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第二話 駆け引きは脱衣とともに

「なあ、町はまだなのか?」

「あと1時間くらいかかるわよ」


 勇者召喚の祭壇を脱出した俺は、人質にした王女サリアと、森の中を歩いていた。

 もう3時間ほどは歩いたのに、景色は一向に変わらない。


「祭壇はベゼルの森の最奥なの。馬車が通れるような道はないから歩くしかないし、人のいる街からもかなり離れているわ」


 サリアは俺に対して丁寧な言葉使いをやめていた。

 反抗の精神というより、こっちが素であるらしい。

 そしてサリアは、決して俺の右側を歩かない。

 俺のスキルを、常に警戒し続けている。


 【強制ヌード】。

 右手に宿した不思議な光で、相手の着衣を破壊するスキル。

 裸が大罪だというこの世界において、こいつは最強の武器だった。

 相手を社会的に、完全抹殺することが可能となるからだ。


「しっかし、よく疲れないな。俺だって息が上がりかけてるのに」

「……もしかして、あなた、魔法が使えないの?」


 サリアはここまで、ずっと身体能力強化の魔法を使っていたそうだ。

 もちろん俺に、そんなものはない。


「魔法って、今すぐ使えるようになるものなのか?」

「急には無理よ。後々教えてあげるわ。しゃべりながらだとよけい疲れちゃうでしょう」


 俺を気遣ったふりをして、サリアは情報を遮断した。

 隙を見て逃げおおせようと、ずっと機を窺っているようだ。


(せめて俺を無知のままにして、チャンスを生み出そうってところか)


 でも、そんなことは認められない。

 サリアは俺の生命線だ。


 俺がこの世界で生き抜くためには、安全な場所まで案内させなければ。


「確認するけど、俺はどうあがいても犯罪者認定されちまうんだよな?」

「……そうよ。黒髪が召喚者というのは人々の共通認識。召喚された男が犯罪者になるということも、広く知らしめられているわ」

「どこかで頭巾か帽子を仕入れないとだな」

「街についたら、私が店で購入してくるわよ」

「そうやって、助けを呼ぶつもりなんだろ?」

「街の人たちを、危険には晒せないわ」


 おそらくサリアは嘘をついている。

 一国の王女ともあろう者が、俺という世界の脅威をそのままにしておけるはずがない。


 あるいは、どんなに犠牲を払ってでも、俺を殺害しようとしてくるはずだ。

 もしかしたら、すでに何らかの方法で、森の出口に軍隊を招集している可能性だってある。


(このまま主導権を握らせておくのは、よくないな)



 しばらく歩くと、木々が開けた場所に出た。

 泉が滾々と湧いていて、水路と給水所が整備されている。

 人の手が入った形跡があったことに、俺は感動を覚えていた。


「ちょっと休憩できないか。この水、飲めるんだろ?」


 答えより先に水ガブガブ飲みこんだ。

 ああ、超うめえ。生き返る。

 なんだか疲れも取れた気がする。


「……そうね。この泉の水には、疲労回復効果があるわ」


 残念そうに答えるセリア。

 俺が勝手に飲まなければ、「これは飲料水ではないわ」とでも説明したのだろう。

 疲労させ、罠にかける。

 出口に伏兵という俺の想像が、だんだん真実味を帯びてきた。


「ん? なあ、この先、道が3っつに別れてないか?」


 泉が整備されているように、ここからは道も人工的に慣らされていた。

 その道は、三方向に伸びている。


「そうね、でも、どれを通っても、最後は同じ出口に辿り着くわ。真ん中の道が一番の近道よ」


 澄ました顔でサリアは堂々と言い切った。


「ふうん。じゃあ、一番遠回りな道は?」

「右の道よ。そっちは少し荒れてるし、避けたほうがいいわ」


 ああ、よくわかったよ。正解が。


「よし、じゃあこの右の道を進もうか」


 サリアの肩がびくりと震えた。


「どの道を行っても出口に着くんだろ? だったら、別に遠回りしたって大丈夫だよな?」

「そ、そんなのは非効率よ。もっと合理的かつ理知的に、物事は勧めるべきでしょう」

「ふうん、そうだな。合理的かつ理知的に、か」


 俺は右手を揺らめかせ、サリアにじりじり近づいていく。

 サリアは「ひっ」と悲鳴を漏らし、うろたえながら後退った。


「考えてみたんだけどな、逃走や罠を警戒しながら進むより、絶対に裏切れない状況を作り上げておくほうが、遥かに合理的で、理知的で、効率的だと思わないか?」

「ま、待って。あなた、いったい何する気よ!」


 俺の右手に、淡い光が集まっていく。


「社会的な死って怖いよな。でもさ、こうは思わないか。もしも誰からも絶対に許されない状況が自分の身に起きたとして、そのことで社会的な死を迎えるのは、それが誰かにばれたときだって」

「い、いやぁ!」


 サリアが走って逃げ出した。

 魔法の力で、かなりの速度で疾駆(しっく)する。


「させるかっ、【強制ヌード】!」


 俺は右手を振りかざし、閃光の波をサリアにぶつけた。


「きゃあああああ!」


 サリアのドレスが弾け飛ぶ。

 白い柔肌が露出して、胸が、おしりが、白日のもとにあらわになった。


「ふうん、左脇の下にほくろがあるな。右乳の下にはふたつ。左ふくらはぎにもひとつ」

「ひああ!?」


 草の地面に倒れたサリアは、急いで体を腕で隠した。

 だが、自身の置かれた状況に、顔が絶望で曇っていく。


「俺はお前の裸を拝んだ。ほくろの位置まで把握した。さて、この事実を、一体誰に教えてやろうかな?」

「あ……あ……」


 ガタガタ震えるサリアを見下ろし、俺は下卑た笑顔を彼女に向けた。


「俺たちは一蓮托生だ。俺が犯罪者として捕まったら、お前の裸を見たと伝える。じっくり隅々まで視姦したと、詳しく詳しく説明してやる」

「こ、この、悪魔……」


 涙目になって、精一杯の抗議をする王女サリア。

 そんな彼女を、鼻を鳴らして一蹴する。


「それが嫌なら、今度こそ、安全な場所に案内しろ」


 虚偽も拒絶も許さない俺の剣幕に、サリアは折れて、悄然(しょうぜん)となって(こうべ)を垂れた。

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