたびに裾がずれて、可愛いおしりが見えそうになる。
「だいたい、よくこの期に及んで反抗的でいられるな」
「叫んでいないと恐ろしくって死んじゃいそうなのよ!」
他人に裸を見られることが大罪のこの世界。
サリアは今、大いなる禁忌を犯している。
もしも誰かに見られてしまえば、王女の身であろうと、強制収容所とやらに送られてしまうという。
「裸を見せてもいいのは、両親と同性の兄弟姉妹、それに配偶者と、あとはお医者さんだけなんだから!」
なんという厳格で面倒くさい決まりだろうか。
……いや、待てよ。
ひょっとして、スキルで裸にひん剥いてから「俺の妻になれ」って脅したら、言うことを聞いて結婚するしかないのだろうか?
「そんなことしたら、神のお怒りに触れて生物的に死ぬことになるわ」
物々しい雰囲気。
比喩表現で言っているのではなさそうだ。
「その神様ってのが、裸禁止令を出してるってことか?」
「そうよ。絶対神メリチェトラス。この世界をお作りになった創造主にして、数多の神々を統べる頂上の柱」
世界を創造した神様の定めた絶対的なルールのひとつが、他人に裸を見せてはいけないって、なんじゃそら。
「神って言えば、変な声を聞いたな。このスキルを初めて使ったときに」
「声?」
「自分のことをエロトロの女神だとか、女の体を開放しろとか」
「エロトロ……?」
サリアはしばらく悩んでから、
「ひょっとして、女神エローラ=トローラ様のこと?」
「そうそれ。何の神なんだ?」
名前の通りエロの神、とか?
「詳しくは知らないわ。神話の伝承にも名前くらいしか残ってないし」
「なんだ、あまり有名じゃないのか」
「神としての位は低いはずよ」
この世界には多くの神がいるという。
世界という存在そのものを生み出した絶対神を筆頭に、海の神、空の神、大地の神の三大神。更には各々の種族に各々の 神。自然現象をつかさどるたくさんの精霊神。
数え上げればきりがないそうだ。
「女神エローラ=トローラ様も、本当はなんらかの現象をつかさどっているのだと思うわ。私たちが認識できていないだけで」
「脱衣スキルを与える女神がつかさどるものねえ。開放感とか?」
白い目で俺を見るサリア。
もっかい剥いたろか。
「っと、おい、あそこに小屋があるぞ」
サリアに指でその位置を差し示す。
あったのは、古めかしい木組みのボロ小屋。
「木こりの仕事小屋だわ。今は伐採の季節じゃないけど、着るものくらいあるかもしれないわ!」
目を輝かせ、サリアは一目散に走って行く。
「急に走るな。危ないぞ――」
注意虚しく、サリアは木の根につまずき、すってん転ぶ。
「あ痛っ!?」
転んだ拍子に大股開き。
色々なものが丸見えだ。
「ううう……」
涙目のセリア。
可哀相だし、さっさと何か着せてやろう。